第17話 デ・ビブリオテカ

キング・メイソンが、黒馬に乗った男と空中で戦っていた頃、他の元メイソン構成員は、ハウニブ内で落下に備えていた。


地上との距離が数十mになった頃合で、マイスターは、サイキックに能力を発動する様に命じる。


「そろそろ良いだろう

サイキック、能力を使ってこの艇を浮かせろ!」


マイスターの声に、喧々諤々としていた船内は、急にスイッチを入れた様子で様変わりし、サイキックが手に持ったスラップスティックで艇の床を叩き、音を鳴らすと、サイキックの服の絵がニヤッと薄気味悪く笑い、緑色の光が艇の外側を包むと艇は、空中で静止しその後、ゆっくりと着陸した。


艇が、着陸を果たすと皆、安心して地上に出ようとした。

そこは砂漠地帯の敵兵士達から1km程離れた所の周りを塔の様に巨大な岩が並び立ち、砂が高く積まれ山の様になった物が行く手を阻む、あまり進軍に適した場所とは言えない場所だった。

皆が降りようとした時、最初に降りようとしたガーダーが、大軍で此方に向かってくる影を見つけた。

その影は、ターバンを巻きコートを着て、腹巻の様な位置に付けた布にジャンビーヤアラビアで使われていた短剣をさしていた。

それは、三十人程の集団で砂が積もってできた山の上から見え始め、数人が顔を見せると、一斉にジャンビーヤを抜き、ハウニブまで走ってきた。


「敵襲だ!

備えろ!」


とガーダーが、叫び勇ましく大軍の正面まで走るとハルバードを振り上げ、能力を発動しようとする。


「悪いな

全員、生き埋めになって貰うぞ!」


そう言ってガーダーが、ハルバードを振り上げ鎧の肘の輝きが増すと、敵の集団が足を止め投石を始めた。


「ふっ!

俺を恐れたか

だが、容赦はしないぞ!」


とガーダーが、言った途端、ガーダーは、目の前が霞む様な感覚に陥る。


「なんだ...これ...は...」


ガーダーは、そのまま糸が切れた様にバタリと倒れ、敵の集団が投げた野球ボール大の石がガーダーの上に大量に落ちて行く。

ガーダーのフリューテッドアーマーは、通常の鎧よりも耐久性の低い仕様なのでガーダーの鎧は、ベコベコと凹んでいった。


すると、敵は再びジャンビーヤを抜き走り出した。


「ガーダー!」


パイロが、ガーダーが倒れた事に驚き急ぎ近づこうと、体に炎を纏い炎の羽根を生やして宙に浮き上がると、塔の様な岩の上に、とんがり帽子を被った、黒い二カーブムスリムの女性が付ける目元だけを出した服姿の女性達が杖を持って立っていた。


「なんだありゃ?」


パイロが、不思議そうにそれを眺めると、女性達は、パイロに杖を向けてクルクルと空を混ぜるように回した。

すると、パイロは徐々に意識が薄れ空中で気絶した。

気絶したパイロからは、炎が消え急速に落下して行く。


「ああっ!

パイロまで倒れたぞ!

どうなってる!」


ヒートショットが、いよいよ恐怖に顔を歪め、そう言うと、


「どうもこうもねえ!

助けに行くぞ!」


と、スパイクとサイドワインダー、サイキックが走りってハウニブから飛び出した。


「おい、お前達!

勝手な事をするな

今、行ってもやられるだけだ!」


マイスターが、そう叫ぶが、三人は脇目も降らずに仲間の元へ走っていく。


敵の集団は、既にガーダーの近くまで到達していた。

敵は、ガーダーとパイロに近寄り、嬉しそうに、何やら話し合っているが、何語かはわからなかった。


「仲間から離れろ!」


そう言って、ヒートショットがガントレットから能力のビームを出して、パイロを掴んで持って行こうとしていた敵を撃った。


ビームは、敵の頭に直撃し、頭が完全に吹き飛びビームが当たった首の切断面は、黒く焦げていた。


敵は、それに怒りヒートショット達に向かって走った。


敵が、パイロとガーダーから離れると


「よし、もうこっちのもんだ!」


と言い、サイキックは、スラップスティックを振り、音を鳴らすと、敵が緑色の光に包まれ、動きを止めた。


「やっちまえ!」


サイキックが、怒り心頭にそう言うと


「任せろ!

ぶっ殺してやる!」


と、ヒートショットが、ビームを乱射し敵を焼いて行った。敵を五人程ビームで殺すと、ふいにヒート・ショットは目眩がして俯き始める。


「どうかしたか?」


横にいたサイドワインダーが、心配そうに尋ねると


「何か...頭が...」


と言いながらヒートショットは、気絶した。


「おい、大丈夫か!」


とサイドワインダーは、ヒートショットが倒れる前に抱きとめ、上を見ると、黒服の女性達が岩の上で杖を振っていた。見ると、サイキックも既に気絶し倒れていた。


「なんだよこれ!

どうなってんだよ!」


サイドワインダーが、もう訳がわからないと泣くように叫んだが、敵は、それに目もくれず倒れた仲間の周りに群がっていた。


「くそう!

やめろ!」


サイドワインダーは、敵に向かってワイヤーを飛ばし、鋭く尖ったワイヤーの先で敵を貫いた。

敵を貫くと、敵が群がっていて見えなかった倒れたパイロの姿があった。だが、パイロの惨状を見てサイドワインダーは、目を疑う。サイドワインダーが、見た物は、敵が集団で短剣を突き刺し、パイロの肉を切り取って生きたまま食べる敵の姿だった。


「うああああッ!

