ポケットの幸せ

 胸ポケットが軽くなる。

 散歩の途中、カメオが『大好き』なものを見つけて、なりきりに向かうのはよくあることだ。公園のベンチに腰掛ける。

 カメオは家に来たときも、俺の背中に張り付いて、何故か背広になりきっていた。それを母さんが見つけて以来、ずっと飼っている。

 秋の少し冷たい風が吹く。

 ……もしかしたら、このまま……。

 背中に何かが張り付く。そのまま肩に登り、ポケットに納まる。

「キュイ!」

 そうだ。カメオは『大好き』なものになりきった自分を『大好き』な人に見て貰うのも『大好き』なのだ。

「綺麗な紅葉だな」

「キュイ!」

「母さんにも見せないとな」

「キュイ!」

 ポケットを揺らす幸せな重み。

 せかすカメオに俺は立ち上がった。

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