第37話 あの時はなぜ気づかなかった?

 僕はなぜその前の電話で気づかなかったのか? と冷静に考えてる自分がいた。

 あの時は強い嫉妬心で支配されていて。

 相手の男の声になんて気持ちがいっていなかったんだろうと思った。


 優香さんは青ざめた顔で携帯電話を僕に差し出してきた。

『優香?』

 電話越しの男の声が僕には耳障りだった。

「良いの?」

 僕は氷水のように冷えた気持ちが全身をかけていってこれからこの電話の向こうの奴とどんな態度で話すかは決まっていなかった。


「うん…」

 優香さんも何もかもを察した感じだった。

「出る…ね。優香さん」

 僕は優香さんから携帯電話を受け取った。

 紛れもなく優香さんの携帯電話なのにそこからは……。


『もしもし?』

 やっぱりか。

 知っている。

 その声の主を僕はよく知っている。


 なんだよ!

 僕が知っている奴だった!


 優香さんの元婚約者って。

 僕がずっと信じてきた奴じゃないかよっ!


 僕は怒りながらも可笑おかしくなって笑い出したくなっていた。


(こんなことってあるかよ)


 優香さんに掛かってきた電話は…。

 僕のかつての親友の男からの電話だったからだ。

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