約束
それから半年後、ある程度の錬金術を習得した25号は実験室を去ることとなった。
「3年間頑張るんだよ……僕らも頑張るから……あ、後これお弁当とクッキーの詰め合わせ、列車で食べてね」
そう言った9号は大きな包みを25号に押しつけるように手渡した。
「無茶も無理もしないこと、死ぬなんてもってのほか。三年後に無事に帰って来なさい、私達も全力で生き残るから。それとこれ餞別、重傷レベルならなんとか回復できる魔鉱石」
1号は小さな巾着のついた紐を25号の首にかける。
「あ、ありがとう……でも私、多分遅くても8月に戻って来るけど……」
若干困惑気味に言った25号の言葉に1号と9号は怪訝そうな表情を浮かべた。
「え、なんで?」
「8月にあいつを連れて来る予定なの?」
「できればそうしたいけどね。でもそうじゃなくても帰って来るよ。夏休みだし」
「夏休み?」
2人してよくわからなそうにしている様子に今度は25号が困惑したが、少しして納得がいったのか
「えっと、8月から9月の初めまで学校が休みになるの。その時帰ってこられるから」
25号の言葉に2人は目を丸くした。
1号も9号も、というか兵器たちは全員学校というものに通ったことがないため、そんなものがあるということを知らなかったのだ。
25号も夏休みの存在をつい最近知ったばかりであったが、1号達も夏休みの存在を知らなかったことに多少驚いた。
「そっか……なら少し安心だ。三年丸々会えないものだと思ってたけど、四ヶ月後にはまた会えるんだね」
「なんだ……そういうことは早く言いなさいよ……全く、心配しすぎた」
「……2人とも知ってるのかと思ってた」
「僕も1号も学校には一回も通ったことなかったからね……それにしても休みが一ヶ月……」
「丸々一ヶ月も休みって、すごいわね……」
「……そうね」
基本的に戦場に出ている時以外しか休みがない彼らが休息を取れるのは多い時で週に3日、少ない時で0である。
また、いつ戦場に駆り出されてもおかしくないので基本的に休日という概念はない。
学生っていいなーと9号が小さく呟いた。
そんな時、部屋のドアが控え目にノックされた。
「あら。もうこんな時間」
1号が腕時計を見ると、時計の針は25号が出立する5分前の時刻を指し示していた。
「忘れ物はないかい?」
9号に25号は無言でコクリと頷いた。
「駅まで送る?」
「いい。大丈夫」
1号の申し出に25号は首を横に振り、完全に潰れたクッションの上から立ち上がった。
「そういえば、そのクッション持ってかなくていいのかい? 5号が作った奴だろう、それ」
「いいの。ここに置いてく」
どうせここに帰ってくることになるんだし、と25号はドアの外に立っている彼に聞こえぬようの小さな声で囁いた。
クッションの脇に置いてあった荷物を25号は重そうに持って、1号達に向き合う。
「それじゃあ、行ってくる」
「ああ、いってらっしゃい、気を付けて。8月にまた会おう」
「いってらっしゃい。怪我をしないように気をつけなさい。無茶だけは絶対にしないこと」
25号は小さく頷いて、部屋のドアを開ける。
外でおとなしく待っていた少年に対して悪態をつきながらドアを閉じた25号に1号達は相変わらずだなと苦笑する。
少ししてドアの外が静かになったあと、9号が口を開いた。
「行っちゃったね。さーて、僕らも頑張って生き残らなきゃ。8月にちゃんとおかえりなさいを言えるように」
9号の言葉に1号は無言で首を縦に振った。
1号達が25号を送り出してから三ヶ月の月日が流れた、7月の始まり頃。
25号が帰ってくる一ヶ月前。
むせ返るような夏の匂いが強くなってきたその日。
9号が死んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます