第14話 伝統のわら人形投げ

前回、ドイツ人が不器用という話をしたけれど、欧米人のもう1つの問題は謙遜して話すということがないというころだろう。


15年以上前のことだが、駐在で来ていた年配の奥様が言っていた言葉が今でも忘れられない。

「テニス行こう、ゴルフ行こうってドイツ人に誘われるのね、それで行く前に必ず自分は上手よ、と言うから覚悟して行けば、大抵私の方が上手なのよ、わからないわ」と…。

ドイツ人は子供時代親から罵られたり、叱責を受けるということが少ない。

そもそも謙遜して自分の子供を

「いえ、うちの子は本当にいたらなくて…」などと言おうものなら、虐待を疑われることもあるので、謙虚な日本人にはそれもそもそも理解しづらく、またそういうわけで欧米に長く住んでいる日本人はその美徳を保ち続けることが難しくなり、欧米人のようになんとなく厚かましい雰囲気になってきてしまうのだろうと推測される。


ところで、うちの町に留学中の日本人の高校生の女の子たちが我が家に来た日はカ-ニバルの最後の「懺悔の火曜日」だったのだが、この「懺悔の火曜日」は静かに懺悔だけしている日というわけではない。


うちの町や村ではこの日はカ-ニバル実行委員会がカーニバルの時の一昔前のプロイセンの軍隊風衣装から、一昔前の一般人風衣装にかわり、大きな布とわら人形を持って町々村々を練り歩く。


このわら人形、「呪いのわら人形」ではないので、人間の子供くらいのサイズなのだが、歩きながら途中リ-ダ-の号令で止まり、大きな布にわら人形をのせて皆でふあっと、わら人形を空高く舞い上げるのだ。

舞い上げる(すみません、なんだか変な言葉?)-というよりはどちらかと言えば、投げ飛ばすという感じなのだが、最後は皆で焚き火の中そのわら人形を燃やして、長かったカ-ニバルもやっとお開きとなる。


これは何をしているかのかと言えば、11月11日から開始して、最後の5日間は飲んで騒いで踊って笑って馬鹿騒ぎをしたことを懺悔する意味もこめて、わら人形に罪をかぶせ、罪深い自分達の行いを許してもらおう、という非常に都合に良い行事なのだ。


それでうちの前にもこの一群がやってきたので、女子高校生2人を連れて出て行けば、案の定リ-ダ-のおじさんが大声で

「日本から来ている客人に我らの伝統を見せようではないか!」と叫び、このわら人形祭り-空高く放り投げるだけなんだが-を見せてくれた。

その上、かわいい少女たちがわらわらやってきて、きれいな色とりどりの紙ふぶきを私達にかけてくれ、最後はリ-ダ-一家が次々にやってきて、私達と記念写真まで撮り始め、女子高校生のお嬢さん2人も喜んでいた。

でもこの軍団、村にしては人数が多く、50人くらいで移動していて、最後リ-ダ-一家(彼と奥さん、30歳くらいの子供二人、奥さんの姉妹達まで集まって、女子高校生2人と記念写真を始めていた)はうちの家の前から離れないので他の人達に

「もう行かないと、いつまでも何をしているんですか」と小言を言われていたっけ。


人口800人の村でははこのような行事を見る観客も何気に少なく(多分80人くらい?)、毎年私はなるべく見に出て行くことにしているのだが、そうすると必ず

「日本の客人のために…」とこのフレーズから始まり、うちの家の前では観客が私一人でも必ず、私のために見せてくれるのが恒例なのである。

わら人形軍団も見てくれる人が少ないのに、この行事をするのはざそや退屈だろうから、せめて村内の一箇所、我が家の前では必ず私がいて毎年見続けてあげたいものだと思っている。


そしてこの日がお肉や卵を食べても許される四旬節に入る最後の日で、これから46日間、灰の水曜日(Aschermittwoch)から復活祭の前日、聖土曜日(Karsamstag)までの断食(お肉断ち)期間がはじまる。

まともに断食している敬虔なクリスティアンは少ないが、それでもお菓子絶ち、お酒断ちくらいならしている人も本当に実際いる。


遊び好き、お祭り好き、また自分を誉め好きのドイツ人事情であった。


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