第20話 ドイツ修道会ホテルに泊まってみると…

週末に用事ができて、デュッセルドルフ近郊に泊まることにした。


その週はデュッセルドルフはメッセ見本市の最中で、街の中のホテルは部屋はほとんど空いていない上、空いていても通常の倍以上、あるいは3倍以上と言う金額だったため、20kmほど遠方の場所で探してみた。

するとある修道会がホテルの運営もしているということがわかり、また1泊29Euro (3500円くらい)という超格安料金だったので、そこに宿をとる事にした。


土曜日の夜21時にナビを頼りに車で到着したのだが、漆黒の闇の中-というのも修道院自体が広大な野原に囲まれていて、周りには建物、民家などひとつもなく、そんな状態で道に電灯があるわけでもなく、自分の車のライトだけを頼りに大きな門の中へ入って行った。


門の中に広場になっていて奥には修道会らしき、「ザ・ハリー・ポッター」という感じの趣のある大きな建物がライトアットアップされていて

「わお、ロマンチック!」と思ったのもつかの間、塀に囲まれた広場の外は良く見ればお墓で、お墓に囲まれた作りのようになっている。

駐車場があるわけもなく、どこへ行けば良いのかもわからなくて、ふと奥を見ると車が1台停まっているので、急いで聞きにいくと中にはたくさんの若い男の子達が乗っていて、どうも今から遊びに行く様子。

「あぁ、良かった、人間がいた」となんだか妙なことを考えながら、親切に建物左側の入り口を教えもらい、車を停めて入り口まで歩いて行く途中、なんだか赤暗いボーッとした光が見えてなんとも不気味。

よく見れば、入り口の前に何かの像があり、その足元を照らしているろうそくのようなものなのだが、暗闇にその光がやけに目立ち、ライトアップで照らされている修道院の入口へと小走りで急ぐ。


教えてもらったドアに検討をつけ、大きな頑丈な作りの背の高いドアを押してみるとドアがスッと開いて一安心したものの、長い廊下が奥のほうまで続いているのみで、建物内にも相変わらず人っ子一人いないではないか。


トランクをカラカラ引きながら、

「ハロ-」とか言って見渡すが、長い廊下に人影はなく、40mくらい歩いてやっと行き止まりに。

一番奥に電話がかかってあって

「御用の方は18番を押して下さい」と書かれていたので、受話器を取り、番号をまわすと

「はいはい、今行きます」と神父様らしき人の声が。

1分もしないうちに来てくれて

「あぁ、この人も妖怪とかじゃなくて普通の人間みたい、良かった」と、ここでも妙なことを考えながら、宿泊料金を払ってチェックインを済ませたが、

「あの、まさか今夜ここに私1人で宿泊とかじゃないですよね?」と念のため確認しないわけにはいかない気分になった私だった。


だってとにかくこの修道院、大きいのだ。

昔のお城みたいに広い上、天井も高い。

私が泊まった2階には部屋は20部屋はあったろう。そしてそれがどうも4階くらいまであるようなのだ。


チェックインをした際にはもちろん2階に何部屋あるかは知らなかったが、外から見て建物の大きさに圧倒されていた上、周りはお墓に囲まれているのもわかっていた。

しかもドイツに20年在住とは言え、私にとっては一応母国ではないここは外国―いくら「ハリー・ポッター」風な場所でも、一人ぼっちで泊まるとかはあり得ないだろう、と思った。

怖がりの私にはそんなことは到底無理だ。


幸い神父様は「1人ではないですよ」とにこやかに答えてくれて、それを信じて鍵を受け取り、これがまた博物館のように広い大きくて頑丈そうな階段をのぼって2階へ行けば、またまた50mはありそうな廊下の左右にそれぞれ聖人の名前がついた部屋のドアがあり、そんなわけで無事部屋にたどり着いた時には心から安心した。


夜になると人の足音やドアの開け閉めも聞こえて、次の日早朝に出発するときには車も10台近く停まっていたので、昨夜はたくさんの人は夜出かけていただけなのだな、と納得した。


寝心地はどうだったかと言えば、それが意外にもよく眠ることができた。

トイレやシャワ-は共同でいちいち廊下に出る必要があったのだが、マリア様の像がいたる所に置かれているのだ。

それも木彫りの本当に美しい優しげなマリア像が色々な所に置かれていて、この建物に妖怪や魔物は出てくることは不可能そう、と感じさせてくれる修道会だった。


着いてから自分の部屋に入るまでのわずか15分間はスリルに満ちた時間で、プチ・サスペンス気分を味わうことができ、部屋に入れば心配は皆無とわかり、なんだかホラー映画でも見た気分を味わえた上、最終的には安心して熟睡できた楽しい週末の経験となった。


今度必要な際はまた是非そこに泊まり、今度はゆっくり修道会周辺を散歩してみたいと思った週末の経験だった。




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