第54話 【Side:ステラ】巧みな言葉に乗せられて……
「フハハハッ!!いいぞ、その目。一瞬で気配を変えるとはな。まぁ、落ち着け。残念だが、いまは叶わぬ。我が国はいま敵国と開戦間際の膠着状態にあり、とても他国、ましてや異世界など構ってはおれぬ。安心せい。」
「びっくりした〜。あははは。」
さすが魔獣王、わたしの殺気をお見通しか。
しかし、容姿は魔王そのものながら、中身は全然違う。むしろ話し易いし、どこか温かみがある気がした。他の魔法少女たちがその光景を見たらどう思うだろう?『(見た目そっくりな)魔王』と『魔法少女』が談笑しているなんて滑稽極まりないことだろう。
「もう一つ、聞いてもいいですか?」
「よい。」
「わたしは自分の世界に戻りたいのですが、異世界に行く方法をご存知ですか?」
魔獣王は首を左右に振る。
「そんな話は聞いたことがない。厳密には、遥か昔に繋がっていた世界がいくつかに分かれ、以降は別の世界に渡るなどという話は聞かぬ。」
「そうですか……。」
溜息が出る。
以前、ヴェイロンやデネブにはそれとなく聞いたが、皆一様に知らないと言う答えだった。魔法に詳しいデネブですら分からないので諦めていた。魔獣王への警戒が解けたわたしは、もしかしたら魔獣王ならと期待したものの、あえなく意気消沈。
「そもそも、どうやってこの世界に来たのだ?」
「あ、そうでしたね。魔王を倒した後に魔王の……手下との戦いでわたしは気を失い……目覚めたら魔獣の森海にいたんです。なので、どうやってこの世界に来たのか……わたしも分からないんです。」
「異世界へ渡る方法か。気にかけておこう。それまではこの国にいるとよい。そして、その力を役立てよ!」
「え?どういうことです??」
異世界に渡る方法を気にかけてくれるというくだりで少し安堵したが、その後の言葉がよく分からず聞き返す。
「ん?いや王宮武闘大会の勝者は王宮騎士団小隊長の任に着くのだぞ。」
そういえばそんなことがあったような!?
「それは辞退できますか?そんな柄じゃないので。」
「何だと!?それは叶わぬ。決まりだからな。破れば奴隷となるか、国外追放だな。ここまでの騒動を起こした以上、永久投獄や処刑にしても良いくらいだ。どうする?」
そう言われるとぐうの音も出ない。まさか強制だとは思わなかった。
「す、少し考えさせてくれませんか?」
「では10分やろう。決めよ!」
「10分!?」
数日のつもりがまさかの分単位に焦る!
「それにな、そなたには我が力となって欲しいのだ。異世界の者とはいえ、人間でここまで卓越した者はここ数百年以上現れていない。そんなそなたが功績を上げることで、人間の存在や地位が見直されることだろう。悪い選択肢ではなく、むしろ良い選択肢であろう。」
いつの間にか魔獣王が語り出し、聞き入ってる間に残り時間が2分位に!?何か騙されてるカンジを受けつつも、正直なところ選択肢は無かった。
「分かりました。やりますよ〜。」
うむうむと頷く魔獣王と、あらためて肩を落とすわたし。
その後、わたしの居た世界のこと、この国とこの世界のことを互いに話し、気付いた時には3時間を過ぎていた。
「実に有意義であった、ステラよ。また話を聞かせてくれ。」
「分かりました。わたしも楽しかったです。ありがとうございました!」
何か親密度が上がった気がした。
「またな。」
魔獣王は若干小声で言うと、続けて大きな声でヴェイロンを呼ぶ。扉が開きヴェイロンが入ってくる。
「ステラよ、大義であった。下がってよい。」
先程の気さくさは無く、威厳に満ちた物言いをする魔獣王。
ペコっと一礼をして謁見の間を後にした。
◇◇◇
その後、魔獣王とヴェイロンはしばらく話をしていたので、その間わたしは再び救護室に通される、そう、ゲシュタルトがいる。
「(何でまたゲシュタルトがいるところに??部屋なんていくらでもあるでしょ〜!?)」
気まずそうに部屋に入ると、天井を見上げるゲシュタルトが口を開く。
「生きて戻るとは驚きだ。無礼は無かっただろうな?どのような内容であったか?かなり長時間のようだったが。」
「まぁ、わたしの身の上話をしたり、逆にわたしの知らない事を教えて貰ったりと、とても勉強になりましたし、何より楽しかったです。」
「貴様と言う奴は……何と無礼な!」
どうやら魔獣王との対話は厳粛なものであるべきで、楽しいなど言語道断で無礼極まりないと言うことらしい。本当に堅苦しいヤツだなぁとうんざりし、それ以降口をつぐむ。
気まずい沈黙の時間が30分程続き、ようやくヴェイロンが迎えに来てくれた。
「行くぞ、ステラ。ゲシュタルト殿、これにて。」
「さっさとこの不愉快な人間を連れて行け。」
「お邪魔しましたー。お大事に。」
多少の嫌味を込めて挨拶し退出する。また、ゲシュタルトの額に怒りマークが見えた。
「(ベーだ!)」
正直、もう会いたくないと真剣に思った。
◇◇◇
「ここがお前の宿舎だ。」
ヴェイロンに案内されたのは、城から出て城壁内のある王宮騎士団の宿舎だった。
「あとは宿舎の管理者に聞け。」
ヴェイロンはそう言うと去っていく。
相変わらず口数と説明が少ないヤツだなあ〜と思う。道すがら唯一話したのは、奴隷契約はこれで無効だと言いことだけ。『魔法少女』のことを聞かれると思いきや……全く興味ない様子。それはそれで面白くなかった。
そもそも魔獣王からわたしを王宮武闘大会に出場させろという命令を受けたヴェイロンは、わたしのお礼の言葉を使い奴隷契約を結び、大会出場させるという王の命を見事に果たしただけなので、奴隷契約なんてもうどーでも良かったのだろう。まぁ、ヴェイロンも中間管理職で色々と大変なんだろうなぁと感じた。
長かった1日がようやく終わり、早くお風呂に入り、食事して、暖かいベッドで眠りたかったので、早速、宿舎に入り声をかける。
「すいませ〜ん!」
出てきたのは背の低いがガッチリしている女性だった。後で知ったのだがドワーフでここの管理者の『オルテ』であった。
わたしの姿を見ると、オルテが言う。
「遅いじゃないか!さっさと来な!!」
「は、はい!?」
強引にわたしを奥へ連れて行くオルテ。
そしてわたしはこの王宮騎士団の宿舎での新しい生活が始まるのだった。
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