第110話 【Side:ブレイブ】旅立ちの朝

 魔法剣士ゴールドの招きで訪れた上流階級の社交場『ヘブンズパレス』でゴージャスな夜を明かした俺たちは、昼前まで惰眠を貪っていたところに突如軍本部に出頭するよう招集を受けた。


「何だろう、急な招集って?まさか……昨晩の敵国への侵入計画が軍にバレたんじゃ……」


 ただでさえ敵地侵入でパニックになっていたところに軍からの出頭命令で頭を抱えるパチャム。そんなコイツを見ているとこっちも不安になる。


「そういえば、ゴールドは?」


 昨晩、あとは任せてもらおうと言ったゴールドの姿が見えなかった。


「ゴールドなら早朝に出かけたよ。多分、この招集もゴールドの根回しによるものかなと。詳しいことは言ってなかったから、憶測だけど。」


 すっかり身支度ができたアリスはそう教えてくれた。


 俺とパチャムとファナ、そしてアリスの4人は取り急ぎ軍本部に赴く。


「ファナ、もういい加減起きろよ。軍本部だぞ。」


「ふぁ〜、い。」


 『ヘブンズパレス』で普段お目にかかれないような高級な酒を浴びるほど楽しんだファナ。俺も飲みたかったが堅物のパチャムがいたし、何よりアリスがいたから飲めなかった。よく我慢したよ、俺。でも……飲みたかった〜!!


※日本でのお酒は20歳になってから!


 俺たちは軍本部の会議室に通され、しばらく待っていると……入ってきたのは軍本部統括官のロビン大将であった。


 ロビン大将といえば、全軍がそろっての進軍式で檄を飛ばしていた大将だ。それがいま目の前にいることに俺だけでなくパチャムもカチコチに緊張してしまう!アリスとファナは平然としているのが凄い……。


 アリスが起立したのを見て、ハッとして俺とパチャムも起立して敬礼をする。ファナは……よだれを垂らして寝ている!?


「ファナ、起きろって!!」


 俺とパチャムはファナを起こすため叩いたりつねってみた。そこにアリスがフォローを入れる。


「ロビン大将、申し訳ございません。この子は昨晩、魔剣士ゴールドと盃を酌み交わしたので、まだ本調子ではないのです。」


「魔剣士ゴールドだと!?そ、そんな名前の者は知らぬが……まぁ、構わん。」


 絶対に怒られる、特にリーダーの俺が怒られると心臓が止まりそうだったが、アリスの説明でどうやら大将に怒られることは免れたようだ。


 それでも鼓動が早まる中、ロビン大将は本題に入る。それは敵領地に潜入し動向を探るというものだった。つまりは……偵察任務。


 現在、敵国ゴーファンとの戦闘は膠着状態であり急な衝突はないだろうという見解で、だからこそ敵国の状況についての情報が求められていた。


 シナリオとしては、中立国の行商人一行としてゴーファンに入国するというものだった。偽造の身分証明書とゴーファンの入国許可証は軍で用意してくれる。


 この世界では他国への出入りは案外容易であったが、敵国ゴーファンは普段はザルのように入国できるらしいが、流石に戦争中ということで出入国時の検問が設けられているとのこと。それでも形式的な審査であり偽造書類があれば簡単に通過できるとのこと。


 そう考えると、ステラがスピリットガーデンの王都ピセに入れたのも偽造入国許可証を使ったのだろう。


 そう、ステラに会う。


 この任務は俺とアリスの目的にはうってつけだ。という事は……ゴールドが軍に手を回してくれたのか?軍に影響を与える程のゴールドって何者なんだ!?


 とにかく千載一遇のチャンス!断る理由なんて無かった!!


「是非やらせてください!いいよな、みんな?」


「先に仲間に確認せんか。馬鹿者が!」


 寝ているファナのことではなく、俺自身が怒られてしまった。ボンショ〜。


「わたしもお受けします。」


 アリスが凛とした態度で答える。ファナも手を挙げて同意を示す。パチャムはまだ動揺しているようだったが、みんなが同意したことを確認して手を上げた。


◇◇◇


 夜が白み始めた頃、人目を避けるように王都ピセの裏門から出ていく1台の荷馬車。


 御者は俺。隣にはアリスが座る。荷台には中立国の商材がいくつか積んであり、ファナは荷物にもたれかかるように寝ていた。その横にパチャムが座っていた。


 早朝でも往来があり目立つ大きな街道は迂回しつつ、約1週間の道程を経て俺たちは敵国ゴーファンを目指すのだった。


「そういえば、リフィーは来なかったね。来るとばかり思ってた。」


 俺の素朴な問いにはアリスが答えた。


「リフィーは別の命令を受けているから来れなかったみたい。」


「そうなんだ。それは残念だね。」


 急に俺の顔を覗き込むアリス。


「ウソが下手だね、ブレイブ。目が泳いでる。」


 アリスには敵わないな。俺的にはリフィーはいない方が正直気楽だった。戦力としては頼りになるのだが、どうにもあの刺々しい態度に辟易していた。


 でも、目が泳いだのはウソが原因ではない。上目遣いで見上げるキミの視線と、豊満な胸元が見えたから。破壊力のある双丘とその愛くるしい眼差し。それだけで敗北だよ。でも……


「アリスだって良かった〜って顔してる。」


 からかうようにそんな軽口を叩いてみる。言ってから自分自身驚く。昔の自分ではそんなことは言えなかっただろう。


「分かる?リフィーがいると緊張して肩が凝るんだよね。」


 いや……とてもリフィーのせいだとは思えない俺は、無意識にその原因を見つめていた。

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