カメオな日々・季節編

春・桜餅

 綾花あやかが大学に合格し、家を離れた日曜日。俺は趣味の庭いじりを終えて、ぼんやりしていた。

「娘さんが居なくなったら、寂しくなりますよ」

 後輩がしたり顔で言った言葉とおり、子供がいなくなると、家がどこかガランとしてもの寂しい。

「これからは、母さんと二人か……」

 ぼそりと呟いたとき、台所から

「カメオっ!」

 母さんの大声が聞こえた。

 小さな足音が近づいてくる。ペトン。背中に何かが張り付き

「キュイ、キュイ、キュイ……」

 ちょこちょこと登って、俺のシャツの胸ポケットに入った。

「何をやった?」

 ポケットの底で小さくなっている、手乗りカメレオンに訊く。いや、訊かなくても解るか。カメオの身体が桜色になっている。

「さては、桜餅をつまみ食いしたな」

 そして桜餅になりきってパックに入っていた、というところか。

「キュイ……」

「お父さん! カメオは?」

 母さんが部屋を覗き、ぶつぶつ怒りながら出て行く。

「……後で一緒にいってやるから、ちゃんと謝れよ」

「キュイ……」

 カメオが涙目で頷く。どうやら、うちはそう寂しくはならないらしい。

 俺はつんとポケットをつついた。

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