第65話 【Side:ステラ】死神の囁き?奴隷契約成立!

 突如として水の牢獄が弾け飛び消滅したことにその場の全員が驚く。


 そして、目の前の何も無い空間が黒く歪み、それは姿を現す。黒き衣を纏いし異形の骸骨の姿であり、視界に映ったミッシェルとフェイトは恐怖のあまり酷く震えていた。


「ステラ……これは夢だよね?ねえ?」


「ミッシェル、前言撤回にならないように頑張るよ。フェイトをお願い。」


 背を向けたままミッシェルに答えるが、一瞬も正面から目を離せなかった。


「ヤァ、ステラ。コンナ所デ会ウナンテ奇遇ダネ?ステラガ居ナクナッテ、ミナ心配シテイタヨ。早ク宿舎ニ戻ッタホウガイイ。コノ場ハ私ニ任セテ。」


「死神さんこそどうしてココに?そのゴブリンやオーガは死神さんの仲間です……よね?」


 忽然と現れたのは、共に王宮武闘大会を勝ち残った死神であった。


 わたしはその死神に向かってゴブリンとオーガ達の共犯であると言い放つ。理由は、こいつ等が大浴場に入ってきた時に感じた気配。そう、以前首筋に死神の鎌を突き付けられた時の、背筋が凍るような旋律がそう確信させる。


「モウ一度言ウ。キミハ今スグコノ場ヲ去リ給エ。用事ガアルノハ、ソノ人間達ナノダ。ソウ、キミハ見逃シテアゲルカラ、ト言ウ意味ダ。分カルネ?キミダケハ助カルンダヨ、ステラ?」


 死神とわたしは同じ階級なので面倒を起こしたくないのか、わたしだけは見逃すからミッシェルとフェイトを差し出せと言う。それだけで死神がゴブリンやオーガの仲間、いや親分であることが分かる。


「イヤ、私ハ理不尽ナコトヲ言ッテイルツモリハ無インダ。キミモ聞イテイタダロウ?ソノ人間達ハ、ゴブリン達ノ奴隷ニナルト自ラ言ッタノダ。ダカラ、ソノ人間達ハコノ者達ノ所有物ダロ?キミハ違ウ。ソウダロウ?ステラ。サァ、モウキミハ邪魔ナンダ。イマスグ去ルガイイ。」


 饒舌に語る死神。


「さっきの質問に答えてないよ、死神さん。そいつらは貴方の仲間……手下ってところかしら?」


 死神はその不気味な視線をまっすぐ向けて答える。


「ソウダ。満足シタカネ?サァ、消エ給エ。」


 質問に答え、共犯であることを認めた死神にわたしはこう答えた。


「だとしたら、この子達を置いて行けないよね?みすみすこの子達が殺されると知って見過ごすことができると思うの?死神さん!!」


「デハ、ドウスルノカネ?ステラ。」


「勿論、この子達は私が守るよ!オーケィ?」


 やる気満々に戦闘態勢を取るわたし!タオルで身体を隠しながら戦える相手ではないので、もしタオルが取れても気にしてはいられないだろう。辱めと死、とても天秤には掛けられない!


 何故なら、目の前の死神には一度命を奪われかけたのだから。一瞬の油断もできない緊迫した状況、まるで、王宮武闘大会が続いているかのようだ。もっとも、わたしにとっては絶好のリベンジマッチかもしれない。


 死神は呆れたような仕草を見せる。


「ソウ言ワレテモネェ?話ヲ聞イテイタノカネ?ソノ人間達ハ奴隷ナノダガネ。キミニ他者ノ奴隷ヲ守ル権利ハ無イノダヨ。理解デキタカネ?」


 奴隷契約はこの国では何人たりとも不可侵であることは理解していた。


「奴隷契約。そうだね、奴隷契約は第三者が口出しできるものではなんだよね?確か。」


「ソノ通リダ。」


「そうだそうだ!お前の出る幕じゃないんだよ、この人間が!!」


 死神の答えに、取り巻き達も調子に乗って罵倒する。


「じゃあ、アンタ達の出る幕じゃないよ!この子達はわたしステラと奴隷契約をしたんだよ!!部外者がわたしの奴隷に手を出すなんて許されないよねぇ?」


 大声で言い放ち、死神たちに睨みをきかせる!!


 その場の全員が驚きの声を上げる。


「えええええーーーっっ!!!」


「なに馬鹿なこと言ってるんだ、この女!頭おかしいと思ってたが、やっぱ狂ってやがるぜ!!」


 ゴブリンBが大声で侮辱する。ムカッ!


「ふざけるなよ!その女2人はこのゴブリン様たちに奴隷契約を申し出たんだぞ!!そうだろ、テメー等?」


 ゴブリンAが怒号交じりにミッシェルとフェイトに問い掛ける。2人は怯えながらもどうしたらいいか思考が追い付かなかった。わたしはそんな2人を抱きしめる。


「さ、言ってあげて、2人とも!」


 ミッシェルとフェイトは目の前の恐ろしい怪物たちを恐れながらも、手と手をつなぎ宣言する。


「私たちはステラに命を助けてもらうため、ステラの奴隷になると誓いました!」


 ミッシェルとフェイトはわたしの背中で震えながらも、渾身の勇気を振り絞ってそう宣言する。


「決まりね!もうあなた達はこの子達に手は出せないよね?」


「面白イ茶番ダネ、ステラ。ソレデ、キミハコノ後ドウスルノカネ?」


 死神が静かに尋ねる。


「そうね。死神さんは……後から来たから関係ないかもだけど、そのゴブリンとオーガ達は見逃せないかな。捕らえて、騎士団に突き出そうと思ってるよ。何せ人間を不当に襲い掛かり、殺そうとしたのだからね。証人はこの『カボチャの悪魔』だよ。文句無いよね?死神さん。」


 したり顔で言い放ってやった!!

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