第34話 アマチュアサッカー選手の息子達 その1
おとといは久しぶりにうちの長男と次男のサッカーの試合だったので、見に行ってきた。
というのも長男は隣り村のH村のチームへ移り、一方次男がやっとこの夏からうちのS村の大人のチームへ入ることができたのだが、ドイツのシーズン始まりはこの8月からなので、2人の新チ-ムでの初試合を見に行くことにしたのだ。
まず次男は長男のクラブの二軍チームとの親善試合で負け、一軍の長男はクラブ祭りのトーナメントで近隣の村チ-ムとの対戦で勝ったのだが、両試合とも場所はH村のサッカー場で、次男の試合は13時から、長男の試合は17時からということもあり、一人ゆっくり久しぶりのサッカー観戦を楽しむことにした。
だいたいドイツではサッカークラブの大会イベントなどがある場合は必ず、生ビールスタンドが出て、何種類かのソーセージとポテトフライ、そしてお母さん達寄付の手作りケーキにコーヒーの屋台が出ているのが普通で、この日も私は実は観戦を楽しむというよりは、このリーズナブルで美味しい屋台でゆっくり日曜の午後を過ごすことに決め、フル-ツがたくさんのった美味しいケーキを食べたり、お茶や飲んだりしているうちに午後の時間はあっという間に過ぎていった。
そもそもうちの人口800人もいないS村のサッカークラブは小規模なの上、リ-グも10部とほぼ最下位(ドイツは11部まで)のため、このH村のようにこんな大会はなかなかないので、こんな美味しいケーキを食べられることも少ないのである。
手作りのケーキというのはそれぞれ作り手の気持ちが入っているせいか、本当に美味しくて、それが色々な種類が10種類も並び、値段もケーキ屋さんで買うよりもリーズナブルなので、たくさん買って家に持っていく人もいるし、おばあちゃん達が正装して友人同士でケーキを食べに、というようなこともドイツの村のサッカー場では見られる。
サッカークラブはうちの小さな村でも、倍くらい大きさのH村でも、おしゃれをして来たおばあちゃん達のお茶会の場所になっているという、のどかな光景を見る事ができるのだが、これが少し大きい街のサッカークラブだとおばあちゃん達の数は一気に少なくなり、生まれてこのかた60年は毎週必ず試合を見に来ています、というような、おじいちゃん軍団の方が圧倒的に多くなる。
だいたい街のチームになると強くて、高いランクのリーグになることが多いので、アマチュアチ-ムであっても試合を見る場合は入場料を取るのが普通なのがドイツのサッカ-であり、うちのS村のようやH村のように女性なら入場料は払わないで良い、というようなところではないと、おばあちゃん達も何もわざわざサッカ-場でお茶する必要がないだろう。
入場料を取られるくらいなら家でお茶会をした方がよほど良いだろうし、なので逆に街のサッカーチームの試合には、正装でしかもグループで来ているおばあちゃん達は少なくなるのだろう。
おしゃれした可愛いおばあちゃん達がみんなでケーキを食している、これも村ならではの日曜日のサッカ-クラブの光景なのである。
それからちなみにうちの長男は、S村のサッカーチ-ムからH村に移る際、うちのS村のクラブの会長さんから、1ヶ月200Euro(現在約24,000円)の給与を出すので、よそへ行かないで欲しいと引き止められた。
S村は2年前うちの長男達(当時長男は最年少)の努力で10部から9部へ昇格したのだが、昨年度はひどい状態でこの夏からまたもや10部に格下げとなった。
ひどいのは試合だけではなく練習も全員まともに揃わないという退廃ぶりで、監督さんでさえも途中うちのチームを放り投げて辞めてしまったほどなのだが、長男はその中でも一人チームの中心にいて真面目に頑張ってきたのだが、さすがにサッカー好きの長男にはそんないいかげんな状態のチ-ムでサッカ-を続けるのは耐えられなかったのだろう。彼はうちの中では誰より、日本人の私よりも日本人風の生真面目な奴なのである。
3年前から次男は長男と同じチームでサッカ-をできることを楽しみにしていたのだが、それはかなわないまま、まさに次男が大人のチ-ムでサッカ-できる今年から、長男はH村へ行ってしまった。
S村からH村へ行く理由も特にない次男は長男が去った後のチ-ムを今度は自分が支えて行こう、なんていう気持ちはさらさらないのだが、私は長男に
「ねえ、あなたがもらえるはずだった200Euroを弟がその代わりもらえないか聞いてみてよ」と言ったら
「そんな馬鹿みたいな話、聞けるわけないだろう」と怒られてしまった。
まあ、それはそうだろう。
ちなみにうちのS村からはこの月々200Euroの報酬は、長男がいつS村に帰ってきても有効の約束と言われていて、それも長男がこの数年間我が村に少しは貢献できた証拠であり、親として誠に嬉しいことである。
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