第83話 ドイツの「お母さん年金」について

先日年金の話で「お母さん年金 (Mütterrente) 」というのがあると書いたのですが、もう少し書き足すことにしました。

実は「お母さん年金」とは単純に子育て期間だけ加算されるわけではなくて、その申し込みの際に市役所の人と話す際には、高校時代や大学時代の証明書の提示を求められます。


最初は単に形式上、経歴として見るためなのかと思っていたら、実はこの時期も年金に換算されるということなのです。

つまりそれらの書類があってもなくても実際には申請できますし、年金も受け取れますが、「子育てしている期間」+「職業訓練期間」+「仕事をしている期間」で計算されて最終的な年金額が変わってきます。

もちろんこの期間が長ければ長いほど年金の金額が増えるというわけなのです。


例えば私の場合は長男が8歳の時に三男が生まれたため、子育て期間自体が結構長く換算されることになりました。

例えば3人の子供を三つ子で産むよりも、あるいは年子で産むよりも、兄弟間の時間を開けて産んだほうが、子育て期間は時間的に長くなるので、「お母さん年金」という視点から考えれば多少は得になるということです。


ただ、双子とか三つ子とかの場合は、ドイツの場合もしかしたら他の控除や助成金などが出る可能性もありそうですが、そこのところは私には不明です。


またこの証明書はもちろん日本語だけでは駄目なので、卒業証明書は卒業校にお願いして英語のものを貰っておかねければなりません。

ドイツ語でなくても英語であれば問題なく受け付けてくれます。

そして高校3年生の1年間と大学時代の4年間は「職業訓練期間」として、その期間に換算してくれるので、この書類を提出することは私達にとって大変有利なことになるのです。


その申し込みの際、実は私は係の方に聞いたのですね、

「私が卒業したのはいずれも日本の学校で、ドイツでではありませんが…」と。

そして言われたのは

「それは何の問題もありません、ドイツであろうが外国であろうが、学校を出て職業に就けるように訓練した期間と見なされますよ。 だってそれはドイツにとっても良いことなのですからね」と…。


…あの時は、なんだか本当に感動しましたね。

でもドイツというのはこのようにとても公平で、全ての人に法律は平等であるべき、というような硬い意志が感じられる機会というのが非常に多いです、色々な局面においてそう思わされることがあります。



例えば昔の難民問題に戻りますが、2016年にドイツが難民と認定した数は50万人強だったそうですが、通常難民の人がドイツに馴染み、仕事も見つかればまず難民から移民に格上げされます。当時の私の知り合いがシリアから難民としてここに来て、元の職業であったお医者さんにすぐにドイツでもなったのは以前書いたことがありますが、自分の国の職業をそのまま続けることができるのです。

また移民になった場合はいつかはドイツ国籍を貰えるという可能性も大になってきます。それは珍しいケ-スではなく、頑張れば手が届く場所にある、難民の人、誰もが願うことのできる、ある意味ごく普通の目標なわけです。


そこまでたどり着くのは簡単ではないにしろ、その無職の間は最低の衣食住は支給されます。ドイツ語習得のための勉強などは当然無料です。豊かな支援ではないかもしれませんが、人間として尊厳を保てる範囲での支援ができるよう、ドイツは誠心誠意努めていますし、多くのドイツ人もそのことに対して文句を言うのは人間としての品性が許さないので、反対のデモなどをしたのは最初の頃は本当にごく一部の人達だったと思います。


それでも2017年くらいから徐々にメルケルさんへの風当たりが強くなり、大規模での「難民受け入れ大反対」運動も出てきますが、でも数をご覧ください。

仮に50万人ではなくて、日本のように100人強(2016年の難民認定数は日本では125人だったそうです)の難民受け入れであれば、ドイツでは何の問題もなく、国民の反対もなく、「難民の皆様 よくいらっしゃいました! Willkommenようこそ!」という状態のまま終わった話だったことでしょう。実際最初の頃はミュンヘンに着く難民の人達を、このようにドイツ人がたくさん旗を持って駅で出迎えていましたしね。


いかんせん、とんでない数の桁の話でしたから、無理があったのは事実かもしれませんね。


…で、先程の「お母さん年金」の話に戻りますが、そういうわけでもちろん難民の方も該当するはずです。

そのために届けを出しさえすれば、ドイツに住んでいる人は全員該当者でドイツ人である必要はなく、外国人でも全く関係ないはずです。


なぜなら私自身もここでは外国人ですからよく知っているわけです。


「お母さん年金」だけではなく、日本国籍のまま、私もいつもドイツ人と全く同じ恩恵を受けられています。確かに夫はドイツ人ではありますが、そんなことはそもそもそも聞かれもしませんでしたしね。

なので、外国人の私が受けられる恩恵を、やはり外国人でも難民だからという理由で、それに該当しないということは有り得ないと思います。


ただし、1つだけ、この「お母さん年金」は子育てをドイツ国内でしていること、が条件になります。


実際うちの長男は日本で生まれ、1歳半でドイツへ来ました。

なので、長男の場合は1年半の「子育て期間」は外されています。

ドイツで子育てして、ドイツ人(にならなくてもいつかドイツ人になるかもしれない子)を育てている、というのがこの年金制度の条件で、また作られた1つの理由なのでしょうね。


老後の年金の少ない可哀想な女性を少しでも減らすためというのはもちろんですが、少子化対策として、子育てするお母さんに還元しなければ子供が増えることはない、と理解し作った年金制度だったのではないでしょうか。この制度が適用されるのは1992年以降に生まれた子供の子育てに対して、ということなので、それ以前はまた少し違う(あまり良くはない)条件だったようです。


ということで、長くなりましたが、私が知っている範囲でのドイツ「お母さん年金」まとめでした!

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