第26話 宗教論争-イスラム教徒の友人と その1
カトリックの村に住み、子供達はカトリック信者で私自身も日本で既にクリスチャンであったものの、私が敬虔な信者かと言えば、そういうことはなく、村のミサへ行くとなんだか妙に冷めた気持ちで参加している自分がいるので、私自身は本当はキリスト教を信じていないのだろうと最近思う。
というのも私が信じたのは日本のキリスト教であり、ここヨーロッパのキリスト教とは微妙に温度差があるような気がしてならない。
そもそも私が信じるきっかけになったのは、小学校時代の校長先生の
「山の頂上はひとつです。でもそこへ行くためには色々な道があり、そのどの道も決して間違いではないのです。」というお話が自分の心にざくっときたからであった。
うちの学校はカトリックの中でも割合厳しい修道会が作った学校で、校長先生はじめ何人かの先生もシスター方だった。
「聖霊降臨祭」には朝から昼過ぎまでロザリオの祈りを唱えながら、一日中学校の生徒全員が行列で構内を歩く、というようなとても宗教色の濃い行事なども毎年あった。(幼稚園から短大まであって生徒数も構内も広かった)
ただ、ここのイタリア系修道会のシスター方は日本人でも修道会自体にイタリア色が強く、「己に厳しい」シスター方ばかりだったが、それでも他の宗教に対して寛容だった。
しかし他の宗教に寛容というのは本来宗教的かどうかと聞かれれば違うらしい。
私の日本人の友人の中には家族そろってクリスチャンという人達もいて、彼女達はやはり日本人でありながらお寺や神社には行ったことがない、行かないと言っていたっけ。
ただ私は自分の尊敬したシスター達が、「道はたくさんあります」と言ってくれたので、それを信じてクリスチャンになったわけで、お寺や神社には入ってはいけない、という風に教わっていたらキリスト教を信じることは100パ-セントなかっただろう。
私はそもそも日本人なので、日本人として八百万の神も否定できないものとして心の中に捨てることはできないものとして残っているのだ。
ところがドイツへ来て色々な国の人と会い、先日書いたようにドイツ人は比較的宗教に寛容なので
「日本にはもともと八百万の神がいて」と話せば
「ドイツも昔のゲルマン神話ではたくさんの神様がいたのよ」と返事もくるのだが
結構クリスチャンのフランス人、ポ-ランド人には
「え!? 神様が八百万?!」とまずびっくりされる。
やはりヨーロッパでも敬虔なクリスチャンにとっては
「神様はたった一人」で、何人もいるなんてあり得ないらしい。
また多分私の信じたカトリックの考え方も、日本の中でも特に日本的にミックスされたキリスト教であったと思われる。
でもそんな私から見てとても不思議に思うのが、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教はなんで同じ神様を崇拝しながら、宗教が違うという理由で喧嘩をしなければならないのだろうか、ということである。
イスラム教もまた神様は唯一神の絶対神で、ユダヤ教もそうである。
その上なんということか、この三宗教は旧約聖書を共通の聖典としており、そういうわけで三宗教の神とは同じ神様のことである。
同じ神様を信仰している同士の世界的にも有名な三大宗教がいつも喧嘩になって…そう考えると私達日本人にはますます理由がわからなくなってきはしないだろうか。
なぜ同じ神様を崇拝しながら、宗教が違うという理由で喧嘩をしなければならないだろう。
もちろん同じ神様だからそのせいで争いになるということはわからないでもない。
日本でも同じ仏教でありながらお互いに争ってきた歴史はあり、誰もが
「自分の信じる道こそが正しい」と固く信じるために、他の考え方を受け入れないという状態になってしまうのかもしれない。
でも争う無駄な時間やそのためにかかる経費、そして争いによって生じる破壊されたものを再び再建するための費用を考えれば、争うことは本当に無駄なことであり、人間とはなんと浅はかなものなんだろうと思ってしまうが、宗教がなくたって戦争はおこるので、歴史を見ればただ単に宗教を理由に戦争してきたというだけで、宗教とはただ国の権力者に利用されてきただけということなのだろう。
…それは理解できる。
宗教を争い事にしているのは権力者達で、宗教はそのための道具に過ぎないと考えるのが正しいので、争いを宗教のせいにするのはそもそも間違っているのだ。
でも、敬虔なイスラム教徒の友人と話すと、この冷静な理屈がふっとんでしまいそうになってしまう私がいる。
「宗教のせいで争いが起こっているのでは?」と思ってしまう、心の狭い自分を見つけるきっかけなってしまったその友人との会話はどんなものだったのか、その友人はイスラム教をどのように捉えているのか、次回はそれについて少々書きたいと思う。
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