スピリットガーデン編
第85話 【Side:ステラ】白亜の王都は夢の国
精霊王の統治する国スピリットガーデン。ここはその王都ピセ。今わたしは敵国スピリットガーデンの王都に居た。
「こ、ここがスピリットガーデン!?何てキレイな街なんだろう。街の中に超大きな樹がある!!」
わたしの両耳はピンと長く伸びていた。どこから見ても人間ではなくエルフ!
これはエルフ耳のフェイクを付けて貰っただけなんだけど、何とわたしの感情によって動いたりもする優れもの。根負けしたデネブが策を講じてくれたお陰である。
ダークエルフのデネブだが、商材の仕入れのため、たまーに変装をしては王都ピセまで出向くこともあるらしく、王都の入国許可証らしきもの(多分、偽造……)を渡してくれた。そして、難無く入国できちゃった。ありがとうデネブ♪
ピセのメインストリートに立ち、都の中央にそびえる巨大な巨大な樹木と、その麓にある白亜の王城。整然と建ち並ぶ街並みは自然との調和が取れた美しい景観だった。どこかの王都とは雲泥の差で、壮大な夢の国ぶりに感動が止まらない!
「さーて、ブレイブやファナってのはどこにいるのかな~。」
そう言いつつも、周囲の物珍しい風景や建物……主に商店や屋台に目を奪われてしまう〜。
誤解しないで。これは敵地視察なんだからね!
◇◇◇
「なるほど、なるほど、なるほど。」
そこには山のように積まれた数多くのフルーツがあった。ポピュラーなものから全く見たことないようなもの。その全てが熟した濃くて甘い香りを放っていた。
「つまり、この紫色のが甘さは一番なのね。じゃあ、コンポートして食べるならどれがいいかしら?」
バザーに建ち並ぶ商店のうち見たことの無い色とりどりなフルーツが目を引く店を視察していた。
あろうことかコンポートが分からないという店員。ま、お菓子作りが好きそうには見えないヒゲのおっちゃんだから仕方ない。
「コンポートにするならあの黄色い柑橘系が良いだろう。」
後ろから背の高い女性がそう教えてくれた。スラっとしたエルフでモデルさんみたいにキリッとした印象。へぇー、こんなカッコイイ方がお菓子作るなんて……様になるし、ギャップ萌えが栄えるよね。
御礼を言いつつ、少しそのお姉さんにこの国の果実について教えてもらった。店のおっちゃんより詳しく説明をしてくれてためになる。
「リフィー、どうしたんですか?」
少し離れたところから呼ばれたお姉さんはクールにウインクをして去っていった。雑踏の中、黒髪の少女と歩いて行った。
「おじさん、その黄色いの3つ頂戴!」
◇◇◇
昼過ぎにちょっとお高めなレストランを視察した。なんと言ってもローストした鴨のような鶏肉に揚げた香味野菜を添えて、鶏肉の脂とトマト・ガーリック・香辛料をベースにした濃厚なソースがかかった料理が絶品だった!
パンもゴーファンのより柔らかくバターの風味が際立っていた。
デザートに今が旬だという3種類のフルーツに火を入れたチーズタルトをいただく。
あー、もうココに住もうかなぁ〜。
◇◇◇
お腹を満たしたわたしは、ひとまず宿を確保して荷物を部屋に置く。それから食後の腹ごなしに、ここ王都に入って目を奪われた中心に立つ巨大な樹木『精霊樹』に向かった。
街で仕入れた情報では、精霊樹の麓には美しい花々が咲き誇るフラワーガーデンと展望台があるらしい。これは視察しない訳にはいかない!!
走り出したい軽やかな気分を抑えて早歩きする。なんたって敵地視察だから目立つ行動へ控えないとね。
30分程して精霊樹の麓に着く。真上を見上げると視界がその1本の巨大な精霊樹で埋め尽くされる。これは大き過ぎるよ!スカ◯ツリーの比じゃない。この樹だけで一つの都市に匹敵するよ!!
「おい、お前……人間か!?」
ドキッとした!何でバレたの?エルフ耳付いてるのに何でー!?
振り向くと……旅人がよく着るマント姿のその少年が3人のエルフ達に呼び止められていた。少年の耳は尖ってはいなかった。あ、彼が呼ばれたのかと、わたしは胸を撫で下ろす。
「人間がこの精霊樹に来るなんて図々しい。さっさと立ち去れ!」
声を荒げたエルフが人間の少年の肩を押すと、その少年は尻餅をついてしまう。笑いが止まらないエルフ達。
「ちょっとー、やめなさいよ!恥ずかしくないのそんなことしてさ。」
わたしは駆け出して人間の少年の前に立つ。
「何?人間がこの高貴な精霊樹に近づくなんて許せるのか?」
「この場所はアンタ等エルフ専用じゃないよね?だったら人間が来ても良いでしょう!違うの??」
キッパリと言ってやる。こういう輩は気圧した方が勝ちだし!正論を言い切る、これ大事。ゴーファンで学んだことだ。
「何なんだよ、お前は。それ人間だぞ!庇うのかよ?」
「庇います!何か!?」
エルフ達は文句を吐きながらその場を去って行った。
「大丈夫だった?」
腰を抜かしたのか、まだ尻をついたままの少年に手を差し伸べる。
「ありがとう。女の子なのに強いんだね?」
どこかあどけなさの残るその少年は手につかまり立ち上がる。身長はわたしと同じくらいだけど、少し歳下かなと思った。
「任せて。あーゆーのは慣れてるから。」
少年はクスクスと笑う。
「変だった?」
「いや、面白いお姉さんだなって。」
可愛い。この子、何か可愛いよ。そして綺麗。肌は透き通るような白で髪は薄い茶色。典型的な白人の少年のようだ。
「よく言われるよ。」
わたしも釣られて笑っていた。
「おい、お前たち。何をしたんだっ!」
遠くから走って来るのは……衛兵のようだ。その後ろにはさっきのエルフ達が見えた。
「お姉さん、ありがとう。僕はもう行くよ!」
衛兵が絡むと面倒なのかな?
「わたしステラ。アナタは?」
「アレックス」
彼は名前を告げて走り去って行った。
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