第4話 春真っ只中

そして待ちに待った予定の訪問日。

またしてもボクは訪問前のルーチンを確実にこなし、今日は何をして遊ぼうかと胸がワクワクするのである。

事前にネットで彼女の出勤状況を確認したことは言うまでもないが、店のブログに書かれている彼女のページを確認することも忘れなかった。店のホームページでは、嬢たちがお客たちに近況報告をしたり、出勤情報を提供したりできるブログのページが用意されていた。ミイが書いたページは、今週の出勤予定のみが書かれている単純なものだったが、それはボクに向けて書かれてあるものだと自意識過剰気味に理解しておく。

その日はたまたま仕事がオフだったウイークデー。週末よりも集客は劣るので、ゆっくりとした時間が取れる。

いつもの慣れた階段を上がり。いつもの慣れたボーイとのオーダーのやり取りを済ませ、いつもの慣れたシートで待つ。やがて現れるミイ嬢。

「ヒロさん、待ってたよお。もう来てくれないのかと思ったあ。」

「そんなわけないじゃない。今ボクがキミの虜になりかけてるのわかってるでしょ。」

「ええ、そんなことないでしょ。ヒロさん上手ね。」

まずはミイの体を引き寄せ、腰に手を回してぐっと抱き寄せる。

彼女の涼しげな体の芳香を吸い寄せて密着していることを確認する。

「あれからいろんなお客さんに店外デートを誘われたりしてるでしょ。」

「うん、いろんな人から言われる。」

「でもね、絶対について行っちゃダメだよ。何があるかわからないからね。で、明日のランチボクと一緒にしない?」

「ヒロさん言ってることがおかしい。ヒロさんだと大丈夫ってこと?」

「いやいやそんなことないよ。他の誰よりも最も危ないかもね。で、一緒にどう?」

「じゃあ、だめよ。」

「そう、まずはそれが正解。で、何が食べたい?」

「えーと焼肉かな。焼肉が食べたい。」

「じゃ行こうか。」

「ウン。」

「だからダメだって言ってるでしょ。」

始めの挨拶としては、まあまあのつかみでスタートする。

彼女も入店して二ヶ月が過ぎようとしていた。お得意さんはどれぐらい付いたのだろう。週に四~五日出勤している彼女は、かなりの頻度で多くのお客さんと出会っている。彼女のセールスポイントとウイークポイントをうまく理解できれば、いいパートナーになるはずなんだけどな。などとマネージャーでもないのに心配している。

「でも、店の中では恋人同士だからね。」

「いいわよ。どうすればいいの。」

ミイを斜向かいに座らせて、体をボクの膝へ預けさせる。そうすると、ボクの片方の手がフリーになるので、彼女の色んなポイントを攻略しやすくなるのである。しかも、顔は正面なので、唇も奪いやすい。

「まずは、『ヒロさん会いたかった。』って言ってくれる?」

「ヒロさん、ミイ、とっても会いたかった。」

「次は、『ヒロさんの腕に抱かれたかった。』って言って。」

「ミイはヒロさんの腕に抱かれたかった。」

素直でいい子だ。ちゃんと復唱してくれる。まあ、客商売なので当たり前と言えば当たり前なのだが、こんな注文をする客も少ないだろう。

「じゃあ、抱いてあげよう。」

と言って彼女の背中を支え、唇を重ねる。同時にフリーな手は、彼女の僅かな水着の内側へと潜り込み、エロティックな冒険を始める。特に隆起物の頂点には念入りに。

そこでしばらく彼女を弄んだあと、ボクのフリーな手は、彼女の下半身へと移動を始める。

「今度はもう少しエッチな遊びをするよって言ってたよね。」

といいながら、ビキニの内側へと滑り込ませる。

「ダメなときはダメっていうんだよ。」

「いいけど、優しくしてね。たまに乱暴な人がいるからちょっと怖い。」

彼女の洞窟への入り口はすぐに発見できた。少し刺激を与えて、侵入許可が下りるのを待つ。やがてゆっくりとしたあいさつの後、ようやく侵入許可が下りる。

彼女の望む通り優しく、ゆっくりと見学するかのように壁面を探りながら侵入する。湿った空気がボクの指を包み、温かな粘液がボクの指を歓迎してくれている。

一人の男として若い女性の洞窟探検に歓迎してもらって嬉しくないわけがない。暴れすぎない程度に適度に遊びまわったのちに洞窟探検を終了した。

「ゴメンね。楽しませてもらったよありがとう。でも、ボクとしてはホントにこの後も楽しみたいんだけどな。」

「謝らなくていいのよ。ミイもよかった。ヒロさんとならこの後も許しちゃうかも。」


随分と期待を持たせる。しかし、早い時間から入店しているボクはここからラストまで粘って彼女の終わる時間まで待つ気はない。今のところは、そんなことを本気で望んでないのはミイもお見通しである。

しかし、何度か彼女とまったりとした時間を過ごすと、いずれはそんな関係になってみたいと思ってくるので不思議である。それが疑似空間のなせる業かもしれない。


「今度の休みの日、ランチしに行かない?」

「ねえ、それって本気で誘ってる?だったら行ってもいいよ。」

「だからダメだって言ったでしょ。」

「だってヒロさんは誠実そうなのわかるもん。」

「馬鹿だな、誠実そうなふりをしてるだけなんだよ。キミを騙そうとしていい子ぶってるだけなんだよ。みんなそうだよ。」

しばらくはこのパターンで遊べそうだ。もちろん、彼女も本気で行ってもいいなどと言ってるわけではない。だけどそのやり取りがしばらくの間は二人の話題になりそうだ。

そうしているうちに、彼女とのまったりとした時間もこの日の幕引きを迎える。


今日はそこそこ遊べた。この分ならボクの心の中に引っかかっている何かも、彼女がいつか解消してくれるかもしれないと、少し期待する。

やがて、彼女はドアのところまでお見送り。ヴァニラの香りを漂わせながら。

「またきてね。」

明るい笑顔がいつまでもボクの背中を見送ってくれた。


帰り道、月明かりを浴びながら考えてみた。

所詮はただの遊び。キャバ嬢とすけべ親父の遊びなのだ。メグと遊んでいるときもそうやって遊べばよかった。もっと割り切って遊べたんじゃないかと。



さて、面白い遊びは見つけたものの、そう毎週毎週遊びに興じられるほどボクもお大尽ではない。月に二回も行ければいい方か。それでも折角楽しい遊びを覚えたのだから、新しい遊びをさらに面白くする手段を考える。

まずはお土産シリーズである。先日の東京土産となった(実際は沖縄土産なのだが)石鹸は評判がよかった。今度行くときにはパパイヤの香りがするのかどうか確認しなければ、などと勝手に思っている。

今のところ、東京にいいお得意先の広告代理店があるので、月に一度ぐらいの割合で東京出張があり、その度にお土産を入手できる。幸いにもあの石鹸シリーズは十数種類あったので、しばらくはこのシリーズで遊べそうだ。

また、今度行ったときには彼女の食の方の趣味も聞いておこう。ボクはどちらかと言うとそっちの方が得意だから。

まだ彼女の好きな食べ物は「焼肉」だけしか聞いていない。これではいくらなんでも淋しすぎる。最終的に彼女を食事に誘うにしても、毎回焼肉では芸がないというものだ。などと勝手に妄想にふけっている。

結局はこういう妄想している時間が楽しいのかもしれない。



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