カメオな日々・季節編
春・桜餅
「娘さんが居なくなったら、寂しくなりますよ」
後輩がしたり顔で言った言葉とおり、子供がいなくなると、家がどこかガランとしてもの寂しい。
「これからは、母さんと二人か……」
ぼそりと呟いたとき、台所から
「カメオっ!」
母さんの大声が聞こえた。
小さな足音が近づいてくる。ペトン。背中に何かが張り付き
「キュイ、キュイ、キュイ……」
ちょこちょこと登って、俺のシャツの胸ポケットに入った。
「何をやった?」
ポケットの底で小さくなっている、手乗りカメレオンに訊く。いや、訊かなくても解るか。カメオの身体が桜色になっている。
「さては、桜餅をつまみ食いしたな」
そして桜餅になりきってパックに入っていた、というところか。
「キュイ……」
「お父さん! カメオは?」
母さんが部屋を覗き、ぶつぶつ怒りながら出て行く。
「……後で一緒にいってやるから、ちゃんと謝れよ」
「キュイ……」
カメオが涙目で頷く。どうやら、うちはそう寂しくはならないらしい。
俺はつんとポケットをつついた。
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