第35話 【Side:ブレイブ】密会

 数日の道程を経て俺たちはスピリットガーデンの王都ピセにたどり着く。早速、軍本部に行き、第21中隊が暗黒龍に襲われたことを報告する。幸いにも俺たちの他に3名の生存者が先に戻っていたらしい。だが、その中にキューイは居なかった。


 俺たちの他にも暗黒龍に襲われ多くの仲間が被害に遭い、また各地で敵国ゴーファン軍との戦闘が開始され、強力な魔族や魔獣との戦いを余儀なくされた。


 俺たちは新たな配置の決定があるまで2日間の休養を貰い、おのおの余暇を過ごすこととなった。そう、これこそ最大のチャンス!アリスと二人きりになり、彼女のことを、そして、月島さんとの関係があるのかを確認すると誓った。


 そんな矢先、チャンスの方から近づいてきてくれた!宿の部屋であれこれと作戦を考えていると、ドアをノックする音がする。


「アリス!?」


 ドアを開けるとそこにはアリスが居た。俺は周りを見回すが誰も、リフィーも居なかった。


「ブレイブ、今夜0時に精霊樹庭園西の展望台に来てください。一人で。お願いします。」


 背の低いアリスは俺を見上げながらそう告げた。その整った顔立ちは時に幼くもあり、時に歳上の女性を思わせることもある。どんな表情であれ俺の琴線に触れないことは無かった。もう、全てを投げ捨てて、彼女を世界の果てまで連れ去りたいと心からそう思った。


 でも、俺がそうしたいのはこの子じゃない。月島さんなのだから、この気持ちはグッと堪える。俺は頷くとアリスは一礼して立ち去る。彼女は一度だけ振り返った。その姿に俺はドキっとした!それは、夕暮れの図書室を立ち去る月島さんが一度振り返る所作と同じだったから。


「(あぁ、月島さんも可愛いけど……アリスも可愛いなぁ〜。)」


◇◇◇


 パチャムと相部屋の俺は、そっと部屋を立ち去る。パチャムは品行方正を絵に描いたような奴で、夜10時過ぎには寝てしまう。ちょっとやそっとじゃ起きない。迂闊な奴だ。


 この宿には俺とパチャムとファナが泊まり、アリスとリフィーは別に宿があるらしい。何でもリフィーが仕える主人の屋敷にアリスは滞在しているらしい。


 ともあれ、俺は静かに宿を後にすると、急いで王都ピセの北側にある精霊樹庭園の展望台を目指す。0時前には大通りを外れると一気に人通りがなくなる。悪いことをしている訳ではないが、何となく人目につかないよう物陰に隠れながら進む。側から見れば不審者に見えよう。幸い巡回している衛兵はやり過ごすことができた。


 かなり余裕を持って宿を後にしたハズなのだが、慣れない王都で昼と夜とでは景色も印象が変わり……道に迷ってしまう!もっと下調べをしておけば良かったと後悔する。焦る俺は不意打ちされ戸惑う!!


「おい。」


「ひぃ!?」


◇◇◇


 薄暗い部屋に灯る蝋燭の灯火。壁には長い影が2つ揺らめいていた。


「そうか、成果はなかったか。アリスの様子は?」


 床に傅くリフィーは再び口を開く。


「アレは人間の範疇を超えています。末恐ろしと言っても過言ではないかと。ただ、お人好しなところがあり危うい部分も。しかし、何故アリスに目に掛けるのです?能力はあるとはいえ人間如きを。」


 リフィーはアリスについて忌憚無い報告を行う。重厚な椅子に深く座りながらリフィーの言葉を確かめる。


「リフィーはアリスのことをあまり良くは思っていないのかな?」


「否、人間を重じていないだけです。アレは御し易い類なので構わないのですが。」


 椅子に座る者はリフィーの言葉に口の端を上げる。


「いずれ分かるさ。下がってよい。」


 リフィーは部屋を後にするとブツブツと独り言を漏らす。


「何故わたしが人間などを……」


◇◇◇


 そこは夜だというのに淡く光る精霊樹の優しい光に照らされた庭園。色とりどりの花が咲き誇る美しい楽園のようだった。丘高い展望台からはこの楽園を一望できた。そんな楽園を背景にアリスが待っていた。風になびいた黒髪を手で押さえながら立つ姿は女神そのものだった。この瞬間を画像に残したいっ!!


「遅れてゴメン、アリス。」


「ブレイブ、来てくれて……ありがとう。」


 俺はアリスの横に立つと、アリスが語り始める。それは……とてつもなく劇的な内容であった。だが、俺からの話もまた、彼女にとって劇的なものであった。


 そして、この密会で二人だけの秘密が生まれた。


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


可愛い女の子に誘われたら舞い上がるけど、どこか疑ってしまう。否モテのあるある~!(;´∀`)


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毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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