第11話 忘れえぬ海

宿のフロントでレンタカーを借りる手続きをして車が到着するのを待つ。

その間にボクたちは部屋に戻り、お出かけの用意を始める。例によって、着替えるところを見ていてはいけないらしい。昨日は生まれたままの姿を見ているというのに。このあたりの乙女心を理解するには、マメでないボクのような男どもには永遠にわかるまい。

支度が終わってフロントで待つこと約十分。今どき流行のコンパクトカーがやってきた。

「二人だし、荷物もないからこれでいいか。」

エンジンをかけてナビを設定する。とりあえずの行き先は「千里浜海岸」としておこう。時間があったら能登半島を北上するかも。

本来、十一月の末ぐらいなら雪の心配もあるのだろうが、今年は暖冬のせいか、まだ雪は降っていない。雪道に慣れていないボクには大変助かる。

「さてお嬢さん、おでかけしますよ。」

とわざとらしく手を取って助手席へエスコートする。旅先でなくては恥ずかしくてなかなかできない演出かも。旅の恥はかき捨てとはよく言ったものだ。

「うふふ。結構、恥ずかしいかも。」

といいながらもボクに手を取られながら助手席へ乗り込む。

「安全運転でお願いね。」

「かしこまりました。」

などといった会話もドラマめいている。

離婚する前は子供たちを連れて色んなところへ出かけたので、大阪や京都で運転なれしているボクにとって田舎の道は楽チンだ。飛ばし過ぎないようにだけ心がける。

「アリサは免許もってるの?」

「うん、あるよ。あんまり運転しないけどね。だから、代わってなんて言わないでね。」

「そんな恐ろしいこと言わないようにするよ。」

軽快に走る車は宿を後にして海へと向かう。

アリサもお出かけ用のおしゃれをしているので、車の中はすぐにヴァニラの香りで満たされる。何だかいい気分だ。


思えば今日は月曜日。街中は通勤の車がそれなりにあったが、郊外に抜けると単なる田舎道が目の前に広がった。

「ヒロシさんはよく女の子を海に連れて行くの?」

「アリサ、なんか勘違いしてない?ボクはそんなに女の子と遊んでたりしないよ。お店の女の子とデートしたのも、キミが初めてだし。それと、気になってたんだけど、『ヒロシさん』は堅苦しくない?ヒロちゃんでいいんだよ。」

「うふふ。ホントに恋人同士みたいになっちゃうじゃない?」

「いけない?」

「じゃあヒロちゃん。これでいい?」

「はあい。それでいいんじゃない?」

なんだか疑問符だらけの会話だ。まだお互いを知り尽くしたわけじゃない。色んなことをこれから知り合って、理解しあっていくのである。もちろん、人間のことだから理解し合えない部分もあるだろうが、そこは年長者のボクがわかってあげないといけないんだろうなと思っている。


車内を流れるのは地元FM局の音楽番組だ。

「アリサはいつもどんな音楽を聴いてるの?ボクはあんまり新しいのは知らないけれど、流行った歌なら知ってるかもよ。」

「そうねえ、別にこだわったのはないわ。でもよく聞くのはKバンドとかYHとかね。」

「そんな歌がリクエストされればいいね、この番組で。」

残念ながらアリサの希望通りのリクエストはなかったが、たまたまボクにとって思い入れの深い曲が流れた。


♪次のリクエストは、「アクアマリンのペンダント」です。♪


ボクが最初に付き合った女の子が三月生まれで、誕生石がアクアマリンだった。別れた時期も三月で、丁度そのころ流行っていた歌なのでよく覚えている。そういえば、メグも三月生まれだったっけ。

