第31話 【Side:ステラ】逃げちゃダメだ……よね?

 この国での奴隷の扱いは、それは酷いものだ。


 逃げられないように監禁や拘束され、過酷な重労働を課せられたり、慰み者として辱めを受けたり、捨て駒として戦場に送られたりと、主の命令に生涯従うことを強要される。


 そんな中、ステラの奴隷としての扱いは極めて異例だった。監禁も拘束もされない自由な状況で、ある意味放置プレイ。こんな状況であれば、余程の事情が無い限り大抵の奴隷は脱走を試みることだろう。


「それなら、逃げる方が良くないですか?」


 モーリスが提案すると、デネブが感嘆する。


「それイイネ。頭いいじゃない、モーリス!逃げようか、ステラちゃん。」


「え!?う、うーん……逃げるって言っても、わたしこの世界のことよく知らないし、どうしたらいいのか。」


 ナイスアイデアと思ったが、脱走後がノープラン過ぎて三人は考え込む。


 何で脱走話に至ったかと言うと、わたしの猛特訓が始まってしばらくのこと。あ、特訓が終わるまでデネブは『南瓜亭(かぼちゃてい)』を休業してくれた。


◇◇◇


「何、休みだと!おい、デネブ、私だヴェイロンだ。おい、ステラ、居るなら開けろ!!」


 早速、南瓜亭に足を運んだヴェイロンだったが、休業に愕然とする!


 1時間程、店の前で待つが応答が無いので、肩を落として帰っていく王宮騎士団長……。


◇◇◇


 王宮武闘大会は例年、出場者の8割以上は死亡するほどの死闘が繰り広げられる。死なないこと=上位10名に入れると言っても過言ではない。つまり、死なないための特訓が必要だとデネブは言う。


 そして、特訓を始めるにあたり、先ずはこの世界の魔法を習得することから始まる。先生はデネブ。今でこそ居酒屋『南瓜亭』の店長だが、かつては結構名のある魔女だったらしい。


 そんな、いま考え得る最高の師デネブから直々に魔法を教授賜り、また、デネブの見立てでは、わたしには魔法に対して高い潜在能力を感じ、この二人なら最強の魔法使いになるとデネブは確信していたようだ。なんたってわたし『魔法少女』ですから!


 かなり先に聞かされたことだけど、デネブがわたしを普通の人間でないと思うようになったのは……『魔獣の森海』から戻ったヴェイロンが全身ボロボロのわたしをデネブに託した時のこと。『魔獣の森海』でのわたしの活躍を聞かされたけど、正直、人間にそんな能力があるとは信じられなかったらしい。


 何より、脆弱な人間がこんなにボロ雑巾状態で助かるとは思えなかったが、ここでハロウィンを思わせるダークなデネブが顔を出す。ダークエルフだけに!


 ちょうど試作の回復魔法薬の効果を試したかったようで、死んだら死んだで仕方ないよね、このボロ雑巾状態では……と問うとヴェイロンは承諾する。実験の良い機会だと考えて引き受けたらしい。


 魔族を基準に調整していた薬液だったので、人間では薬の強さに耐えきれず、逆に毒になる可能性も検証したかったが、予想とは裏腹に薬液に順応し最適な回復軌道に乗っていった。身体が薬液のレベルに合わせていったと。デネブは素晴らしい検体だと心踊る。


 身体的には人間のレベルの範疇だが、魔力係数は人間のレベルを遥かに超えていた。ヴェイロンの言葉がほぼ真実に近づいた瞬間だった。結果的に生還できたからいいけどさ。


 わたしはわたしでデネブから魔法を習うことで、もしかしたら魔法少女に変身できるかもと心の中で期待していた!


 師匠の教えが良いためか、わたしはこの異世界の魔法を次々と覚え、たったの2日で初級魔法はほぼ習得していた!デネブもモーリスも驚くばかりの成長。


 次に中級魔法の習得に入る。


 が、壁にぶつかったのはここから。その壁は高く堅牢であった。


 初級魔法の呪文詠唱は日常会話ができれば何とかなるレベルで、魔法的才能があれば子供でも習得できるが、こと中級魔法からは呪文が長文になる関係上、呪文の高速詠唱が必須となる。


 魔法使いは幼い頃から高速詠唱を日常から耳で聞き、唱える訓練が当たり前のようにあり、身体の一部になっていたが、異世界に来て日も浅いわたしが付け焼き刃で習得できるものではなかった。


 最強魔法使い誕生への計画は音を立てて崩れた。そして、初級魔法とはいえ、この世界の魔法に触れても魔法少女の発動には全く効果は無かった。悲しい……。


 とてもではないが、初級魔法だけで大会を生き延びる=勝ち進むのは絶望的であった。大会出場者なら上級魔法も当たり前で、初級魔法が通じる相手など限られていたから。


 ここまでの顛末から、脱走の話につながる。


「やれることはやったし、それでも勝機が見えないんだから逃げるでいーんじゃない?ヴェイロンもそういう結果を想定して自由にしてくれたんだよ。さ、逃げよう!」


 デネブはモーリス案の脱走を促すが、わたしは迷っていた。それは、何のために出場するのかさえ知らさていないので、出場しなくていいなら出場せず観客として傍聴したい気分だった。でも、


「わたしが逃げたら、ヴェイロン困らないかな?」


「どんだけお人好しなのよ。元はヴェイロンが蒔いた種であって、芽が出ないで恥をかくのは自業自得。ステラは気にする必要ないわよ。」


 やはりどこか心に引っかかる。逃げることでわたしがわたしでなくなる気がしたから。


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


普通なら逃げ出しますよねー。ステラは真面目と言うか馬鹿と言うか。まぁ、馬鹿なんでしょうね~。(^▽^;)


お読みいただいた感想や評価をお願いします。いただけると今後の励みになりますし、もっと良い話にできますので、本当にお願いします~。m(_ _ )m


毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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