第69話 【Side:ブレイブ】わたしも同じことをしているから
「ファナ?開けますよ?」
浴室のカーテンがおもむろに開くと、そこには立っていたのは……アリス!!
俺の背中にはファナが引っ付いて両手で俺の身体を洗っていた。そんな俺たちを直視するアリス。
「お邪魔してすみません。パチャムとリフィーが待ってます。降りて来てくださいね。」
用件を伝えると彼女は部屋から出て行った。
「アリスに見られちゃったねー、ブレイブ。」
含んだ笑みを見せるファナ。
「キャアッ!冷たいーーー!!」
突然の冷水シャワーにファナは驚く!俺は覚悟していたものの、分かっていてもその冷たさにおののく!!お湯で温まった浴室でのファナとの泡プレイに時間も忘れて堪能していた楽園は一気に消え去った……よりによってアリスに目撃されるだなんて!!
「酔いは覚めたか?この酔っ払い!行くぞ。」
俺は先に上がり、一旦自分の部屋に戻り着替えてくる。あぁ、アリスに誤解された!あれはファナに準備させるためだし、浴室で倒れたファナを助けただけだし……あれ?何で二人全裸で泡だらけになったんだ?あー、分からない!!ハッキリしてるのはアリスは誤解したから何とかしないと。
頭を抱えながらファナの部屋に戻ると、流石のファナも出発の準備を整えていた。
「ブレイブ、さっきはその……酔いが残ってたみたいでゴメンね!」
両手を合わせて謝る仕草で上目遣いをするファナ。コイツ、上目遣いなんて高等テクニックをいつ何処で覚えたか!?
「ま、まあいいよ。」
「ありがと!でも、気持ちよかったでしょ?」
上目遣いの表情が小悪魔に見えた。コ、コイツのこういうところは……ドキッとする。素直に可愛いと思う。
ハッ!俺は何なんだ!?アリスもファナもなんて。俺はろくでなしか。
◇◇◇
俺たちは集合時間に遅れて軍本部に到着した。全力で走ればギリギリ間に合うハズが、走るのが遅いパチャムを待ったことで遅刻となる。もっとも出発が大幅に遅れたファナが一番の原因なのだが。
だけど一番怒られ文句を言われたのは俺だった。
パチャムは起こしても起きないファナを攻めたが、ファナを呼びに行った俺も遅かったことに文句を言う。
ファナは寝坊したことは申し訳なさそうにするが、走って十分間に合ったとパチャムの鈍重さに文句を言う。それでパチャムが激怒する。
リフィーはただ呆れるばかりだが、リーダーである俺に統率がなっていない!と叱咤してくる。
軍本部からも全隊の前で小隊隊長の俺が叱られる始末!
アリスは……特に何も言わなかった。
ブリーフィングが終わり、昼過ぎから戦場に出発することなり、それまでの2時間程は自由行動となる。
俺たちは前日遅くに街に戻ったので商店など閉まっていて準備不足てあった。なのでこの時間は有り難かった。しっかり者のパチャムを中心に手分けして買い物に奔走した。
みんながバラけた今こそアリスと話をするチャンスだと考えた。
だがしかし、料理が得意なアリスとパチャムが食料などの買い出しに行ったので、仕方なく俺は二人を尾行しアリスが一人になる機会を伺うのだった。
食料を扱うバザールは昼前ということもありかなりの人出で、パチャムは何とか視認できたが、背の低いアリスは人ごみでよく見えない!たまに見える
パチャムがとある店に留まり店主と話をしている。
「アリスは……隣にいるのか?見えないなぁ。」
「何わたしに御用ですか?ブレイブ。」
ヒッ!アリスが隣に居た!!
「な……」
「ブレイブがずっと後をついて来ていたので。」
アリスの完璧さには言葉が出ない。とにかく好都合、いや千載一遇のチャンス!俺はアリスの手を取って路地裏に連れて行く。
「アリス、聞いて。あのシャワーでのことは、その誤解なんだ。ファナとその、変なことをしていた訳じゃなくて。ファナが……酔っ払って起きなくて、それで起きたからシャワー浴びさせたら倒れて、助けに浴室に入ったらファナが急に俺に……」
アリスは俺の横で黙っていた。
「ゴメン、怒ったよね?ファナとあんなことをするつもりじゃなくて……」
「わたし、怒ってないけど。誤解もしてない。」
あれ?もっと怒られたり、または、無視されたりを覚悟していただけに、普通過ぎて肩透かしを喰らう。
「俺のこと軽蔑するよね?あんなことして……」
目の前にいる黒髪の娘が心から好きなのに、手が届かない。それはかつてのデブでブサイクな僕が最初から諦めていた想い。でも、こんなに見た目が変わっても彼女を振り向かせることができないじゃないか。
かつての僕は、チビデブでブサイクな容姿さえ生まれ変わったようなイケメンになれば自信がついて、陽キャになれると思ってたけど、そんなのは幻だった。
結局、僕なんか見た目の良し悪しは関係ないんだ。人間、中身が肝心とはよく言ったもんだ。それが真実なんだな。中身こそ自信に満ち溢れた性格になれたならきっとブサイクでも前向きになれたに違いない。君を振り向かせられたに……違いない。
「軽蔑なんて……してない。わたしも同じことをしているから。気にしないで。」
アリスはそう言ってその場を離れた。その表情はどこか物憂げだった……。
え?どういうこと??
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます