第21話 アリサが知らないボクと『ブルーノート』の最後の風景

ボクが大阪で過ごした最後の夜は、奇しくも『ブルーノート』だった。

隣にはヒロミさんが座っている。

「結局はヒロミさんの言うとおりになりました。黙っていましたが、ボクはミイちゃんと契りを交わしてしまいました。その結果がこの体たらくです。」

「やっぱりね。そうだと思ったわ。それでまた苦しい思いをしてるんでしょ。だから言ったじゃない。ダメよって。」

「はい。ヒロミさんの言うとおりでした。もうボクは壊れそうです。」

「どうして私の忠告を聞かなかったの?それでミイちゃんはどうしてるの?あなたがこんなに苦しんでいるのを知ってるの?」

「彼女は新しい事業に取り組んでいて、新しいパートナーといい感じで進んでますよ。先日、ちらっと様子を見てきましたが、お店はメディアにも紹介されて盛況のようです。もうボクが行っても余計なことになるだけだなと思いました。でもその姿を見て、良かったなと思う反面、苦しくて死にそうです。もう恋も終わりにします。ヒロミさん、お情けでいいですから、ボクにキスしてくれますか。」

「あなた、ホントにいい人ね。そしてホントにダメな人ね。」

ヒロミさんは、そっと慰めのくちづけをくれた。

やがて彼女の吐息を感じながら、ボクはボクでなくなっていた。

果たしてボクはこれからどうすればいいのだろう。どうすべきなのだろう。

もう、ボクの行き先も安らぐ場所も、・・・・・・何所にもなかった。



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