#03

冷たい石造りの廊下は、午後の傾いた日差しで柔らかく照らされていた。

簡素な白い作業服に身を包んだ使用人たちが、こちらが近寄ると恭しく一礼し、作業を止めて道を開けてくれる。


ヨルダ達は護衛団一行として、王女の一室がある別館へと移動していた。

王女の左右には熟練の衛士が付き、ヨルダ達新人はその後方に配置された。しんがりを務めているのは、一際体躯の大きい中年の衛士だった。


祭儀室から出てしばし歩いた後、分館へと渡す長廊下に差し掛かった。基本的な配置について指示を受けた後は皆無言で、時折衛士がエリーゼを気遣うのみだった。

十人ほどの足音のみが、城の古い石壁に反響する。


「くく...へっへっへ」


突然、中年の大男が堪え切れないといった様子で笑い出した。何事かとヨルダが振り返ると、中年の衛士は隠すこともなくだみ声で爆笑していた。


「なんだよ、やらせてみりゃあ様になるじゃねえか、ルエラ」


同時に、周りの衛士までくすくすと笑いだした。……どうやら、笑われているのは先頭でエリーゼを支える女衛士らしい。


「勤務中です。私語は慎んで下さい。大体、新任式の読み上げは元々アール隊長の仕事じゃないですか。なんで私が!」


ルエラと呼ばれた女衛士は、心底不服そうに抗議する。


「部下に経験を積ませるのも隊長の仕事だからなァ。いい経験になったろ?」


対し、中年男...アールはけろりとして豪快に笑っている。......ということは、この男が隊長だったのか。

ヨルダは改めてアールと呼ばれた男を見る。

身長も肩幅も、常人の倍ほどあるのではないかと思うほどの巨躯。そびえ立つ岩のような存在感がある。彫りの深い顔立ちで、見上げると目元が影になって見える。げじげじの眉毛は半ば白くなっており、目尻のシワは深い。40歳半ばほどだろうか。


「もう結構です。二度とやりたくありません」


「つれねえなあ。新人坊主も、美人な先輩の声を聞けた方が嬉しかったろ、なあ?」


ヨルダの肩がばしばしと無遠慮に叩かれる。

......返しに困る質問だ。

確かに--パッチリと開いた黒目がちの目と、鼻筋の通った顔。癖のない綺麗な黒髪は肩に届かないほど短く切られており、端正な顔を引き立てている。

ルエラの顔をよく見れば、確かに可愛い顔立ちをしていたが。


見かねたルエラがアールを睨みつける。


「新人にちょっかいをかけないでください。先程から悪い見本を見せすぎです」


「なに、緊張してるからほぐしてやろうと思ってな。そうでもしねえと--」



空気を切り裂く音。そして、



キキィン!



突然、鋭い金属音がこだました。

一瞬遅れて、カラカラと乾いた音。見ればーー金属製の飛び道具が3つ、地面に転がっていた。


「--このお客さんに対応できないからな」

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