第115話 【Side:ステラ】意地っ張りとゲスの泥試合

 『グランツバース砦』に着いた時、全ての荷馬車は無くなり……砦まで辿り着けたのは18名中5名だった。


 キリコとわたしの両小隊長と、ハーフダークエルフの女闇司祭(見習い)のシオン、あとは荷運びの人間の男性2名。


 つまり、ステラ小隊のスケルトン5体は全滅。キリコ小隊も全滅に近い。同行した人間4名も死亡。


 おつかいのようなわたしの初任務は失敗に終わった……


 『グランツバース砦』では補給物資が届かない件についてキリコとわたし、そしてシオンの聴取が行われた。


「ですから、アレが着地した時点で全ての馬車は大破し、何人かは絶命したんですよ!そもそもあんなのを倒すなんて無理ですから。何だっけあの黒い龍……『ダルマシュリンプ』?」


「『暗黒龍ダルクシュレイヴァ』だよ。」


 ありがとうキリコ。でも覚えにくい名前。


 はじめにキリコが事の顛末を報告したが、聴取官である『グランツバース砦』を所掌するケンタウロスの『ベックスガル』砦長が訝しげに納得しないので、続けてわたしが説明した。


「そうか。まぁだ、黒曜龍に遭遇したのは災難だったな。しかしな……貴重な支援物資を放置して来るとは何事かぁ!!人間が2名もいるのだから持てるだけ持たせるべきではないのか?馬がいなければ人間が持てば良いのだ!!あぁ、貴様も人間だったか。貴様も持てば良かったのだ。たわけがぁっっ!!!」


 命からがら生還した部下に対し、人間差別の極みな人馬の言葉に憤りを感じたが、相手は上官……グっと堪える。


「撤退はわたし達小隊長2名の判断です。正直、恐ろしくて逃げるだけで精一杯でした。」


 キリコはその巨大で深い闇と恐怖を具現化したような黒曜龍を思い出すだけで震えが止まらなかった。


「人狼ともあろうものが……情け無い!」


 ベックスガルの言葉にキリコはただ俯く。


「お言葉ですが、ベックスガル様は黒曜龍が恐ろしくは無いのですか?」


 砦長ベックスガルの顔が一瞬で険しくなる!


「貴様、何と言った!?」


 それは……わたし達の後ろに控える闇司祭見習いでハーフダークエルフのシオンだった!


「誰が口を開いて良いと言った!そして高官である俺に対してゴミのような身分の貴様が何と言ったぁ!?こっちへ来い!!」


 一般兵が上官であるキリコ小隊長を差し置いて、その遥か上の高官に進言するなど有り得ないことだった。沸点が低そうなベックスガルでなくとも逆鱗に触れることだろう。


 シオンは前に出ようとするがそれをキリコが制す。


「ベックスガル様、お許しを。部下の不敬は上官であるわたしの責任です。罰ならわたしが受けます。」


「小隊長、これはわたしが……」


 キリコは振り向きざまシオンを殴り飛ばす!!


「わたしの顔に泥を塗ったばかりでなく、口ごたえするか!バカモノ!!」


 加減の無い一撃で気絶するシオン。うわ、容赦がない!


 キリコはシオンを守るため敢えて自ら手を下したのだろう。いつものやんちゃなキリコではなく、上官として軍人としての振る舞いに感動すら覚える。


 わたしだったらそんな風にできただろうか?むしろシオンを庇い、先頭切ってベックスガルに盾突くかもしれない。


「ほぅ、それでケジメを付けたつもりか!?そいつはこのベックスガルを愚弄したのだぞ!この私の怒りが収まる訳ないだろうがぁ!?」


 あ、コイツはゲス野郎だと直感した。男気溢れるキリコの行動を台無しにする一言。


「失礼ながら、シオンの愚問がお気に召さなかったのは心から暗黒龍が恐ろしいんですよね?虚勢を張らないと示しがつかないんですよね?」


「貴様……何を言っている!?」


「ステラ!?」


 火に油を注がれベックスガルの顔が鬼神の如く怒りに満ちる!


「シオンはわたしと良く似たバカモノだけど、彼女が聞かなければわたしが質問していました。どうですか?もし恐ろしくないのなら、一緒に黒曜龍退治に行ってくれませんか?何せ、王国の財産である貴重な物資を台無しにした憎き龍。これはもう退治するしかありません。是非ともベックスガル様の勇敢なお力で龍を討伐してください。」


 わたしはその場に跪きお願いをする。怒り心頭に発するベックスガルはその前足を高く上げると勢いよく下ろす!そこにはこうべを垂れたわたしの頭があった。


 ガシュッ!!


 大きな音が響き、床の石材が砕け散る!


 ベックスガルは確かにわたしの頭を踏み砕いたと思っただろう。しかし、そこには割れた石床の破片しかなかった。わたしは数歩下がったところで跪いていた。


「馬鹿な、逃れただと!?」


「ステラの病気が始まった……」


 キリコは手で頭を押さえるながらそう呟いた。


「もうよせ、ステラ!」


「よさない!人間のわたしも踏めないようでは暗黒龍は荷が重いですか?ベックスガル様。」


 わたしは重い口調で軽口を叩きつける。


「それが上官に対する言葉か?死にたいようだな、人間がぁ!!」


 もはや歯止めが利かなくなったベックスガル。怒りに任せて襲いかかってくると警戒していたが、その予想は裏切られた。口を開くベックスガル。


「そうだな、ステラ小隊長に命令する。一人で『黒曜龍ダルクシュレイヴァ』を討伐せよ。」


 そ、そう来ましたか!


 更に話は続く。


「いや、待て。そうだな……流石に一人で『黒曜龍ダルクシュレイヴァ』の相手はキツかろう。貴様ら3人で討伐してこい。逃げ帰ることは許さぬ。生きて帰るのは『黒曜龍ダルクシュレイヴァ』を討ち取った時だけだ。良いな!」


「な!?キリコやシオンは関係ないでしょう!自分は来ないなんてチキン駄馬!?悔しかったら同行しろってーの!!」


「低脳め。砦長たる俺は多忙なのだ。そんな雑務に行く訳なかろう。馬鹿めが!」


 挑発をするが不発に終わる。しまった、コイツは真のゲス野郎だった!


「なら、わたし一人で十分だよ!」


「俺が決めた事だ。お前たちには監視を付ける。すぐ討伐に経て!」


 ベックスガルはそれだけ言うと、扉が壊れるほどに蹴り開けて部屋を出ていく。


「ゴメン、キリコ。取り返しのつかないことに。あとはわたし一人でやるから……」


 そんなわたしの頬を力いっぱい殴るキリコ!


「ふざけるな!またそうやって一人で!!これはもうステラだけの問題じゃないんだ。責任を感じてるなら、最後までわたし達と一緒に行動しろよ!!!」


「シオン……も?」


「当たり前だ!!これは3人に与えられた命令なんだ。」


 キリコがここまで軍人気質だとは想像もしなかった。カッコイイのだが……正直面倒臭い。


 わたし一人ならこんな命令すっぽかして騎士団長ヴェイロンや、最悪、魔獣王に頭を下げるつもりだったが、キリコの感じではそうも行かないだろう。


 自分が蒔いた種とは言え、こうなると覚悟を決めるしかないかな……


◇◇あとがき◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


こんなパワハラ上司に出逢ったら最悪ですよね〜。そんなパワハラ人馬を煽るステラにも近寄りたくないですね。(¬_¬)


お読みいただいた感想や評価をお願いします。いただけると今後の励みになりますし、もっと良い話にできますので、是非ともお願いします。m(_ _ )m


毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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