第66話 【Side:ステラ】平行線上の死神とカボチャの悪魔
「フヒヒヒヒ、成程。立場ガ逆転シタノカネ、モシカシテ?今度ハ私ノ部下ヲキミニ渡セト。ソレハ困ルンダ。ソシテ、コノ者達ハ今、性欲ト食欲ヲ満タシタイト言ッテイルンダ。ダカラサ、"キミ"ノ奴隷ヲ譲ッテクレナイカネ?"キミ"ノ命ハ助ケルカラサァ。コノ前ミタイニ、命ガ助カルンダヨ?命ニ比ベタラ安イヨネ?ソノ人間達ノ命ダケデ済ムノダカラ。分カルヨネ、ステラ。ステラ。」
ここにきて、なお選択を迫る死神。明らかにわたしを見下し、要求を通そうとする。それはいつでも命を狩れるという自信が死神にはあったからだろう。
先の戦いでも仮面の女魔剣士ゴールドが神聖魔法「ターンアンデッド」で邪魔をされなければ、容易くわたしを殺せていただろう。悔しいけど……。
ここにきてこの死神の反応は誤算だった。今はこの場を乗り切り、ミッシェルとフェイトの命を助けることが第一優先であり、ゴブリンやオーガを捕らえることは二の次だった。
そのために強引に2人にはわたしの奴隷になってもらったのに、それすら死神は覆してきた。
この先は、、、死神とゴブリン・オーガ達全員を相手に戦う選択肢、しかもミッシェルとフェイトを守りながらの戦いしか無い。
「死神さん……それはできないんだよ。みすみすわたしの奴隷を差し出すことはできない。それより罪を犯したそいつ等を置いて、貴方こそ去ってもらえないかな?死神さん。」
「ヤレヤレ。平行線トイウヤツカナ。ワタシモ気ガ長イ方デハナイノデネ。キニガ折レテクレナイト……ドウナルカ分カラナイヨ、ステラ。アレニ変身シタラドウカネ、魔法少女トヤラニ?」
「奇遇だね。私ももう我慢の限界だよ!!でもね。先に言っておくよ。今は変身できないんだ『魔法少女』に。」
先手必勝!身体強化魔法を発動と同時に『ウォータージェイル』をミッシェルとフェイトの守りに施す。水の守りの中、ミッシェルとフェイトは祈る。
「ステラ、頑張って!」
死神は嬉しそうに鈍く光る鎌を振り下ろす!!
「変身デキナイ……ソシテ、武器モ防具モ無イ人間ガ偉ソウニ……楽ニ死ネルト思ワナイデクレ給エヨ!」
死神は基本浮遊して素早く迫って来ては鎌を振り回す!ま、スピード勝負なら人狼キリコとデュオを演じたわたしには難しくはなかった。
わたしは攻撃を避けながら椅子や桶などを死神に投げつける!でも……全てが死神をすりぬけてしまう。実体がないの?
「きゃあーーっ!」
死神に集中し過ぎた!ゴブリンとオーガ達がミッシェルとフェイトを囲んでいた!!だが『ウォータージェイル』があるので手が出せないようだ。
「死神の旦那ぁ、コレを消してくださいよ〜。」
しまった、死神に『ウォータージェイル』を消されたんだった!!死神が指を鳴らすと再び『ウォータージェイル』が解除された。
ゴブリンとオーガ達が歓喜の声をあげて2人に飛び掛かる!
「痛えーっ!」
椅子と桶など手当たり次第に投げつけ、濡れた床に滑りゴブリン3名は豪快に転倒する。オーガの巨体にはたいして効いていない。オーガAが2人に迫る!ミッシェルはフェイトを庇うように抱きしめる。
「風よ水を撒き散らせ!『ウォータースプラッシュ』、煌めけ光よ!『シャイニング』!!」
風呂場全体に光の乱反射が起こり視界が白転する!
「うごおぉーっ!!」
大きな音を立ててオーガAが倒れる!閃光に乗じてデッキブラシでオーガAの股間を強打したのだった。オーガにも急所……なんですね。
「ステラ、何トイウ速サ!貴様、慣レテイルナ!?」
死神がわたしを褒めてくれた?ま、タダでは褒めてくれないよね。クソッ!
「ステラ、いや……」
わたしがゴブリンABCとオーガAを倒した間に、死神はミッシェルはフェイトを闇のロープで縛り、死神の鎌を二人に向けていた。
「動クナ、ステラ。二人ノ命ノ糸ハ容易ク切レルカラナ。ヤレ!」
残っていたオーガBは察すると、わたしにその剛腕を振るう!
「キャッ!」
オーガに殴られわたしは床に倒れる!意識が……
「フハハ、所詮ハ人間。図ニ乗リ追ッテ。ステラヲ喰ッテシマエ!」
オーガは肉を食べやすくするように何度もわたしの身体を殴り続け、大浴場に骨が砕ける音が響く。わたしは朦朧とする視界にオーガの大きな牙が迫るのが見えた。
空腹を満たすように肉を貪るオーガ。
飛び散る鮮血。床は一気にどす黒い血に染まる。
その惨状を目にしたフェイトは気を失い、ミッシェルは荒い呼吸の中、床を汚してしまう。
かつて同居していた女性の惨殺のトラウマが、更に強烈に脳髄に上書きされたのだった……。
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