第112話 【Side:ブレイブ】誘惑

 入国したミッドグルンは敵国ゴーファンの玄関口であり、中立国からの往来も多く活気に溢れていた。ただ、その風景は明らかに見慣れぬものだった。


「ブレイブ、アイツ等……倒していいのかな?」


 耳打ちするが確実に周りにも聞こえる声量で確認をするファナ。


 街の雑踏には明らかにモンスターと思われるのが混じっていた。しかし、モンスターが暴れたり人々を襲ったりしている訳ではない。だからこそ違和感を拭えない。


「おい、俺等に何か用か?」


 ファナに指差された3人組が近寄ってくる。って、何指差してるんだ、ファナッ!失礼だろうがぁ〜!!


「お、人型の猫ってことはワーキャットか?珍しいヤツですぜ。」


「そうね。でも、そこの黒髪の子、とても綺麗な黒髪。それに瞳も黒だなんて素敵ね。」


 見るからにヤバそうな奴等だ。よくロープレに出てくるおっさんの顔とコウモリの羽と蛇が尻尾な怪物『マンティコア』と、いわゆる半魚人『マーマン』。そして、ご立派なツノが生えた悪魔族の女性だった。


「いや、何も用は無い。し、失礼。」


 俺はファナを抱き上げて足早にその場を去る。


 アリスとパチャムも後についてくる。が、パチャムが転倒してしまう。


 ウッディパペットの着ぐるみを着ているので視界が悪く、身動きも大変と言っていたし、逃げるのに焦ったのだろう。ただでさえ運動能力は高くはないのだから。


「あらあら、大丈夫かしら?」


 悪魔族の女がウッディパペットを引き起こす。見かけによらず力があるようで、片手で着ぐるみのパチャムを立たせた。


「ありがとうございます。」


 ウッディパペット役を演じるため、若干片言な口調でお礼を言うパチャム。


「いいのよ。フフッ、またね。」


 3人は俺たちを見ていたが、それ以上追っては来なかった。


◇◇◇


 俺たちは夕食のため食堂に入る。そこはテーブル5席程の小さな店で既に満席だった。


「あんなのが街中にいるなんて驚きだよね。」


「ファナ、周りを見ろ。ここはそんなのだらけなんだから。あと、不用意に指を指すのは良くない。相手を挑発することになるから、今後はやるなよ。」


 ただでさえ通る声のファナは気を使うことを知らないのでヒヤヒヤものだ!俺は小声でファナに伝えた。


「分かったよー。でもさ、あんなモンスター初めて見たからさ。特にあの……色んなのが付いた獣と魚人。あんなのが居るなんて驚きだよ〜!」


 その気持ちは分かる。だが察してくれ、そのデカイ声。みんなお前を見てるって。


 魔獣王の支配下にある勢力圏では精霊王の治める勢力圏と種族が大きく異なることは聞いていたが、モロにモンスターな奴らが普通に街中を闊歩しているだなんて驚きだ。カルチャーショックだよ!


「そういえばアリス、元気ないね?ずっと黙ってるし。どしたの?」


 ファナがアリスに問いかける。いつものアリスは透き通るような色白の肌だったが……今は蒼白に見えた。


「アリス、具合が悪いの?」


「ううん、大丈夫。ちょっと頭痛がするけど、すぐに治まると思うから。」


 そういうとアリスは少し横になりたいので先に宿に戻ると言う。ウッディパペット姿のパチャムが一緒に行くと言うので任せることにした。


 司祭であるパチャムなら癒しの魔法が使えるし、その格好では街中で魔法は使えない。宿の部屋なら着ぐるみを脱いでアリスの治療もできよう。


 何より、俺とファナが頼んだ料理がまだ来ていなかった。心配だから俺とファナも一緒に戻ると言ったが、アリスはパチャムが居てくれれば大丈夫と言い、俺たちに夕食を取るよう気遣ってくれた。


 ただでさえ辛いアリスにこれ以上気を遣わせられないと思い、食べたらすぐに戻ると約束して二人が戻るのを見送った。


「ブレイブ……飲んでもいいよね?」


 真剣な顔でファナが言う。凄い目力だっ!


「いや……飲まないって約束だろ?」


「えええー、だってパチャム居なくなったんだよ?」


 今は敵地に変装して侵入しているのだ。一つのミスが命取りになる。だから気が緩まないようにと決めた飲酒禁止だった。ファナも渋々だが同意したはずなのに。


「お酒飲みたいー!」


「お待たせ。」


 ファナの駄々が響く中、店員がやっと俺たちの料理を持ってきた。


「ほら、さっさと食って帰るぞ。二人が待ってるし。」


「ちっ、ブレイブのバカ!」


 何で正しいことを言った俺がバカ呼ばわりされるんだよ!バカファナは放っておいて料理を食べる。


「おっちゃん、コレおかわり〜!」


 ファナがコップを上げて追加注文する。ま、それくらいは許してやるか。ファナは追加の飲み物も飲み干した。


 そんなに美味いのか?俺もコップの飲み物を口にする。


「え!これって!?」


「おかわり〜!」


 酒だっ!!何で!?


「気に入ったかしら?アタシのおごりよ。フフッ。」


 いつの間にか俺の隣には……さっき街中にいた三人組の悪魔族の女が座っていた!


「いや、俺は酒は飲まないつもりなんだ。」


「そっちの娘は気に入ったわよね?お酒、美味しいでしょう?」


「最高〜!お姉さんも飲もう!!」


「あら、嬉しい。ほら、貴方も飲みましょう。一口飲んで美味しかったでしょう?」


 ファナは喉を鳴らしながら美味そうに酒を流し込む。確かに……一口飲んだその味は濃厚な果実とアルコールが一体となった膨よかさは絶品で、いままでに無い美味さだった。もう喉が欲しがっている。


「でも……」


「ここでしか飲めない特別なお酒なのよ。ここで飲まないともう味わえないのよ?とりあえずこの一杯だけ飲みましょう。もう口を付けたんだし。ね?」


 まぁ、一杯だけなら……いいか。飲んだら戻ろう。


「じゃあ、頂きます。」


 くあー!何だこの美味さ!!味わいつつも一気に飲み干してしまう。酒自体が久々なのもあるけど、何よりも初めて味わう甘美さに酔いしれてしまった。


「はい、どうぞ。」


 目の前に新たな酒を差し出された。


「もう一杯だけなら大丈夫よ。あの娘は美味しそうに何杯も飲んでるわよ?さぁ。」


 あぁ、何て美味しいんだろう……。


※日本でのお酒は20歳になってから!


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


なーんか嫌な予感しかしないおねーさんだなぁ。そして酒を飲んでしまうブレイブとファナ。コイツらダメだな。(´ω`)


お読みいただいた感想や評価をお願いします。いただけると今後の励みになりますし、もっと良い話にできますので、本当にお願いします~。m(_ _ )m


毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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