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トレバー製薬が開発した新薬は、チンパンジーを対象とした実験から、前頭葉の働きを活性化させる働きがあることがわかっていた。マウスを使った長期の投薬でも、大きな副作用はみつかっていなかった。人体への効果を確かめる被験者として、トレバー製薬は前頭葉に障害を持つ患者を探していた。
アーウィンは保護者として、トレバー製薬に対し秘密保持契約を結んだ。そこにはトレバー製薬が息子の治療に関して全面的な資金援助をすること、ならびにエステベス家への特別な援助に関する項目があった。くわえて、どのような事態に陥っても新薬実験に関する情報を外部に漏らしてはならないと記されていた。
この契約内容はマシューの担当医を介して説明された。ハイウェイでの事故でマシューが命をとりとめた経験から、アーウィンはこの医師への信頼が厚かった。事故前後での性格の変化についても疑念を感じており、脳検査の結果には納得感が強かった。
ポール・ウィルシャーをリーダーとする医療チームが結成された。一日に二回、静脈注射により新薬が投与され、面談、各種のテストと検査がくりかえされた。マシューとの感情的対立を深めていた父親は、病室を一度も訪れなかった。
外出許可を受理されたマシューが自宅に戻り、父親を殺害したのは治療が始まってから二ヶ月後だった。その日から前頭葉賦活剤の投与は中止され、いくつかの奇妙な症状を経てマシューは廃人へと近づいていった。
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