そのことはアリサには言わずにアクセルを踏み続けた。


田舎道のこと。一時間程度で海が見える。

「海ね。香川の海と全然違う。波がとっても荒い。」

「日本海の冬の海は暗くて荒くて淋しげでしょ。落ち込んだときに来るともっと落ち込むから、今のボクたちみたいに幸せなときに見に来ないとね。」

その荒くれた波をじっと見つめながら何かの思いにふけるようなアリサ。

「どうしたの?何か心配事でもあるの?」

「ちょっとね。実は次の仕事のことなんだ。来月から始めることになっているんだけど、それが少し不安で。」

このときは確かに仕事のことだと言っていたし、ボクも素直にそれを信じた。

「誰でも最初は不安なものだよ。でも勉強会も研修会もちゃんと行ってたんだから、きっと大丈夫だよ。自信を持って臨まないとダメじゃない。」

「ありがとう。勇気付けてくれて。」

と言って運転しているボクの肩に頬を寄せる。

「危ないよ。でも手は握ってあげる。」

「片手運転になるじゃない。そっちの方が危ないよ。」

それもそうだ。目的地まではあと少し、安全運転に徹することにしよう。


千里浜海岸はこの辺りでは有数のスポットだ。平日とはいえ先客が何組かいる。車で砂浜をドライブできるのがこの海岸のウリらしいが、トラブルがあったら困るので危険なドライブは遠慮しておくことにしよう。

とりあえずパーキングに車を止めて、ちょっと肌寒い海岸を散策することにした。

日本海の激しい波の音がボクらを歓迎しているかのようだ。

「二人で見る初めての海ね。アリサも海の近くで育ったから、海は好きよ。」

「アリサの初めてのデートも海だったりしたんじゃない?」

「そうだったかも。だいたい海が見える展望台とかが定番だったかな。」

「じゃ、我々も展望台を探しますか。」

「ここでいい。ヒロシさんと一緒なら。」

「ヒロちゃんでいいって言ったよ。」

「こういうムードの時はヒロシさんなの。」

女の子はムードを大切にする生き物だ。そのアイデンティティを否定してはいけない。

砂浜を歩く歩調はいつになくゆっくりで、砂を踏む足音も冷たい風も荒々しい波の音も今は優しく聞こえる。

「ここらあたりで貝殻なんかが落ちてると、ロマンチックなんだけどね。」

「じゃ、一緒に探してみましょ。」

女はロマンチックな出来事にはいつもポジティブだ。

二人して下を向きながら何分か歩いてみたけれど、残念ながらロマンチックな欠片はついに発見できなかった。

「代わりに貝殻のペンダントでも買ってあげるよ。」

「アリサは普通の貝殻がいい。頑張って探そっ?」

「じゃあねえ、もうちょっと北の方へ行こう。そうすれば見つかるかもしれないよ。もっと人が少ない海岸もあるだろうし。」

ボクも行ったことはないが、金沢から遠くなればなるほど人の集結は減るに違いない。海水浴場もあるみたいだが、きっと今の時期なら誰もいないだろう。

ボクたちはここを後にして、さらに北へ向かうことにした。二人だけの探検の旅だ。


高速道路は利用せず、一般道で海岸線を走る。

「何だかワクワクする。ヒロちゃんと一緒に何かを探索するなんて、すっごく楽しい。」

「大げさだなあ。でも、やっとヒロちゃんって呼んでくれたね。その方がボクも楽でいいよ。ところで、そこそこ歩いたし、お腹すかない?」

アリサはじっとボクの顔を見つめてこういった。

「今は二人のことと貝殻のことで胸が一杯よ。」

ロマンチシズムとはこのことをいうのか。まあいいや。おおよそボクには理解しにくい世界だが、今は彼女の乙女心を尊重しておこう。

千里浜海岸を後にして二十分も走ると、小さな海水浴場が見えてきた。とにかくここを探索してみよう。

駐車できるスペースを確保し、二人で冷たい風が吹く海岸線へ出てみる。

なんともこじんまりした砂浜だ。およそ小さな季節はずれの海水浴場ではあったが、幾人かの人影が見える。

「さあ、探索の始まりだ。」

「ワクワクするね。アリサ、頑張って絶対お宝を見つける。」

おじさん目線でいうのは仕方ないが、若い女の子の活気のある笑顔はいつ見てもいいものだ。

「よおしっ、端から端まで探すぞ!」

さすがにこの季節だから波に直接触れると、とてつもない冷たさが襲ってくる。波しぶきをできるだけ避けて、なおかつできるだけ波打ち際で貝殻を探す。

ある歌の歌詞で「空の宝箱を見つけて、それを満杯にする想像ができるか」というフレーズを思い出した。満杯にする必要はないが、それぐらいの気持ちで探さないと、一片のお宝さえも見つかるまい。そんな感じだった。

