第41話 3ヶ国語以上を話すベルギ-人の語学力とは
以前も書いたけれど、ベルギーは実はフラマン語、フランス語、ドイツ語が公用語なので、ブリュッセルなどへ行けば駅の表札などはこの3ヶ国語で書かれている。
でも実際は、国土の北半分を占める地域のフランドル地方はフラマン語とフランス語、国土の南半分を占める地域ワロン地方はフランス語のみで、ドイツ語は公用語でも実際本当にドイツ語を使っている地域はベルギーの中でも本当にほんの一部、ドイツと国境沿いに近い一部の地域だけである。
で、うちの家族はドイツの自宅から大抵この辺りまで車で行き、そこからベルギーの列車に乗って、主人の実家があるブル-ジュまで移動している。
と、いうのもベルギーは列車が安くて233kmの片道をたった8Euroで行けるからなのだが、私はいつもこの列車内でも
「わォ、さすがベルギー」と思いながら、乗っていることがある。
それは車掌さんが語学堪能ということである。
この列車はまずベルギーの中でもドイツ語を話すオイペン駅始発で、途中フランス語のリエージュ、ル-ベン、ブルュッセル、ゲント、ブルージュ、終点はオストエンデなのだが、その間ドイツ語、フランス語、フランマン語、またフランス語、そしてフラマン語を話す街に順番に停車していくため、乗客の言語は、最低3ヵ国語で、その他もちろん外国からの観光客もいるため、列車の中で働いている車掌さんは少なくとも独・仏・フラマン語・英語の4ヶ国語は使い分けて乗客と話している。
それでブルージュに着けば、ブルージュは中世の街並みを残した街ということで、馬車が走っているのだけれど、この馬車の御者さん達もこれまたすごい。
馬車に乗りたい観光客に何語で解説すれば良いか尋ねたのち、その希望の言語で解説しながら馬を走らせるのである。
だからといって基本はこの4ヶ国語であり、さすがに
「日本語お願いします」「はい、わかりました」とはならないけれど、スペイン語やイタリア語くらいなら大丈夫な場合があったとしても全くびっくりしない。
と、いうのも知り合いがブル-ジュの入管管理局で働いているのだが、
「世界広しと言えども、ここまで様々な言語に対応している入管管理局はこのブル-ジュくらいだろう。僕はその国の人に応じて一日10ヶ国は喋っているよ、だって僕達がそれをしなければ相手は大抵自分の国の言葉しかできないんだから仕方がないよ、イギリス人もフランス人も自分の国の言葉しか話せないしね」と、このブル-ジュ出身の伯父さまは言っていたけれど、この方達の言語能力を間近で見たら、誰もがさもあらんと納得することだろう。
今から7年ほど前にこんなことがあった。
主人の関係で、ブル-ジュからベルギ-人のお客様が30人くらい来て、50人くらいのドイツ人と皆で晩餐会が執り行われた。
最初、ベルギー人たちはみんな
「私はドイツ語は全然わからないです。」と言っていたのだが、それから小1時間も経つ頃にはなんということか、みんな上手なドイツ語を喋っているではないか。
びっくりして
「あなた方、本当はドイツ語喋ることができるんですか?!」と聞けば
「えぇ、まあ、学校で習ったことがあるから…」という答え。
私が推測するに、1時間くらいドイツ人のドイツ語を聞いたので、その1時間でどうやらドイツ語の言い回しや、話し方を学んでしまったのではないかと思われる。
だいたい、ブル-ジュはフラマン語圏の地域ということで、教育レベルも生活水準もフランス語圏のワロニー地域に比べて高い、フラマン地域のベルギー人達はまずは、フラマン語(オランダ語の方言のような言葉)、フランス語を子供時代に習得し、そうなると英語なんて簡単に勉強もでき、フラマン語と英語ができれば、この2つの言葉の兄弟言語みたいなドイツ語なんてするっと習得してしまうのだろう。
一方、この晩餐間にいたドイツ人達はその兄弟言語みたいなフラマン語を少しは理解できるようになったかと言えばそんなことはなく、最初から最後までドイツ人で固まってドイツ語だけで話していた。
ドイツ人も、イギリス人、フランス人並みに他の言語取得能力が低いようだ。
私達日本人もそうであるが、これには脳の事情があるらしい。
子供時代に2ヶ国語で育った子供というのは、脳の中に2つの部屋ができ、1つ目の部屋は母国語だけ、2つ目の部屋は2ヶ国語から3ヶ国語と違う言語が入っていくらしい。そしてこの2つ目の部屋があるかどうかということは非常に大きな問題で、この部屋を脳内に作ることが出来るのは7歳までだということで、7歳過ぎて外国語を勉強してもこの部屋を作ることは無理で、多言語使用者になることは至難の技ということになるのだそうだ。
これはドルトムント大学のドイツではトップクラスの脳学者の教授が教えてくれた説なので、多分間違いないだろう。
イギリス人もフランス人も長年に渡り世界中の人が勉強したい英語・フランス語を使っていると他の言葉をわざわざ勉強する必要もなく、そして私達日本人は島国で、長年日本語しか使う必要もなかったのだから、脳の中のその2つ目の部屋を作るという機能はほとんど使われることもなかっただろうから、その機能はとうの昔に退化してしまったのかもしれない。
ということで、長年に渡って何ヶ国語も使用してきたフラマン地域で育ったベルギー人が何ヶ国語も使いこなせるようになるのは、それほど不思議なことではないということなのだ。
本当に、羨ましいことである。
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