第114話 【Side:ステラ】はじめての任務(おつかい)
「キリコ小隊長とステラ小隊長、くれぐれも気をつけて行ってくるようにね。特にステラ君には初めての任務だしね。期待しているよ!あとで合流するから。」
背筋を伸ばし姿勢よく座りながらそう語るのは、わたし達の上官に当たる中隊長『リトカーズ』。
彼は男性の淫魔(インキュバス)だが、見た目からは悪魔族とは気付かない程に普通で若い男の子といった容姿。
何より見た目を裏切らない、悪魔族としては異例なほど優しくお人好しな性格で、多くの女性から慕われていた。
逆に中隊長としてやっていけるのかと心配になるほどに。事実、上官と部下の板挟みで、口癖は『胃が痛い』であった。
「気をつけるのはリトの方だよ。体調悪そうな顔してるし。また、お腹痛いの?」
人狼のキリコがリトカーズを心配する。上官を呼び捨てなのが笑える。
あまりの威厳の無さと親しみやすさとほっとけなさはまさに弟キャラで、一部から愛称『リト』と呼ばれていた。
「心配掛けて済まないね、キリコ君。」
ハニカミながら頭を掻くリトカーズ。
「全くですよ。部下の士気に関わりますから、もっとしっかりしてください!」
キリコがリトカーズに喝を入れる!
「分かったよ、ありがとう。」
どっちが上官か分からない。
「じゃあ、リト君。おつかい行ってきまーす。」
わたしはそう言うと、一応敬礼して退出する。笑顔で見送るリトカーズ。
◇◇◇
「リトってどこか心配になるんだよね。あんなんで戦場に出たら真っ先にヤられちゃいそうだよね?心配だなぁ〜。」
「さっきからリト君のことばっかり話してない?」
わたしは軽く突っ込んでみた。
「何か気になるんだよ。何で……かな?」
「恋だよ、それ。」
「え?」
急に顔を赤らめるキリコは凄い勢いでわたしを壁ドンする!
「ななななな、何を言うんだよ?わたしが恋!?いやいやいや、今までそんな気持ち持ったこと無いしー!!」
動揺していることが証拠だ。まぁ本人は自分の気持ちに気付いていないようだけど。
「今までは今までだよ。今はどうなの?」
「だって、リトとわたしじゃ種族も身分も違うから……無理だよ。」
そういえば、身分の差は埋められても種族の壁は……どうなんだろう?ワーウルフとインキュバスって結婚、と言うか交配できるのかな?今度デネブに聞いてみよう。
「焦らずゆっくり考えればいいよ。今はさ、リト君からのおつかいに行こう。ちゃんとやればキリコのこと褒めてくれるよ!ね?」
「うん、分かったよ。ありがとう、ステラ。」
キリコは最近になって一人称を『ボク』から『わたし』に変えことが気になっていた。
本人に聞くと小隊長という役職になり部下への示しとして一人称を変えたらしいが……リト君へのアピールもあるのではないかと邪推する。恋はボクっ娘をも乙女にしてしまうのだなと感心した。
最初から一人称『わたし』のわたしにはまだ訪れない恋なのに……。
かくして、キリコ小隊とステラ小隊の合同作戦が翌朝開始される。
◇◇◇
任務の内容は、最前線への補給基地である『グランツバース砦』に支援物資を運ぶこと。おつかいみたいな任務だった。
馬車10台に積まれた荷物の中身は、食料や医療用品、そして武器や防具など前線で必要なものだった。
グランツバース砦までは王都から馬で2日だが、荷物を積んだ馬車となると速度は出せないので、4〜5日は掛かる。
荷の積み下ろし要員として人間の男性6名が同行し、後はキリコ小隊、ステラ小隊の人員となる。
因みに、キリコ小隊の構成は以下となる。
・ハーフダークエルフの女闇司祭(見習い)
・ハーピーの魔法使い
・コボルドの戦士3名
ステラ小隊は変わりなくスケルトン5名……
明らかにキリコ小隊の方がバランスが良い。対してステラ小隊は悪意のある構成としか思えない。
以前リトカーズに詰め寄ったものの、回答としては騎士団長はじめとした『騎士団編成執行部』という人事部のようなところが決定しているというものだった。それを聞いてすぐにピンッと来た!
きっとあの近衛隊長ゲシュタルトがステラ小隊にはこれで十分と決めたに違いない!ムカツク〜!!
つか、ヴェイロンは何でこんな編成を許すかなぁ!?あ、忘れてたけど、アイツもイヤな奴だった。くぅ〜、どいつもこいつも!!!
「どうしたんですかい?隊長さん。」
王都を出発して荷馬車に揺られ、やることもなかったので納得いかない隊編成の顛末を思い返していると、スケルトンCが話しかけてきた。
「え、ああ……何でもないよ。気にしないで。あはは〜。」
まさか自分の部下がスケルトンだけなのが不満でイラついてると、当の本人に言えないので誤魔化す。
「あー、生理ってヤツですかぃ?女は大変ですねー。」
「ち、違うし!それセクハラだからね!!」
ステラはスケルトンCの頭を引っこ抜き、バランスを崩して倒れた身体に頭蓋骨を投げつける。他のスケルトン達はCに駆け寄り助ける。
朝に出発してから日中は何も問題が無かったが、日が傾き始めたので野営の準備をしている時に問題が発生する。
急に大地が大きく揺れ、足元から轟音が響く。地震である。
「ステラ、来て!!」
夕食の準備をしていたわたしを呼ぶキリコの声に急いで駆けつける。
「どうしたの?」
「あれ、見て。」
急激に空が暗くなったのは日が沈んだからではなかった。魔獣の森海の奥にそびえる『サスロザ火山』の山頂が赤紫色に輝いて見え、火口からは黒煙が空を覆っていった。
「噴火じゃないけど、山腹からマグマが流れ出している。こういう時は主(ぬし)の機嫌が悪くて暴れていると言われてるんだよ。」
「主(ぬし)?前にヴェイロンから聞いたがある『黒い龍』のこと?」
「うん……『黒曜龍ダルクシュレイヴァ』。わたしはその姿を見たことは無いけど、かつてスピリットガーデンの『勇者王』を退けたとか、『魔獣王』も手懐けることが出来なかったとかって逸話がある位に規格外の魔獣だよ!大人しくしててくれよ〜。」
山頂を見ながら祈りとも取れるキリコの言葉にイヤな胸騒ぎを感じる。
「胸がザワザワする。うん、イヤな感じだね。」
その夜は何度か地響きがあり、交代で休息を取るがなかなか寝付けず、結局寝ずに夜を明かした。
翌朝、昨晩の出来事がウソのように、青空が広がる穏やかで清々しい朝であった。
ほとんどの者が寝られなかったようで皆眠そうにしていたが、そうも言ってられず『グランツバース砦』に向けて出発した。
◇◇◇あとがき◇◇◇
ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)
初めての任務(おつかい)に旅立つステラとキリコ。ちゃんとおつかいできるのかなぁ〜?
上司の新キャラ登場。頼りなさそうな中隊長ですね。こういうヤツに限って……ψ(`∇´)ψ
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毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)
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