夏・金魚

「カメオっ! ダメっ!」

 母さんの声が響く。

「また、水槽に入ろうとしたのか……」

 久しぶりに行った縁日で、俺は金魚すくいで金魚を取ってきた。

 それをカメオが、いたく気に入ったらしい。

「カメオは泳げないでしょ!」

 金魚のマネをしたくて、隙あれば水槽に入ろうとするカメオを止めるのが、最近の母さんの日課だ。



「あら、カメオ?」

 カメオが水槽の前で、赤と白の金魚になって泳いでいる。

「これって……」

 お父さんが数年前、市の園芸コンクールで銅賞を取って貰った透明なアクリルで出来たトロフィーだ。その天辺にうつ伏せになって、カメオが嬉しそうに手足をバタバタさせていた。

「お父さんたら……」

 大切にしていたのに責任を感じたのだろうか。

「キュイ!」

 硝子越しに泳ぐ変わった仲間に、金魚達が集まっている。

「良かったわね」

「キュイっ!」

 カメオが手足を更にバタバタさせた。



「でもカメオ、マネでも泳ぐの、本当に下手ねぇ……」

 

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