遺跡
「遺跡の調査……?」
「ああ、最近リェイト王国で発見された地下遺跡だ。どこの誰が作ったのかは知らないが、セキュリティが高くて一般兵ではまるで歯が立たないらしい。それで兵器である貴様に、と」
「へえ……随分珍しい命令ね…………本当に珍しい、どこからの案件よ」
今まで似通った命令が全くないわけではなかった。
遺跡の調査と言うのははじめてだが、人の手が全く入っていない未開の地の調査……と言う名の害獣駆除などを命じられたことは何度かある。
それでも1号は基本的に兵器だ、戦場での人殺し以外の仕事が回ってくることは稀だった。
「どこだってお前には関係のない話だろう。というわけで、明日には向かってもらうぞ」
「……まあいいわ、人殺しよりよっぽどマシだもの」
戦場で人殺しを強要されるよりも遥かにマシな命令であるので、1号にしては珍しくなんの不満も言わずに素直にその命令を受けることにした。
そうして現在彼女はその遺跡の内部に侵入していた。
セキュリティが高いという話だが、侵入してそれほど経っていないからなのか、それとも先に調査に入った兵士達のおかげで入り口付近だけ罠がとけているだけなのかはまだわからない。
遺跡内部は薄明るかった。
どうも壁に特殊な魔鉱石が使用されているらしく、ぼんやりと光を放っているのだ。
それでも念を入れて1号は暗視の魔術を自分の両目にかけていた。
「ん? これは……」
遺跡内部を進み続けて5分ほど経った頃に1号はそれを見つけた。
壁に何かが刻まれていたのだ。
先程までそんなところに文字なんて刻んであっただろうかと1号は訝しみながらその文字を読む。
奇妙なほど精巧に書かれたその文字は数字だった。
『1111121111995311.1000』
1号はその数字の羅列を眺めて、一体なんの意味があるのだろうかと考える。
だが、よくわからなかった。
似たような数字の羅列は遺跡内に幾つかあった。
『22222*77770005311.4444*77777433322224444』
『333321100333221111.6666611133888881116888111 11334』
『444441112 22222*666*111000 00.33333 334444.4444411123310333355』
『04336154555553310333344444043355555777333222225555522222111666222005 55888997777755552*444444 444411999.6664994444477777.1 11334444119990』
時折奇妙な記号が入るが、基本的には数字が使われた文字列ばかりで意味のわかるものは見つからなかった。
おそらくなんらかの暗号なのだろうと1号は考えるが、解読はできなかった。
まあ別にいいだろうと1号は思う、解読するのは専門家の役目で、1号の仕事はこの遺跡のセキュリティと解除なのだから。
なので1号はその数字の文字列に気をかけずに先に進むことにした。
少し歩き続けていると、道が二つに分かれていた。
「何もないじゃない」
この遺跡に侵入してから1号は警戒を怠らなかったが、今のところは何も起こっていない。
セキュリティが高くて一般兵では歯が立たないという話だったがどういうことだろうか、と1号は首をかしげた。
「まあ、いいわ。……さてと、どっちに進むべきか……」
こういうのはどちらかが正解で不正解の道を選ぶと罠が発動するのがセオリーだと1号は考える。
感知機能を使っても二手に分かれた道の先に何があるのかはわからなかった。
だが……
「でも……右……な気がするのよね……」
感知機能を使っても何もわからないが、なんとなく右に進まなければいけない気がする、と1号は思った。
なので自分の直感を信じて1号は右に進む。
精神汚染や精神干渉を受けて罠のある方向に誘導されている可能性も考慮しつつ1号は慎重に進んだ。
人造兵器としてそういった術は自動的に解除される機能を1号は持っていたが、この遺跡がいつどこの誰がなんのために作ったのか不明であり、罠の強度が未知数であることも踏まえると警戒するべきだろう。
しかし何事も起こらず、1号は再び分かれ道までたどり着いた。
次は三叉路だった。
「おっかしいわね……何も起こらないじゃない……」
ひょっとして自分は騙されたのだろうかと1号は思い始めるが、あの男にそんなことをして利があるとは思えないとその考えを打ち消した。
