第113話 【Side:ステラ】円卓会議は砕かれた

 人狼キリコとの言葉と拳による語らいを終え、わたし達は王宮騎士団の詰所に戻る。そこには懐かしい顔ぶれが居た。


「スッテラちゃ〜ん!」


 その呼びかけに悪寒を感じずにはいられなかった。


「き、気持ち悪いよ、ジオ。」


「ゲゲッ、気持ち悪いってよ、吸血鬼もどき。」


 わたしが向けた嫌悪の言葉を増幅するのはリザードマンのゲラン小隊長。それを歯牙にもかけずヴァンパイアハーフのジオ小隊長。


「あぁ、会いたかった。会えない日々、我が恋心の糧に何人の処女の生き血を飲み干したことか。だが足りぬ!限界まで膨張した疼くこの想いは今この時に溢れ出し、ステラ……貴女の身体を大いに濡らすのだ。さぁ、行こう……我が愛の園へ。」


「セクハラですよ、ジオ~。」


 ジオに抱擁されながらわたしはため息をつく。逃げたところで地の果てまで追いかけてくる。殴り倒したところで何度でも蘇る。さんざん学習したわたしはとりあえず抵抗するのを止めた。……抱き着かれるくらいは慣れたものだ。


「こうやって私に身を委ねているのだ。その心もそろそろ我がモノとなって欲しいな、愛しきステラ。」


「わたし、キザな人はタイプじゃないんです。だから、ジオのことは好きになりません。何度言えば分かるかなぁ。ハァ〜。」


 こんなにキツく抱き締められても全くドキドキしない。ゾワゾワならする。ゾワゾワする恋心はないよね?悪い人ではないんだけど……友達以下、恋人未満だなと思う。


「ジオ、おしりに押し付けるのはやめて!」


◇◇◇


 円卓を囲む6名の小隊長。紅茶を一口飲むと、緩い茶会の口火を切った。


「みんな、スピリットガーデンの勇者って強いと思う?」


 結局スピリットガーデンで再開した魔剣士ゴールド。本当ならばこの輪の中に居るはずだったのに……その正体は敵であるスピリットガーデンの勇者クリスティーナだった。このことはひとまず秘密にしていた。


「どういう意味か?弱い勇者など聞いたこともない。言うに事欠いて何を言い出すんだ、このカボチャ頭は。」


 巨人族の5370……はかつての名。いまはテーカン小隊長はわたしの通り名『カボチャの悪魔』をなぞらえて苦言を唱える。


「ヴェイロンよりも強いの?」


「貴様ァ、言うに事欠いて我らが騎士団長殿を愚弄するかっ!」


 テーカンは軍神の如く激昂し力任せに円卓を叩く。激しい音を上げ円卓が砕け散り、床石も砕け散った。


「まぁ、落ち着けテーカン小隊長。しかし……ステラ小隊長の問いはあながち愚問でもあるまい。姿を消した『勇者王』の前ではヴェイロン様も何度となく……」


 テーカンを嗜めたのはデュラハンのジョースティンⅡ世小隊長。


「だが、今の勇者たちであればヴェイロン様の敵ではあるまい。つまりはひとくくりに『勇者』と言っても様々だということだ。そこを履き違えぬようにな、ステラ小隊長。」


 ジョースティンⅡ世の説明はわたしの問いに的確な答えとなる。


 テーカンは憤りを抑えられないのか、わたしとジョースティンⅡ世を睨みつけ、その場から立ち去る。その場にいた全員はただ彼を見送る。


「テーカン、わたしはヴェイロンにこの命を助けてもらった。だから、ヴェイロンのためにわたしは戦うよ。それだけは知って欲しい。」


 テーカンは振り返ることはなかった。


 いやぁ、失敗したと反省する。己が崇拝するものを貶められて良い気分ではいられないことは明白。自分の短慮さが他者を不快にさせたのだから、非は自分にあることは否めない。最後の言い訳にしても見苦しいものだと感じた。自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう……。


「冗談の通じないヤツだなぁ。」


 キリコはテーカンが居なくなってから口を開く。


「全くだ。これだから奴隷上がりの粗野な巨人族は困る。美しくない。」


 ジオもまたテーカンを誹謗した。


「違うの……わたしが」


「いや、皆の言う通り。テーカン小隊長は愚将だな。」


 自分の軽率な発言がテーカンを傷付けたのだと言おうとしたが、ジョースティンⅡ世に言葉を遮られた。


 この中でも一番礼節をわきまえた騎士道精神を持つと思われたジョースティンⅡ世もまたテーカンを罵倒するとは思わなかった。


「みんなでそんなにテーカンを悪く言わなくても~。」


 ゲラン小隊長がわたしを嗜める。


「戦場では冷静さを失った時点で勝敗は決まる。小娘の軽口を真に受けるなど合理的ではないな。そして、あれでは下のモノが哀れだぜ。そうだろ、カボチャ頭?ゲゲゲッ。」


 リザードマンの笑い方は未だに慣れないが、全員の意図するところをゲランが合理的にまとめてくれた。


 何となく得心がいった。戦いに如何に勝つか、そのためにどうあるべきかが重要だということらしい。やっぱり自分はまだまだ甘ちゃんであると痛感するのだった……。


「誰が『カボチャ頭』だあぁぁぁーーー!バカヤロ~!!」


 わたしは大声で叫び、ドアを蹴り開けて出て行く。その場に残った4人は唖然とする。


 これは……演技だ。自分の未熟さへの怒りはあったが、それよりも敢えてテーカンと同じ愚行を演じて見せたかった。何故なら……それはテーカンだけを愚者にはしたくないという思い、贖罪だった。


「巨人族も人間も変わらん……低能だな。全く合理的じゃない。」


 ゲランの呆れた台詞が微かに聞こえた。


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


同期の小隊長たちによる円卓会議……ではなく井戸端会議でしたね。コイツら仲が良いのか悪いのか?(´ω`)


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毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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