第13話 お雛様と不器用なドイツ人
数日前は桃の節句。
ということで3人息子しかいない我が家でもお雛様を飾った。
このお雛様、実は祖母から引き継いだもので、結構古い。
お雛様とお内裏様が二人ずついたり、五人囃子はいるが、三人官女はいないかわりに「胡蝶の舞の愛らしい二人の稚児」「高砂の老夫婦」「立ち姿の花を持った官女」などがついている。
お雛様は一代限りではないと縁起が悪いという話もあるが、うちはそんなことは特に気にしなかったし、こんな素敵なお雛様を手放さないでくれた祖母達には本当に感謝している。
ところでわざわざ飾ったのには理由があって、火曜日に日本人の高校生2人とドイツ人の以前私が日本語を教えていた男の子(彼は当時女の子だったが、日本へ留学してドイツへ帰国してから自分の性同一障害に気がつき現在男の子になった)の3人を家に呼んでいたからだ。
日本人の女の子2人は1年間ドイツの高校にあたるギムナジウムに留学中であり、最初の頃はそれは苦労していたようだが、苦労にもずい分慣れ、ドイツ語もなんとなくわかってきたらしい。
苦労にも慣れ、ということだが、そもそも日本人は我慢強い。
でもなんと言っても彼女達がここに来てびっくりしたことの1つは、クラブ活動の参加者のレベルが日本と比べるととても低いということだった。
ドイツは管弦楽団のクラブが主流だが(というか他にクラブ活動はあまりないため)、日本の吹奏楽団のレベルより低いと嘆いていた。
でもクラブ活動のレベルが低い一番の理由はドイツの学校にはそのそも日本のようなクラブ活動がないためである。週に1度、1時間くらい練習することしかないなら、日本のように毎日放課後2時間か3時間練習するのとはわけが違うのは当然の上、その上ドイツ人は「頑張る」ことが日本ほど美徳と思われていないせいだと思う。
この「頑張る」気持ちがないというのは言いすぎかもしれないが、例えば子供に色々お稽古事をさせると、
「 Das ist aber zu viel(英語のIt's too much のこと。でもこの場合の本当の意味はそんな無理させて可哀想という意味)」と私なんかも年中言われたものだ。
親も無理しない、子供もそんなに毎日一日中頑張る必要はない、そんなのは大変なだけだから、と考えるのがドイツ風である。
それでスポ-ツに関して言えば、大抵のスポ-ツでは彼らは体が大きいので、一見上手そうではあるが、サッカ-の場合は日本人の子供達が遠征に来てドイツやスペインの子供達と対戦した場合は、高校生くらいまでなら日本人が必ず勝つと聞いたことがある。
ドイツ人はダンスもうまいような下手なような…なんとも、ということで、というのもうちの長男曰く
「ドイツ人は、Motorikに問題があるから」とのこと。
Motorik とは「脳の運動神経による身体の運動能力」のことで、ドイツ人は長い手足が邪魔をして、神経が隅々まで届いていないのではないか、と思うような動きしかできないことがある。
また話はかわるけれど、例えばドイツが誇る陶磁器のマイセン、日本では人気があるようだけれど、私が見ると正直日本の清水焼や有田焼の繊細さにはとうてい敵わないと思う。
そもそも欧州の磁器に歴史は1700年くらいからで、それまでは中国や日本から輸入していたのだから日本の方が精巧なのは当然だ。
その上日本人の手先の器用さは世界でも郡を抜いている。
私達は小さいときからどれほど普通に折り紙を折ってきたことだろう。
ちなみにドイツ人は折り紙は角を合わせることから難しいときているので、鶴でも簡単には折れないのだ。
そんな風に繊細さからはほど遠いドイツで、こんな美しいお雛様を持っているのは日本人しかいない、ということで、なるべく毎年お雛様を飾り、ドイツ人を家に呼んで見せたり、写真にとって知り合いに送ったり(今回は三男の空手クラブのスマホ連絡網に送ってあげた、空手は日本のもの、日本の文化を知るべきだろう)、インタ-ナショナルクラブというところへ持参して飾ったり、ということで日本文化を少しでも知ってもらうため、私も長年結構頑張ってきたので、うちの町のドイツ人たちは「お雛祭り」という風習があることを理解してきたかもしれない。
でも村と違って町は人口3万人なので、これからも毎年頑張ってお雛様の風習を広めるのがここでの私の使命と思っている。
次回日本へ帰国した際には、中古の雛人形でいいから買って帰りたいと最近思いはじめている。将来的には5セットくらい購入して、毎年この時期に町で展示会をしてもいいくらいだ。
美しい雛人形は何度見ても、どれだけ見ても楽しいもの、こんな雅で美しいものがある日本の国は本当に素晴らしい。私の誇りなのである。
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