二十分ほど二人して下ばかりを向いていただろうか、

「あった。」

アリサの甲高い声が聞こえた。

「ヒロちゃん見て見て。」

アリサの手の中にあったのは、不思議と真っ白な貝殻だった。小さくて細長い巻貝の一種だろう、貝のことまではあまり詳しくないので、種類まではわからないが、日本海では珍しい透き通るような白さを放つ不思議な感じの貝殻だった。

「アリサこれがいい。お店で買ってもらうペンダントより、二人で探し当てたこれがいい。」

どうやら彼女のロマンチックな乙女心はご満足いただけたようだ。

この貝殻を二人で持って記念撮影。ここでもアリサのスマホが活躍する。

「ひぃ、ろぉ、ちゃんっ。宝物が見つかったら、少しお腹がすいた。なんか食べに行こ。」

そして急に現実に引き戻されるのである。

「じゃ、そろそろ宿へ戻ろうか。その途中で適当なところを見つけよう。」

「ウン。」

アリサの返事は弾んでいるように聞こえた。

まさかこの時、もう一度二人でここを訪れることになるとは思いもよらなかったけれど。


宿に戻る途中で見つけたカフェでミックスサンドイッチ一皿を二人で分け合った。温かいコーヒーが冷たい潮風に吹きさらされていた体を温めてくれる。

そのカフェを出て宿に帰ってきたのは夕方の四時過ぎ頃。

「もう温泉に入れる時間だよ。温まりに行こうか。」

「それよりも先にヒロちゃんが温めて。」

ボクはアリサの体温が感じるほど強く抱きしめて、彼女のヴァニラの匂いを確認する。そして、さりげなく唇を求める。

昨夜を思い起こさせるような熱い息がボクの口腔内に広がり、休ませていた本能の血がたぎり始める。

「ボクの抱っこはアリサの表面しか温められないから、ここの温泉に体の芯まで温めてもらっておいで。」

「じゃ、今日も一時間後にマッサージチェア集合ね。」

「ああ、ボクも後で行くよ。それとも迷子にならないように送っていってあげようか。」

「うふふ、大丈夫よ。子供じゃないし。」

そう言ってアリサは湯殿支度を整え、部屋を後にした。

ボクも明日の天気と電車の確認をしてから部屋を出る。

今日の温泉は昨日よりも熱く感じた。それだけ体は疲れているということか。五十の坂を上りだした体で二十代の若い体と一日中ハードに動くのである。若い頃スポーツをやっていてよかったと思うが、体力の貯蓄もあとわずか。今からもう一度本気で鍛え直すか、とも考えてしまう。

