第111話 【Side:ブレイブ】敵地侵入はコスプレとともに!?

 精霊王の国スピリットガーデンを出発してから4日目、いよいよ敵国である魔獣王の国ゴーファンの勢力圏に入る。


「ここから先はゴーファンに従属する国ミッドグルンだ。何か……緊張するな。」


「う、うん。」


 手綱を握る手がじんわり汗ばむ。正体を隠して敵地に侵入するなんて初めてのことで、ヘマしたらどうしようとか考えてしまう。男衆はどうも土壇場での度胸に掛けているようだ。


「大丈夫、大丈夫!いつも通りで平気だよ~。」


 ファナが笑いながら能天気に言う。


「いや、お前はいつも通りじゃダメだろ。」


「そうだね、ファナはいつも通り禁止。特にお酒は禁止、絶対!」


 俺とパチャムのツッコミに頬を膨らませるファナ。アリスはクスクス笑っていた。これから危険な任務に赴くのに……こんなやりとりに安らぎを感じる。みんなの笑顔だけは守ろうと決意した。そして……絶対ステラに会う!


「何事もなくステラに会えると……いいな。」


「うん。」


 あらためて目的を噛みしめるよう言葉にし、アリスは頷いた。


「ところで……ステラに会ってどうするんだい?敵なんでしょう?」


 パチャムが口にした疑問を俺は考える。


 ステラに会って幼馴染の『牛子』かどうかを確認して……それからどうするんだ?今は敵なんだよな。


「きっとステラのことだから訳も分からずにゴーファンで過ごしてるんだと思う。だから、話をして……スピリットガーデンに来てもらいたい。」


 そうか、アリスの言うようにステラが俺たちの側に来てくれればいいんだよな。


「そうだな、ステラなら俺たちと一緒に来てくれるよ。」


「それいいね!またステラと一緒に飲みたいな!!」


 あれ?ステラと一緒に酒を酌み交わしたんだっけ?腹に穴が空きそうな激痛の記憶しかない……。


「ステラが味方になってくれれば心強いし、ゴーファンの情報も入る訳だし……良いことずくめだね。」


 パチャムもアリスの作戦に全面的に賛成するのだった。


「よーし、ステラ奪還作戦、開始だあっ!」


 準備を終えた俺たちを乗せた馬車がミッドグルンの街に入っていく。


◇◇◇


 遡ること、旅立つ前日。スピリットガーデン軍本部から偵察任務を遂行するにあたり支給された物品を4人で漁っていた。


「お、おぉ!ケモ耳に尻尾~!!」


「に、にゃあ~♪」


 俺の目の前には猫耳と尻尾が生えたファナが猫っぽいポーズを取る。これは……萌えです!


「可愛いわよ、ファナ。」


 アリスはちっこい猫娘ファナを撫でていた。撫でられたファナは嬉しそうに長い尻尾を振る。ん?あの尻尾、どうやって動いてるんだ?


 さておき、敵国勢力圏では精霊王の加護を受けているエルフ(ライトエルフ)やホビットなど光の妖精族は目立ってしまう。そこで変装である。


「ワーキャットなんて見たことないけど、こんな感じなの?」


 博識だと思っていたパチャムもワーキャットは知らないらしい。とりあえず軍支給の変装セットを身に着けただけなので、これが正解なのかパチャムは不安なのだろう。


 大丈夫だパチャムよ、俺も実際に見たことはないが、これはまごうことなき猫娘コスだ!


 俺はライトエルフなので、濃いめのどうらんを肌に塗りダークエルフに変装する。


 一気にチャラ男化してしまう。生前のネクラでキモヲタな僕をからかい、罵り、パシリにしていたクラスのチャラ男たちを思い出してしまう。陽キャでリア充なチャラ男たちなんて爆発しろと何度も何度も心の中で呪ったものだ。


 アリスにも同じくダークエルフコスプレをオススメした。


「わたし身長低いしエルフのような端正な顔立ちしてないから……」


「そんなことないって!アリスの容姿なら大丈夫だよ。身長は……シークレットブーツでアゲよう!」


 いざという時に動作の妨げになると困るとシークレットブーツは拒否された。


「ダークハーフエルフなら身長低くても肌が白くても通るかも。黒い髪と瞳は何というか……闇のイメージもあるしね。」


 パチャムがナイスフォローをしてくれ、アリスも納得してくれ、ステラを習ってエルフの付け耳コスに決定!


 ハーフエルフのパチャムにも同じダークエルフメイクを勧めるが、精霊王の信徒である司祭がダークエルフコスだなんてとんでもない!と拒絶された。


「じゃあ、これならどうだ?」


 俺は変装お道具箱から着ぐるみを取り出す。それは木人『ウッディパペット』。


 知能は低く、荷物持ちや簡単なおつかい等の雑用係モンスターである。パチャムは自身のメイクや装飾は好まないため、この着ぐるみならと了承する。


 こうして俺たちは各々のコスプレ衣装が決まったのだった。


◇◇◇


 ミッドグルンの守衛は馬車の中の荷物をざっと目視し終わると、身分証明書と入国許可証を確認する。


「ダークエルフに……ワーキャット?珍しいな。肌が白いが……ダークエルフのハーフか。黒髪なんて珍しい。あとはウッディパペットと。はい、オッケ。」


 て、適当過ぎる!!


 入国手続きは名ばかりのザルさ。いや、このザル……もう麺が床に落ちてるよ〜!


 確かに、書類と一緒に袖の下は渡したけど、今晩の酒代にもならない額で、逆にこっちが恐縮してしまう。


 まさかとは思うけど、スピリットガーデンのそれも同じ……なんて事は無いよね?ステラが侵入した手前、同じじゃないとは言い切れない。


 とにかく、4人は難なく敵勢力圏の入口の国『ミッドグルン』に入れてしまった。


「第一関門突破だな。日も落ちてきたことだし宿を探そうか。」


 無事に宿を取り、荷馬車を宿に預けると、俺たちは夕食がてら敵国の動向を探ることにした。

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