#02

現れたのは--ひとりの少女だった。


銀色の、少し癖のある長い髪がふわりとなびく。それは午後の陽光を受け燦然と輝きながら、か細い腰を優しく包むように伸びていた。

透き通るような青の瞳は、見ていると吸い込まれそうになるほど大きく、美しい。長い睫毛を伏せ、上品な純白のドレスに身を包んで入場するその様は、美しく儚い深窓の姫君そのものであった。


ヨルダはその美貌に心を奪われていた。

彼が今までに会った誰よりも美しいと断言できた。


--こんなひとが、いるのか。


......王族は、政治の場のみならず、祭典や巡幸など、様々な場に顔を出し、民に存在を知らしめることが仕事である。権勢を握る現王はもちろん、その王子、王女たちもそれは例外ではない。

そのため、城下に住んでいる者であれば平民であっても王族の顔はほとんど知っている。


しかし、その中でもエリーゼだけは滅多に人前に顔を出さず、その顔を知る者は貴族でも少ないという。

謎に包まれたまま、美しいという噂だけが一人歩きする--彼女はそんな、神秘的なベールに包まれた存在であった。


壇上の女性が一歩、王女の前に出る。


「エリーゼ様。この場にお姿を見せていただき、ありがとうございます」


彼女が一礼すると同時に、その場にいる皆が一斉に低頭した。


「.......いいってば、そんなにしなくて。みんなも、もういいよ。ごめんね」


沈黙を打ち破り聞こえてきたのは、透き通った、どこか儚い声だった。ヨルダがそっと面を上げると、美しい王女は軽く咳き込みながら、こちらをそっと伺うように見下ろしていた。


「3期生のひとたち、はじめまして。わたしがエリーゼです。守ってもらうのだから、お礼を言うのはこちらの方ね。よかったら、外の話をたくさん聞かせてください。......これから、よろしくお願いしますね」


そう、はにかむように笑って。幼さと儚さが滲むその声を聴き、ヨルダは思う。

この笑顔を--おそらく、俺は一生忘れないのだろう。この美しい王女のためなら、なんだってできる。

真剣にそう思ってしまった。そう思わせるほど、彼女の美貌と雰囲気には魅力があった。


ハ! と、新人3人の敬礼が重なった。


そのとき、王女がふいによろめいた。少し俯いたその顔は、よく見ればあまり顔色が良くない。下がっていた女性が心配そうに側による。


「エリーゼ様。無理をなさらないで下さい。本来なら、今日も休まれている筈なのですから」


「……いいの。わたしが出たくて、出てきたんだから。でも、そうね、部屋に戻ろうかな」


そう言って弱々しく微笑むと、王女は申し訳なさそうに目を伏せた。

そんな彼女を気遣わしげに見遣った後、女衛士は毅然とこちらを振り返る。


「では早速、あなた達に最初の任務を言い渡します。我々と共に、王女を部屋まで護送して下さい」


はい、とヨルダは思わず返事を返したが--はて。今日は儀礼だけで解散する予定だったはずだ。


「予定にはありませんが、仕事に慣れる良い機会です。とにかくついてきなさい」


その言葉には、有無を言わさぬ力があった。

理由を聞き返すことも出来ず、ヨルダたちはいそいそと指令に従ったのだった。

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