人を食ってる!」


サイドワインダーが叫ぶと、敵はサイドワインダーの方を向き、ジャンビーヤを持って迫ってきた。

サイドワインダーは、食われるという恐怖に慄きながら、必死でワイヤーを伸ばし、襲い来る敵を討った。

迫る食人鬼、早まる呼吸、目はぎょろぎょろと辺りを見回し、降りかかる火の粉を逃さぬ様に必死で敵を睨んだ。短剣を振りかざす怪物を一人また、一人とワイヤーで貫き、震える右手を左手で抑え、ガタガタと音を立てる歯を噛み締めて、接近戦の不得意な自分の能力を恨みながら戦うサイドワインダーは、最初は善戦していたが、敵の一人が短剣を投げつけ、サイドワインダーの右肩に突き刺すと、徐々に戦況は悪化した。


「クソッ!

クソう!

手がッ!」


上がらなくなった利き手を垂れ下げて、左手でワイヤーを扱うようになると命中精度が落ち始め敵が距離を詰め始める。

サイドワインダーは、覚悟を決め一瞬の隙が出る事を承知で左手のワイヤーを右手に突き刺し、垂れ下がった右手を左手で横から引っ張り固定した。

その隙に敵の一人が全力でサイドワインダーに突進し、サイドワインダーの腹に短剣を突き刺した。


「このッ!

このド畜生がッァ!」


サイドワインダーは、右膝で男の股間を蹴り、男が怯むと右手のワイヤーを槍の様に固定して、そのワイヤーを腕から切り離し、つっかえ棒の様に立てかけて、男を壁にすると、男の肩に右手を置き、左手のワイヤーを外すと、左手で右手のガントレットを操作し、ワイヤーを大きな網状にして、前方の敵に放った。

敵が、三人程網に捕まり、それを確認すると、それと同じ様に左右に一つずつ同じ様に敵を捕らえた網を作ると、さらに敵の入りが不自由になった。

前方の敵は、その隙間から入ろうと網を迂回するが、サイドワインダーは、さらにガントレットを操作してワイヤーを左側の網に向かって射出した。

高速で射出されたワイヤーは、左の網に捕まった男の頭に横から突き刺さり真ん中の網を通り、右のワイヤーまで到達すると、柵の様になった。敵は、そのワイヤーを掴み登ろうと掴むと、サイドワインダーは、再びガントレットを操作し、ワイヤーから高圧電流を流した。

前方の敵は、吸い寄せられるかの様にワイヤーに触れ、黒焦げになると、肉の焼ける匂いにむせ返りながら、サイドワインダーは、安堵した。

サイドワインダーは、敵から離れ、仲間の元に帰ろうと振り返ると、再び、恐怖がサイドワインダーを襲った。


ハウニブにいる仲間は、サイドワインダーの表情を見て、後方を確認すると、そこには、砂漠を歩く約五百人の当世具足戦国時代の日本の甲冑を付けた武士の姿があった。


サイドワインダーは、急いで仲間の元に帰ろうと走るが、ふいに目眩がし、そのまま倒れた。


マイスターが、ハウニブの中からカメラ越しに大軍の武士を確認し、仲間の被害が甚大な事に気付きハウニブを操作し、一時撤退しようとしたが、ハウニブの操縦系は何故か反応しない。

何度も操作を試みている内に武士達が近づき、ハウニブから、100mの距離で止まると武士達を掻き分けて、頭にワインレッドのターバンを巻き、同じ色のマントを羽織り、汚らしいレデルセンズボンと靴が一緒になった靴を履いた大きな本を持った男が楽しげに現れた。

そして、その男はハウニブに向かってこう叫んだ。


「や〜あどうも!

始めまして〜

凄いね〜君たち〜

ダグロイアン王国の食人族を倒すなんて〜

でも、魔法に対しては何も出来ない見たいだね〜

見させて貰ったよ!」


と男は、得意げにそして、矢継ぎ早に騙り出した。


「なんだ、アイツは?」


ハウニブの中で、マイスターが、警戒しながら聞いていると、男は手に持った本を叩いてこう言った。


「どうだい彼らは〜

初めて見ただろ?

それも、そうさ〜

彼らは遠い東方諸国の住人だからね〜」


男が、そこまで言うと、マイスターは、辺獄からの敵は歴史上の人物であると聞いていたので男が、誰だか直ぐにわかった。


「アイツは...」


マイスターが、名前を言いかけると、それと同じ男は、


「なんで僕が知ってるかって?

そりゃあ、知ってるさあ!

なんたって僕は、生で見てきたからね!

君も僕の本の名前くらいは、知っているだろう?

かの有名な、東方見聞録デ・ビブリオテカ

僕の名は」


「「マルコ・ポーロ!」」


二人が同時に、違うニュアンスで強調して男の名前を言うと、マルコ・ポーロは、


「さて、自己紹介も済んだところで」


と言いながら、パンパンと服を叩いて埃を落とす動作をして


「君達の実力をもっと良く見せて貰おうか

そんなもんじゃ無いんだろう?」


と、不敵に笑うと、


「さあ、みんな突撃だ!」


と叫んだ。

マルコ・ポーロの号令に合わせ、武士達は一斉にハウニブへ走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る