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 高校でマシューは、家庭が経済的に貧しい者や人種的マイノリティで構成された落ちこぼれ同士(outcasts)のグループ(clique)に属していた。一方、殺害された二人は運動部に所属しており、学内でも一目置かれる人気の高いグループ(jocks)に属していた。マシューたちは普段から貧弱な体つきや社会階級について侮蔑的な言葉を投げかけられており、小競り合いは日常茶飯事だった。

 その日、二階にあるカフェテリアのベランダで、マシューはスタン・ゴドフリーの頭部をコンクリートの床に強く打ちつけた。スタンは病院へ搬送され、その五時間後に死亡した。ボビー・ウィンスレットはベランダから突き落とされ、地下一階の通路まで落下、同じく頭部を強打して即死した。

 事件の直前、マシューが二人によって半ば強制的にベランダへと連れだされるのをカフェテリアの利用者が多く目撃していた。些細な言葉でも過剰に反応し、顔を真っ赤にして怒り狂うマシューの性格はjocksたちにとって格好の標的となっていた。ベランダから屋内へと戻ってきたマシューは放心した顔でカフェテリアの椅子に座り、それから頭を抱え、震えながら泣いていた。

 事件が新たな様相を示したのは、地元警察の聴取に同席したスクールカウンセラーが、マシューの傷に着目したときだった。ハイウェイでの事故以来、マシューの右眉の上にはへこみと傷跡があった。カウンセラーは過去の事例を思いだし、検査を行うよう提案した。担当した医師は、右前頭葉での大量出血がマシューの性格に影響を及ぼした可能性があると結論した。

 脳の障害が人格や性格を変容させ、犯罪に走らせた事例がある。一九六六年、元海兵隊員のチャールズ・ホイットマンはテキサス大学の時計塔からカービン銃と散弾銃でキャンパスを行き来する人々を射撃し、警察との銃撃戦の末に射殺された。時計塔にたてこもる前には、妻と母親を刺殺していた。遺体を解剖すると、脳からクルミ大の腫瘍がみつかった。ホイットマン自身、精神科医に頭痛がすること、暴力的な衝動に駆られることがあると事件前に相談していた。

 前頭葉は意志や集中力に関する働きをすると云われている。前頭葉を損傷した患者は、記憶力や知能については低下が観察されない。しかし倫理的判断や計画的な行動、イメージ連想や意志決定がうまくできなくなる。南カリフォルニア大学のA・レインらを初めとして、犯罪者に前頭葉の機能低下がみられる者が、一般人より統計的に多いことを示す研究が報告されている。

 前頭葉の損傷がどのような障害をもたらすかは、損傷の部位によって異なる。たとえばロボトミーと呼ばれる古典的な治療では意図的に前頭葉を傷つけるが、感情が鈍麻し廃人となることもあった。マシューの場合、倫理や感情抑制に関する部位を選択的に損傷したため、心に浮かんだことがそのまま表情や言葉、身振りに現れるようになったと推察された。

 巡回裁判所はマシューが家庭で極端なストレスを感じていたこと、高校では被害者たちによって普段から屈辱的な言葉や暴力を受けていたこと、脳の障害により衝動的感情をコントロールできない心神喪失状態にあったことを理由に、精神的な治療を中心とする更正プログラムを適用すべきと結論した。

 シカゴの精神病院にマシューは入院し、そしてもうひとつの悲劇が始まった。

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