ポケット

「母さん、針と糸を出してくれないか?」

 ポロシャツを片手にお父さんが頼む。

「また、ポケットが破れたの?」

「ああ」

 お父さんの服は、必ずポケットからダメになる。その原因は……。

「キュイ」

「危ないから顔を引っ込めていろ」

 繕う手元を肩から覗くカメオに注意が飛ぶ。

 お父さんが出掛けるとき、カメオはポケットに入ってついていくのだ。

「……この前、直したばかりなのにな」

「そう言って、いつも胸にポケットのある服しか買わないくせに。お父さんは本当にカメオに甘いんだから」

「人のこと言えるか?」

 そう言って笑った、視線の先にはヨレたポケットのバッグ。

「母さんも、いつも表に小さなポケットのついたカバンしか買わないくせに」

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