第34話 【Side:ブレイブ】新たなメンバー

 そのエルフの女性は開口一番にこう言った。


「毒矢はわたしが射た。アリスを暴漢から守るために。まぁ、結果は暴漢ではなかったようだが、女性に抱きつくなど誤解される行動は慎むのだな。」


 その場にいた全員が面食らった。


「彼に謝罪するんじゃなかったんですか?リフィー。」


 アリスが慌ててリフィーと呼んだエルフ女に問いかける。


「暴漢でないと知った上で射たのなら謝罪もしよう。しかし、暴漢かもしれない以上、アリスを守るための行動として悪い道理は無い。生きていたので良いではないか。」


「そんな……。ブレイブ、ごめんなさい。彼女の行動はわたしを守るためだったから、わたしから謝ります。ご迷惑をお掛けしました。」


 深々と頭を下げるアリス。その後ろでは憮然とした眼差しを向けるリフィー。


「頭を上げて、アリス。俺は気にしていないからさ。君を守るためだったなら尚更だ。それにお礼を言わなければいけないのはこっちだよ。暗黒龍の危機から救ってくれたアリスこそ俺たちの恩人さ。ありがとう。」


 俺もまた頭を下げて礼を尽くす。


「ありがとう、ブレイブ。」


 アリスは照れたようにはにかむ。か、かわいい!無意識にニヤけたのだろうか?リフィーの俺を見る目が侮蔑に満ちている気がして俺から視線を逸らした。


「そうだ、ブレイブ。キューイが戻らないんだ。まさか暗黒龍にやられたんじゃ?」


 パチャムの言葉でキューイのことを思い出した。


「キューイは多分戻らない。暗黒龍を前にあの場から離れたんだ……俺に別れを言って。」


「え!?一人で……逃げたってこと?」


 ファナが明らかに不機嫌になる。パチャムも言葉にはしないが驚きを隠し得なかった。


「あんな伝説のバケモノだ、俺は仕方ないと思う。それに俺たちも他の奴等のことを気にかける余裕なく逃げたんだし。いつか再会した時は責めないでやろう。」


 そう言われて二人は納得したのか、それ以上は彼への非難は出なかった。


 しかし、4人パーティで一人抜けるのは正直痛い。キューイは狩人で遠距離戦闘はもちろん、偵察にも長けていたし、何より冒険者としての経験と知識は俺たち3人には無い貴重なものだった。


「正直キューイが抜けたのは痛いな。」


 パチャムもファナもそう思ったのだろう。黙り込んでしまう。そんな重い雰囲気のなか、アリスが口を開く。


「あの……」


◇◇◇


「我が敵を押し潰せ!『グラビトン・プレス』」


 目の前で大地に平伏すコボルドたち。


「はぁーっ!」


 気合いを入れてコボルドの一匹を仕留める俺は、急激な圧力に不意を突かれ大地に平伏す。


「あ、ブレイブ!?その高重力魔法は範囲型だから、入ると……遅かった。」


 そう説明したのはこの高重力な上級魔法を発動させたアリス。


 凄まじい高重力に轢かれたカエルのように身動きが取れず……ペッタンコになりそうだった。助けを求めたくてもうまくしゃべれないので、振り返りアリスにアイコンタクトを送ろうとした時、俺の頭上を超えるように矢が飛来した。次の瞬間、矢は俺の目の前に突き刺さる!高重力で矢が垂直に落ちたのだ。


「ひぃ!」


 反射的に悲鳴を上げてしまう。その光景を見てアリスは魔法を解除すると、自由になったコボルドたちは脱兎の如く逃げていった。兎でなく犬なんだけど。


「惜しかった。ちゃんと魔法の影響を計算したのだが。まさか外すとは……不覚。あぁ。また無事だったのだな。見事な悪運。しかし、今回は毒矢ではないことに感謝してもらいたいものだ。」


 リフィーの台詞からすると、何故か俺は嫌われているようだ。ファナやパチャムには無愛想くらいでここまでの悪意は向けてはいない。詰まるところ、護衛対象のアリスに抱きついたことがリフィーの気に触ったとしか考えられない。あれ以来そんなことはしてないハズなんだが。


「(毒矢でなくても頭に刺されば死ぬよ!)」


 俺の体調が回復すると今後について指示を仰ぐため、俺たちは一旦軍本部があるスピリットガーデン国の王都ピセを目指す。


 特に俺たちの小隊編成について。それは俺にとっては夢のような話。アリスが俺たちの小隊に参加したいと申し出たのだ。ただ悪夢もある。リフィーも加わるということ。戦力としてはプラスだけど、気持ち的にはプラマイゼロ、むしろマイナスかもしれない。


「しかし、アリスの魔法は凄いね!相当な修行をしたんだろうね?」


 ファナはコボルドたちを一気に行動不能にした魔法に感心する。


「それほどでも。修行は二週間くらいでしたよ。わたし本を読むのが好きで、結構すぐに覚えちゃうんです。」


「に、二週間!?上級魔法を習得するのはかなりの年数が必要って聞くけど。それも……こう言っては何だけど、アリスは人間だよね?こんなに上級魔法を習得した人間がいるなんて。」


 パチャムは驚きを隠せなかった。何故なら、この世界では人間は肉体的にも魔力的にも能力の低い劣等種であったから。


 俺たちの国オルガナをはじめ、大国スピリットガーデン寄りの国ではエルフが大多数で残りはホビットやドワーフなどの妖精族がいる。逆に、敵国ゴーファン寄りの国では魔族やダークエルフ、そしてモンスターが多い。人間はどちらの陣営にも居るが他種族に比べて個体数は少なく、総じて劣等階級であった。


「(あれ?本が好き?)」


 俺の鼓動が一気に高鳴る。毎日図書室に来ていた月島さんにそっくりなアリスから本が好きという言葉が出たことに、一旦俺の中で出した仮説『月島さん≠アリス』が崩れそうになる。二人きりになれたらアリスに聞こうと考えていたが、なかなか二人にはなれなかった。特にあのリフィーがアリスの側に居たから。


 やはり何としてもアリスと話をしなきゃと決意するのだった。


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


圧がある人っていますよねー。こ、怖い……。(;∀; )


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毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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