なにわともあれ、あとは夜を迎えるだけである。


待ち合わせ場所としていたマッサージチェアに先に着いていたのはアリサだった。昨日の振動がよほど心地よかったのか、かなり満喫しているようだ。

「もしかして、温泉よりもこっちの方がよかった?」

「温泉は温泉。これはこれ。両方ともいい。でもこれはとても気持ちいい。」

「その分だと、ボクの順番は回ってきそうにないな。」

またアリサの新しい一面が見られた。

「さあ、北陸最後の夜を満喫しよう。おいで。」

温泉のおかげで体の芯まで温まったボクたちは、またぞろ手をつないで、仲睦まじく部屋へと戻るのであった。

周囲の目を多少、気にしながら。


部屋に戻るとすでに宴の用意がされていた。

昨日とは打って変わって、今日は肉がメインだ。

「最初のデートは焼肉だったよね。そこからボクたちはスタートしたのかも。あの時ボクは安全パイだったけど、今や最も危険なジョーカーになっちゃったね。」

「うふふ、今でもヒロちゃんは安全パイよ。そしてアリサにとって最高に頼りになるナイトなのよ。」

「ボクにはアリサの安全パイの基準がわからないな。ナイトにはなってあげたいと思ってるよ。頼りないけどね。」

「これから新しい仕事をすることになるの。まだまだ不安で一杯だし、色々と教えてもらうこともあるかも知れないし。」

「ボクは難しいことはわからないよ。てきとーに生きてきたからね。アリサの方がよっぽど計画的に人生設計してるんじゃない。それよりも早く食べよ。そして今日はバーとかカラオケとかに行こ。」

「ウン。アリガト。」

今日もテレビはつけない。アリサの新しい仕事のことやボクの仕事のこと、アリサのお祖父さんやボクのお祖母さんのこと、お互いの学生時代のことなど、まだまだ聞いておきたい、話しておきたいことがたくさんあったから。

美味しい肉に舌鼓を打ちながら、程よく時間が進む。そして程よく宴の時間は終わる。


「いい休みになったかな。アリサの想い出に残る旅行になったかな。ボクはこの旅行のことを一生忘れないよ。」

「もちろん忘れないわ。忘れる時は私が私でなくなるときね。」

何だか意味深なことをいう。

「どういう意味?」

「ちょっと言ってみたかっただけ。別に意味はないわ。」

今のボクたちにとって、食後のデザートは甘い抱擁が一番。特に唇を合わせるでもなく、体を弄るでもなく、ただお互いの体温を確かめ合うだけで充分に甘い時を過ごせる。

ときおり見つめあう眼差しは、互いの笑みを呼び込み、互いの匂いを確認し合う。

「少し散歩に行こうか。」

「ウン。」

途中で温泉に入りたくなるかもしれないからと、タオルだけ半纏の懐に忍ばせて部屋を出る。

館内には卓球場やお土産売場、そしてカラオケボックスまで設置されていたが、ボクたちはアダルトらしく最上階にあるバーに繰り出した。

もちろん館内客専用なので、スペースは狭い。カウンター五席とテーブルが二卓のみ。

ボクたちはカウンターに陣取り、ボクはバーボンをアリサはジンライムをオーダーする。

「素敵な夜の眺めね。」

展望台ではないが、少し小高い丘の上の建物なので、最上階だけに金沢方面の街並みが見下ろせる。

程よいムードと程よいアルコールがボクたちの間に漂う空気を心地よく巡回させる。交わす言葉は意外にも少ない。時折り目を合わせ、「ふふっ」と息を漏らし、おでこや頬を合わせる程度。もちろんカウンター席の上で二人の体は常にぴったりとくっついている。

ただのバーなのでカラオケはない。BGMはムーディなピアノソロの曲が流れている。ゆっくりとした時間だけがボクたちの横を通り過ぎていく。

特に会話は要らなかったが、一瞬目を伏せて、呟くような仕草が少し気になった。

「どうしたの?」と尋ねてみたが、

「なんでもないわ。」と言ってボクの肩に頬を寄せて、ただニッコリと微笑む。

一時間ほどまったりしたであろうか。静かな、そして深い時間を過ごせた。

「そろそろ出ようか。ちょっと冷えたんじゃない?お湯に浸かっておいで。」

「ウン。その後、マッサージ機ね。うふふ。」

最後のうふふは特にいたずらっぽい。


今度の湯加減は夕刻時ほど熱く感じなかった。ボクの体も充分に休養できている証拠か。久しぶりにゆったりとした、そして充実した旅行となったことに満足していた。これからどうなるかなんて、どんな神様も予想できないだろう。そう思いながら体の芯を温めていた。旅行最後の夜を迎えるために。

