第68話 【Side:ブレイブ】酔っ払い注意報!

 翌朝、俺は眠い目を擦って朝食を取っていた。正直、眠い……。


 ここ2日間は休暇のはずがとても休養を取れたとは言い難い。修理に出したアイスソードを取りに行く途中でのジャイアントアントとの戦闘。森の奥に住まう老魔術師マギクスからアイスソードを回収したものの、氷の精霊は目覚めるには至らなかった。


 王都ピセに戻ってからアリスの誘いで勇者様との出会い……そして精霊王との対話。深夜に宿に戻ってからのファナとの会話。


 一日としては濃密過ぎる。身体は疲れていたものの、アリスのこと、ファナのことが頭から離れず、なかなか寝付けなかったのだ。


 だからと言って今日ばかりはベッドで惰眠に落ちている訳にはいかない。何故なら、今日はあらためてスピリットガーデン軍に復帰する日だったから。寝てても叩き起こされることだろう……。


「しかし困ったよね、マギクス様でもアイスソードを直せないだなんて。これから先が心配だよー。」


 朝食を終えたパチャムは手元のお茶の水面を見ながら浮かない表情を見せる。


「そ、そうだな。ま、そのうち目覚めるさ。ハハ。」


 今はまだ目覚めない氷の精霊だが、何せ精霊王の加護を得たのだ、きっと目覚めるハズ。でもそれは口外はできないから希望的発言に留める。そんな呑気な俺にパチャムは冷めた視線を向ける。


「ちゃんと氷の精霊に呼び掛けてよね。ブレイブの声が届けば目覚めるかもしれないしね。それはそれとしてさ……」


 パチャムが指を上に向ける。


「もう一人、目覚めないのを起こさないと。」


 そういえば……この場にファナが居なかった。寝ぼけてて気づかなかった!


「あと30分で出発の時間だよ。ブレイブ、起こしてきてよ。」


「俺?いつもはパチャムが起こしてるじゃないか?」


 俺たちパーティのお母さん役であるパチャムは、いつも寝坊するファナや俺を普通に起こしてくれている。


「何度か起こしたんだけど起きなくてさ。これ以上、あの部屋には行きたくないんだ。今度はブレイブ、お願いするよ。」


 パチャムは手元のお茶の水面に視線を向けたまま、更にうな垂れる。そうとうやられている様子だ。


「分かった、分かった。」


 俺は階段を上がり、ファナの部屋に向かう。


◇◇◇


「うっ!コレは!?」


 ファナの部屋に入ると色々なものが交じり合った臭気を感じる。嫌な予感がした。ベッドの上に布団にくるまったものがある。ベッドの脇には酒瓶がいくつか転がっていた。


「おい、ファナ起きろよ。」


 布団の塊を何度も揺らすが反応が無い。とりあえず力任せに布団を引っ張る!


「もう時間が無いんだ、起きろよファナ!!」


 布団を剥ぎ取ると、そこには下着姿のファナがうつ伏せに寝ていた。


「うっ!」


 部屋に入った時の嫌な予感を思い出す。ファナは寝ながらゲロっていた!!


 パチャムは布団を剥ぎ取るまではしなかったのだろう。この酒とゲロの混じり合った部屋の臭いはアイツも分かっただろうが、ファナとはいえ女の子の布団をめくるヤツではない。


「ファナってば、起きろ!もう出発の時間だぞ!!」


 小柄なファナを引き上げてベッドに座らせる。咳き込んだファナの口からボタボタとゲロが溢れる。ファナの下着が汚れた。


「お前、そんなゲロまみれじゃ出発できないじゃないか〜!」


 さっきパチャムは言っていたな、あと30分で出発時間だと。こんな汚くて臭いファナを軍本部に連れてなんか行けない!ど、どうしたら。


「ゲヘゲヘッ!ウエェ〜!!」


 なんてことを!?横に座る俺の股間に嘔吐しやがったっ!!


「ブレイブ?ちょっと臭いよ!ウェッ……」


 もう何から突っ込んだら良いものか。いや、違う!時間が無いのだ!!


「ファナ、シャワー浴びるんだ!もう出発の時間なんだよぉ。」


「あぁ、そっか。分かった。」


 ファナは立ち上がると下着を脱ぎ捨てる。そのまま千鳥足でシャワーに向かう。


「ア、アイツ……恥じらえよ。酔っ払い。」


 少ししてシャワーで大きな音がした!


「ファナ?」


 浴室のカーテンを開けると、シャワーのお湯を受けながら浴室の壁にもたれるように座り込むファナ。


「大丈夫か?怪我はないか?」


「寝てた。痛い……」


 ファナは痛むところを見せる、摩りながら……お尻を。俺は慌てて視線を晒す。すると俺の頭にシャワーが降り注ぐ!


「うわ!」


「ブレイブも汚れてるよ。」


 頭から大量の洗剤を振り撒かれ頭が泡だらけになる!目が開けられない!!


「服も脱いで脱いで!」


 ファナは楽しそうに俺の服を剥いでくる!小柄だが馬鹿力なファナには抗えない。


「一緒に洗えば早いよ。洗ってあげるよ!」


「ちょ、ファナ!や、やめて〜!!」


 ようやく目を開けられた時には浴室中が泡だらけになっていた!ありったけの洗剤をぶち撒けたのだろう。


 ファナは俺に身体を引っ付けながら、洗うというより遊んでいるようだった。

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