第46話 夢の乗馬ホテル-その3

その乗馬ホテルは朝昼夜と三食付きで、私達が着いたときはちょうど夕食が始まっていたのだが、私が「わお、素敵」と思ったのは、1階の皆が食事を取り食べることのできるスペースが、お洒落なバーのようにも、また居心地の良い西洋風山小屋みたいでもあり、その上、家庭的なリビングルームでもあるということだった。


私達が行ったのはもう11月ということで夜も寒かったのが、その部屋の入口のはもし夏ならば絶対外に座りたいと思える外用のお洒落な木製テ-ブルや椅子もあり、レンガ作りの建物とまた照明と、中から漏れる明かりとが、そのホテルの入り口をいっそうロマンチックなものに見せていた。


その日は夜だったこともあり、食事をしながら私は赤ワインを飲み、翌朝に備え早めに寝た。

翌日は9時の朝食後、10時半に全員集合、そしてグル-プ分けされ、馬も決められ、牧場から自分の馬をピックアップして自分で鞍なども付け、全員の準備が終わったらいざ出発となる。

三男は初めての乗馬、ということで、最初馬ではなくラバ(馬とロバの間の子)を割り当てられたのだが、三男がどうしても馬が良い、というので、私がそのラバをもらうことにした。

「ズーシィ(ドイツ語でかわいいという意味)」というその名前のラバは背の低い私には充分な大きさのお馬さんだった。


私が今年の夏休み中に近所の乗馬クラブで乗馬体験した際は手綱を引いてもらって森へ散歩へ行ったのとはわけが違い、今回は平原の散歩道へそれぞれのグル-プで自分で馬に乗ったと同時に即出発ということもあり、正直背の高いお馬さんよりも私は怖さを感じなくてちょうど良かった。


少し紅葉も残った森の道を歩きながら、私は今まで味わったことのない静かな感動に包まれていた。

アイフェルの山の中の、またその森の中を馬(ラバだけど)と共に散歩できるなんて正直夢のようだったのだ。

森の散歩道で見る自然はあまりに広大で、小さな湖なども見えて夢の景色のようだった。


またホテルには犬も数匹飼われていたのだが、なんとその犬達も自由に付いてくるではないか。

馬に歩調を合わせながら、自由に森の中を散歩している犬達を見て、

「こんな幸せな環境で暮らせる犬に自分がなりたいくらい」と思ったほどだった。


普通に歩く常歩(なみあし)、ちょっと速い速歩(はやあし)の2種類までして、駈歩(かけあし)までは今回できなかったが、でも正直私には速歩でも充分だった。


私のズーシィはラバでしかも女の子、そんなに速くは走れまいと思っていたら、このラバちゃん、見かけによらず、足の速さは他のお馬さんたちと同じくらいだったのである。

でも途中あまりに速く走り始め、また皆とは違う方向の草原に駆け出しそうになり、私がストップをかけた後からは、なんだか速く走るのは嫌になったのか、その後は他のお馬さんたちが頑張って走っていても途中から走るのをやめてしまい、馬のホテルの指導員のお嬢さんには「わき腹を蹴ってちょうだい!」と遠くから何度か叫ばれたけれど、私自身ももう走るのは嫌で、真面目に蹴らず、このズーシィと共にゆっくり散歩を楽しんでいた。


この4日間のうち、乗馬をしたのは中2日間だけで、本当は4日間で計6時間乗馬ができるのだが、三男は4時間、結局私は3時間だけ乗馬をした。中でも圧巻だったのは、私達が草原を散歩している時に、草原の一角に10頭くらいのお馬さんたちがいたのだが、私達を見るとその10頭全員(全馬?)が私達を目指して駆け寄ってきた時のことだった。

その馬達はサッカー場が2つくらいはありそうな一角に囲われていたので、そこから出ることはできなかったのだが、10頭揃ってきれいなお馬さん達が走っている様子は何かの映像を見ているように美しく、あまりの美しさになんだかこの世のものとは思えないほどだった。


そしてこのお馬さんたちは、私達の馬たちと顔見知りであり、その知り合いのお馬さんたちが散歩している様子を見て、喜んで駆け寄って来たのだ、ということを聞き、いじらしさになんだかますます感動してしまった。


最後の夜はホテルの前で皆で焚き火をして、マシュマロを焼いて食べたりしながら、この数日一緒に過ごした仲間達と最後の晩をおしゃべりしながらゆっくり過ごした。


最初にも書いた、バ-風で山小屋風なリビングルームでは毎晩11時位まで、色々なお客さんとワインやビ-ルを飲みながらゆっくり過ごすことができて、ホテルには小さいながらもサウナも、また通いのマッサ-ジさんもいて、大人でも充分楽しめる馬ホテルの造りになっていた。


最後別れる際にはお互い電話番号を交換して、WhatsApp(ドイツで皆が使っている日本のLineのようなもの)でグル-プも作成したので、未だにお互い近況など連絡を取り合っている。

なので次回行く時もまたこのグル-プのみんなに会えたら楽しいな、と思う。

みんな親切な人たちばかりで、お客さんはドイツ人が一番多く、外国人はオランダ人、イタリア人と日本人の私だけだったが、毎晩色々な話をして楽しかった。


三男も「乗馬がこんなに楽しいものだとは知らなかった」とつくづく言うので、来年の初夏にまた今度は1日多い4泊5日で予約をした。


三食付きと言うのも主婦には大変有り難く、1年に一度はこれからもこの休暇を続けて行こうと心に決めたほどお気に入りの場所となってしまった乗馬ホテル体験だった。


……と、夢のような乗馬体験は私の場合、ラバ体験ではあったものの、それでもホテルはもとより、森や平原での散歩は忘れることのできない素晴らしい体験になった。

こんな体験も、最初のここでのある方の質問がなければ一生しなかった可能性もあり、質問してくださった方には心から感謝感謝である。



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