今回はボクの方がマッサージチェアに到達するのが早かった。夕方は一秒たりとも座れなかったので、今回は先着がありがたい。コインを入れて振動に身を任せる。

今回はなかなかアリサの姿が現れない。別に待つことが苦にならないボクは、ずっと心地よい振動に身を任せていた。

やがて体中からポカポカと湯気を漂わせながら、女湯の暖簾をくぐってアリサが出てきた。

「待った?すごく気持ちよかったから随分長湯しちゃった。」

「いいよ。おかげで今回は充分マッサージチェアを独占できたしね。」

「アリサはもうマッサージはいらないわ。まだ若いもの。」

そう言ってマッサージチェアから立ち上がったボクの腕に飛びこんでくる。

またぞろボクたちは手をつないだまま廊下を歩く。

お土産屋の前でふと立ち止まったアリサ。

「ちょっとお土産物見てもいい?新しい職場の人に買って帰りたいから。」

「とかいいながら本命の彼氏にお土産買ったりするんじゃないの?」

「えっ、ヒロちゃんも欲しいの?本命はヒロちゃんよ。それよりもヒロちゃんのお仕事関係の人にお土産を買わなくてもいいの?」

こういう気遣いはさすがに女性である。ボク一人では気がつかないだろう。

しかしながら、今回の旅行の件は誰に連絡してあるでもなく、ボクの中では特にお土産が必要な人物が思い当たらなかった。

「ボクはいいんだよ。アリサの必要なものだけ探せばいいよ。」

それでも、さほど広くない土産物コーナーで、アリサはいくつかの土産を購入した。

買ってあげるというのに、「これは私の買い物だから」と言っていつの間に用意していたのか自分の財布を出して払っていた。


部屋につくと、そろそろ明日の帰り支度。そんなに急ぐ必要はないけれど、朝になって焦ると、忘れ物をする原因になることは間違いないからね。

アリサは先ほど購入したお土産と着替えをキチンとカバンに詰め込み、ボクにも帰り支度を促す。「ちゃんとしないとダメよ。」女房気取りで言われるセリフもなんだか心地よい。

帰る支度も万全。あとはゆっくりとした夜を過ごすだけとなった。

並べてある布団をできるだけくっつけて、中にもぐりこむボクたちは、旅行最後の夜を充分に満喫する。

「あっためてあげるからこっちにおいで。」

ボクはアリサの体を引き寄せて、やがて一枚一枚着ているものを剥いでいく。アリサもそれに倣ってボクの着ているものを剥ぎ取っていく。

昨夜と同じように、生まれたままの姿になったボクたちは、昨夜と同じように熱い吐息の中で深い夜に埋もれていくのだった。

まるで、ずっと今まで長く愛し合ってきた恋人同士であるかのように。

外では冬の到来を示唆する北風が、ただただ吹いていた。



翌朝、ボクたちはほぼ同時に目覚めた。

すっきりとした朝だった。もう二人は他人じゃない。そんな自覚を持って旅立とうとしている二人だった。

セクキャバの嬢と客の関係だったボクたちは、誰知ることなく恋に落ち、誰に言うことなく愛を育むことになるのである。

朝一番のくちづけを交わすと同時に、ボクがアリサにお願いをする。

「一つだけアリサにお願いがあるんだ。何かあっても、黙ってボクの元から去っていくようなことにはならないでね。アリサの全てを受け入れる覚悟はできたから。」

「ヒロシさんもね。約束してね。」

「誓うよ。日本海の神様に。」

「そんな神様っているの?」

「いると思うよ。アリサが拾った貝殻の中に。」

「そうね。きっといるわね。じゃ、この貝殻、ずっと肌身離さず持ってることにするわ。」


そろそろ朝の気温が日増しに冷たくなってくる十一月の最終週。忙しくなりそうな師走の日常へと帰る二人。

それぞれの記憶の中に様々な想いを膨らませ、お土産とともに南へと電車は走るのだった。



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