一度引き返して左の道も見ておくべきだろうかと思ったが、罠のない道を記録して伝えれば問題ないだろうと1号は考える。
「というか……思いの外広そうね……」
まだ先のありそうな様子に1号は溜息をついた。
全てのセキュリティを解除するには時間が掛かるかもしれない。
そうでないといいのだけどと呟きながら1号は真ん中の道に進む。
真ん中の道を選んだのも先程同様カンだった。
1号は慎重に進み続けるが、再び何も起こらず分かれ道にたどり着く。
今度は4つに分かれていた。
「運がいいのか……それとも誘導されているのか……」
実はもうすでに自分はなんらかの罠にかかっているのではないかと1号は疑った。
何事も起こらなすぎるから、というのも疑った理由であるがそれよりも……
「次は右から二つ目……直感、っていうよりも……私がそっちに行きたい」
三叉路を過ぎたあたりから、1号は奇妙な心境を覚えていた。
やけに気がはやるのだ、先に進みたくて仕方がないというか、焦りに似た何かを1号は感じていた。
「それに……なんていうか……呼ばれてる……気がする……?」
こちらにおいでと手招きされているような、懐かしくて仕方がない誰かに呼ばれているような気がするのだ。
なんらかの精神干渉を受けているのだろうと1号は推測し、解呪を試みようとしたが何も変わらなかった。
なら仕方ないと、1号はそちらに進みたいという自分の感情を抑えて一番右の道に進もうとしたが――
「――っ!?」
あと一歩で右の道に入る、というところで背筋が凍るような恐怖を感じた。
こちらに進んではならないと本能が悲鳴を上げ、1号はいつの間にか右から2番目の道に走りこんでいた。
これは完全に術にハマってしまったようである、と1号は思わず溜息をついた。
こうなればもうヤケだと1号は半ばやけくそになって先に進む。
転移用の魔鉱石は用意してあるため、最悪何が起こってもそれで逃げればいいだろう、という余裕があったからこそ1号はその行動に出たのだ。
分かれ道を進み続けると、やはり何も起こらずに再び分かれ道にたどり着いた。
今度は5つに分かれていた、1号は一番左の道に進む。
そうして進み続けると道の先が6つに分かれていた。
「なら、次はきっと7つに分かれてるけね。……いつまで続くのよ、これ……」
小さく溜息をついて1号は右から3番目の道に進んだ。
進むごとに1号の中にある焦燥と、誰かに呼ばれているような感覚は強くなっていた。
はやる感情を理性で押さえ込み、1号は警戒を怠らずに先に進む。
そうしてやはり、7つに分かれた分かれ道までに辿り着いた。
「ああ、やっぱり……なら次は8つね、8つの次は9つでその次は10……ああもう、さっさと終わらないかしら」
というかこれこそが実は罠なのではないだろうかとも1号は考える。
焦燥は強くなるばかりで理性で押さえ込むにも限界が見え始めた。
先に進まなければという感情は強くなる一方で、慎重に行動すべきだという理性をどんどん潰していく。
この焦燥がこれ以上強くなり続けるとしたら? 理性をなくしてただ前に進み続けることしか考えられなくなるとしたら?
そして、この先に果てがなく、もしくはどこかで延々と同じ道を辿っているだけだとするのなら?
もしそうであるのなら、この先1号がたどり着くのは体力の消耗による衰弱死だ。
「10……分かれ道が10個になったら……一回引き返しましょう……」
その時まで自分の理性が残っていることを祈りながら、1号は左から2番目の道に進んだ。
先に進んだ1号はこれまでと何か様子が違うことに気付いた。
壁の光が先に進むにつれ強くなっていく、道の幅も徐々に広まっているような気がした。
この先に何かがある事を確信して1号は先に進む。
しばらく歩くと、1号は広い空間に出た。
長かった道もどうやらここが終着点であるらしい。
「ここは……」
1号は周囲に警戒しつつ先に進む。
流石にこの先には何かがあるだろうと確信しながら、焦燥を抑え込んで、前へ。
そうして、1号はそれを見つけた。
広い空間の最奥に、水晶に似た巨大な鉱石が存在していた。
少し青みを帯びた透明な、強い魔力を感じる鉱石だった。
あれはなんだと1号は遠目に目を凝らして気付いた。
鉱石の中に人間に似た何かが入っていることに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます