第33話 【Side:ブレイブ】その名は……アリス

 落ちてきた絶望からの生還。暗黒龍ダルクシュレイヴァの襲撃から逃れられたのは奇跡的だろう。その奇跡を起こしてくれたのは、いま俺の腕の中に居る黒髪の少女のお陰だ。


「え?どうして、その……」


 戸惑う彼女……勢い余って抱きつかれたからだろうか?僕自身、自分の大胆さに驚くが、月島さんの戸惑う姿も美しく可愛く、僕の心を虜にする。あぁ、女神さまだ。


「危ない!」


 月島さんがそう叫ぶと、俺の胴に両手を回して横に倒れる。俺の左肩に激痛が走る!


「あぐぁっ!!」


 もがく俺に月島さんが我慢してとささやき、俺の左肩に刺さったものを抜く。抜いた瞬間も激痛に苛まれるが、直後の予想外の出来事に痛みなどどうでも良くなった。月島さんは左肩の傷にその唇を押し付けたのだった!つ、月島さんの唇が僕の肌に触れるだなんて!?天にも昇る気持ちでクラクラしてくる。


「毒矢です。ダメ、吸い切れない!」


 そうか、俺は毒矢に撃たれたのか。この意識が飛びそうなのは毒のせいか。でも……月島さんのリップサービスのせいだと思いたい。霞む視界に月島さんの顔が見える。雪のように白い柔肌に、僕の血で唇に紅をさしたように……綺麗だ。俺は意識を無くした。


◇◇◇


 目を覚ました俺はベッドの中にいた。周りを見回すと見慣れない部屋、どこかの宿屋だろうか。痛む身体を起こすと上半身裸で左肩にかけて包帯が巻かれていた。


「夢じゃない、よな?」


 肩の傷が痛もうと構わない。確かめたかった。夢でなく月島さんが本当に居るのかどうかを。暗黒龍との戦いの中、パニックに陥った俺の妄想が生み出した幻じゃないことを、心から確かめたかった。


 立ち上がろうとすると視界がグラつき、そのまま床に倒れてしまう。大きな音に気づいたのか、部屋のドアが開き誰かが入ってくる。


「月島さん?」


 俺は視界がハッキリしないので、言葉にして確かめてみた。


「大丈夫?まだ無理はしないで。」


「ツキシマサン?何それ?」


 この声は……パチャムとファナ。俺は二人に支えられながらベッドに戻された。


「あ、あの子は?あの……黒髪の女の子で……」


 二人に尋ねる俺にパチャムが答える。


「黒髪なら……アリスのことかな?」


「え、アリス?」


 俺は戸惑った。月島さんじゃない?あの子は、あの子の名前はアリス……なのか!?一気に地獄の底に叩き落とされた気分であった。だって、14年ぶりに前世から恋焦がれた月島さんにこの異世界で再会できたと思ったのに、別人だなんて。


 でも冷静に考えると、前世の俺は14歳で死に、転生して14年経つのだ。それなら月島さんはもう28歳なはず。そう考えると、あの子は月島さんではなく、瓜二つな少女アリスなのだと納得せざるを得ない。俺の希望は儚く潰えたのだった。


「そうか、あの子はアリスって言うのか。それでその……アリスはどこにいるの?」


 あの子が月島さんじゃなくアリスだとしても、お礼を言いたかった。いや、月島さんとそっくりなアリスのことを知りたかったのだ。


「目が覚めたんですね。良かった。」


 部屋に入ってきたのは噂のアリス。その後ろには、初めて見るエルフの女性も一緒だった。


「あの、えっと……た、助けてくれてありがとう。ぼ、俺はブレイブ。ヨロシク。えっと……」


 俺は彼女の名前を呼ぶのを躊躇した。アリス、と呼べたのに呼べなかった。


「わたしはアリスです。お腹空いてませんか?良かったらどうぞ。」


 やはりアリスなんだなと、どこか寂しい気持ちになった。でも月島さんと瓜二つなアリスとまた会えて話が出来た。それだけで嬉しかった。鼻に料理の良い香りが届き、腹の虫も目を覚ます。


「ありがとう。お腹空いたからいただくよ。」


 アリスが用意してくれたのはタマゴのお粥だった。口にすると出汁のふくよかな風味と絶妙な塩加減が広がり、柔らかな穀物にタマゴが絡み合った食感は心地良く溶けていく。


「ブレイブ、どうしたの?痛いの?」


 ファナが俺に問いかける。気付くと俺は涙を流していた。


「あれ。何かホッとしたせいかな?涙が出るなんて。ははは。」


 我ながら下手くそな誤魔化しだった。涙の訳は、14年ぶりに食べたこの日本人の心に響く懐かしい和の味に触れたから。この繊細な味付けはこの世界には無いものだ。


「とても美味しいよ、アリス。懐かしい味だ。ありがとう。」


 俺はそう感謝を言いながらも、ますますアリスのことを知りたいと思った。だけど、みんなが居るところでは駄目だと思い、何とか二人になる機会を待つことにした。


 きっと、アリスと月島さんは何らかのつながりがあるのだと心の底から確信した。


「そう言えば、そちらは誰なんだ?」


 俺は最後に入ってきたエルフの女性について尋ねた。


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


和食の繊細で優しい味付けは日本独特な食の美ですよね。あぁ、日本に生まれて良かったと心から思います。


お読みいただいた感想や評価をお願いします。いただけると今後の励みになりますし、もっと良い話にできますので、是非ともお願いします。m(_ _ )m


毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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