第53話 【Side:ステラ】明かされる真実!魔獣王 vs ステラ

 謁見の間の扉をくぐり歩みを進めると扉が閉まる。入った瞬間から空間に満ちる圧倒的な威圧感。玉座には既に魔獣王が座していた。魔獣王の目も前に着き、わたしから口を開く。


「先程は失礼しました……魔獣王。」


「構わぬ。そう身構えるな。」


 いつ何があっても動けるように意識を集中させ、身体も後ろにも前にも飛び回れる状態にしていたが、見抜かれていた様子だ。


「魔獣王よ、聞いてもよろしいですか?」


「構わぬ。」


 確信部分から尋ねる。


「『魔王』を……ご存知ですか?」


 目の前の魔獣王が魔王であったなら、この問いに即座に反応を見せるだろう。わたしを抹殺する反応を。


「『魔王』?」


 しばし考える魔獣王。


「知らぬな。何だそれは?」


 知らない?そのなりで!?近くであらためて見ると寸分たがわず魔王なのだけど。いた寸分は違うか。魔王は高層ビルほどの大きさだったけど、目の前の魔獣王はせいぜい3m程か。チャチく見える。


「では、『魔法少女』は……ご存知ですか?」


 重ねて尋ねる。


「『魔法少女』……それも知らぬ。先程のそなたの変化のことか?説明を聞きたいものだな、ステラよ。」


 本当に知らない?惚けているのか!?


「『魔王』と『魔法少女』、それが先程の行動の根源か?そして、この魔獣王を狙った理由だな?」


 バレていたー!


 ただ、ここまでの展開からすると瓜二つとは言え『魔獣王』=『魔王』ではないと思えてくる。何故なら『魔王』であればこんな問答に付き合う必要はなく、わたしを始末する機会は何度となくあったはず。ここまでして知らないフリをする理由が無いこと自体、『魔王』ではないと物語っていた。


「ほう、この魔獣王がその『魔王』に似ていると言うのか?」


「いやぁ、近くで見るとそんなに似てないかも。うん、全然違いますね。」


 とりあえず誤魔化してみる。


「そうか。して、『魔王』とは敵対しているのだな?『魔法少女ステラ』よ。」


「はい。わたしが居た異世界で魔王と戦い……魔王を倒したのです。だから、何となく似ている魔獣王の御姿を見たときに何故『魔王』が生きているの?と勘違いし、あのような行動を取ってしまいました。」


「ほう、そなたが我に似た『魔王』を討ち取ったと申すか。」


「はい。しかし倒すことができたのは仲間との共闘によるものであり、また、魔獣王には遠く及ばぬ小物ゆえに討伐できたのです。この世界ではわたしの力など魔獣王は元より、この世界の戦士に遠く及ばないと痛感しました。」


 真実と嘘を織り交ぜて説明する。


「先の『魔法少女』の姿から感じた力はそうとは思えぬがな。それに武闘大会で『魔法少女』の力は使っておらぬではないか。それなのに勝利したのだぞ、あろうことか人間のそなたが。それだけで力は十分あると思うが。」


「そんな風に言われると嬉しいですね。」


 褒められて自然と顔がにやけてしまう。


「この魔獣王を前にして笑みを浮かべるとは!」


 魔獣王から怒気にも似た魔力を帯びた威圧が漏れ出す。でも何だか……


「笑わせたのは魔獣王ですよ。」


 自分で言った台詞にまた笑みを浮かべてしまった。


「弱き者であれば今ので即死しているところだがな。死なぬまでも大抵の者は精神に異常をきたし、そうでなくとも臆するものだが……」


「何かスイマセン。」


 不敬にも笑みを抑えられなかったけど、魔獣王の醸し出す張り詰めた圧力は和らいだ。もっとも、怒気に嫌な感じはしなかった。試されていたような気がした。


「おかしな人間だ。魔獣の森海の上位魔獣『グレーターデーモンズアイ』に挑み、王宮武闘大会で勝ち残り、先程はあの近衛隊長のゲシュタルトにも臆さず立ち向かった。そして我が面前で笑みを見せる者など皆無に等しい。それが『魔法少女』の力なのか?」


「目玉の化け物……『グレーターデーモンズアイ』ですか?あの時は魔法少女に変身して倒すつもりだったんですが、さっきみたくすぐに変身が解けてしまいました。そしてこの世界では『魔法少女』の力は不安定みたいで変身ができず、仕方なく『グレーターデーモンズアイ』に自力で挑みました。幸いヴェイロンがある程度弱らせたお陰で倒せただけです。わたしひとりではとても。武闘大会やゲシュタルト様との戦いにしても、あの赤い盾があったお陰ですし。」


 褒められて気分が良くなったせいか、普通に説明をしていたわたし。その時には魔獣王への警戒心は解けていた。


「そうか。強運もまたそなたの力かもしれぬな。しかし、その謙虚さはどうかと思うぞ。これまでのこと全て自分の実力だと誇るべきであろう。自分が成し遂げたことなのだから。でなければ、自分自身が哀れだ。この国の民は皆そうして自分を誇っておるぞ。」


 正直その意見には共感できなかった。例え自分だけの功績だったとしても、自慢げに誇れる性格ではないと自覚していたから。


「そんな性格だからヴェイロンの奴隷になって、今回の大会にも出ることになったんです。はぁ、もっとしっかりしてればこんなことにはならなかったのになぁ〜。」


 お人好しは改めないといけないなと感じていた。


「まぁ、王宮武闘大会にそなたを出場させるよう命じたのは、この魔獣王なのだかな。」


「え、何で?あ、何でですか??」


 咄嗟にため口になったのを言い直す。


「ヴェイロンから魔獣の森海での報告の際、森の最深部で出会った異世界からの人間の活躍が正直信じられなかった。ただ、ヴェイロンが偽りの報告をする訳がないため、その真偽を確かめたくなったのだ。結果は報告、そして、想像を遥かに超えていた。まして『魔法少女』などという力を持つ人間など初めてだ。今一度変身してみせよ。」


「今は変身できるだけの魔力が集まっていないので、残念ながらご期待には添えません。」


 大会参加はコイツのさしがねかぁ!!と内心憤りを感じていた。


「そうか。ときに、この魔獣王がそなたの世界を侵略するとしたらどうする?」


 うわ!嫌なことを聞いてくるな、このそっくりさん!!


「その時は、魔法少女として魔獣王の前に立ちはだかることになるでしょう。家族や友達、大切なものを守るために。」


「そうか、では、その時を楽しみにしておこう。」


 何てことを言いだすんだ!やっぱり魔王!?何でも構わなけど……いま殺ろうかなぁ。

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