第30話 【Side:ステラ】王宮騎士団長と奴隷少女

「奴隷としてヴェイロン様の夜のお世話……どんな激しく鬼畜なご奉仕をさせられるのかしら!?粗相をしたステラさんはお仕置きされ……ハァハァ。」


 ひとり妄想し身体を火照らせるモーリス。


 呆れ顔のデネブはヴェイロンに問う。


「良かったわね、ヴェイロン。こんなレアな奴隷が手に入って。で、ステラをどうするの?」


「そうか。そうだな、我が奴隷としてステラに命ずる。」


 その場にいた全員がヴェイロンの言葉に注目した。


「ステラよ、『王宮武闘大会』で上位10位以内に入ること。命令だ。」


 その場にいた全員がヴェイロンの言葉に驚愕した!


 あぁ、街の貼紙にあった『王宮武闘大会』か。さて……


「どうして、わたしがその大会に出るの?」


「質問を許した覚えは無い。そうだな、一つ約束しよう。ステラ、この奴隷契約はこの1つの命令をもって終結としてやろう。」


 その場がざわめく。普通は奴隷契約解除を宣言する主などいないことを覆す条件、そして、その1つの命令が難題過ぎた。つまり自ら処刑台に進めという死刑宣告であった。


「それでいいの?ヴェイロン。」


「ん?あぁ。」


 そんな事情を知らないわたしはそんな返事をする。これまた全員が凍り付く。ヴェイロンの反応も何だかおかしい。


 しかし、デネブはそれでは納得が行かず噛み付く!


「ヴェイロン、この子をどうするつもり?確かに人間というより化け物じみてるけどさ、流石に『王宮武闘大会』は無いでしょう!しかも10位以内って。この子に恨みでもあるの!?」


「主から奴隷への命令に他者が口出しするのか、デネブ?」


 痛いところを突くヴェイロンだったが、デネブも返す刀で、


「だいたい、この子は異国の人間。この国のルールは知らないのだから、さっきの奴隷契約は無効よ!ステラがこの国の人間でないことは知ってるでしょ、ヴェイロ。それを利用して奴隷にするなんて、騎士団長として恥ずかしくないの!!」


 ヴェイロンを糾弾するデネブ。わたしはこの時初めてヴェイロンが騎士団長だと知った。


 普通、騎士団長に向かってここまで逆らえば不敬として処罰確定で、最悪死罪となる。無論、その場で斬り捨てられることもあり得る。そんな緊迫した状況ではそこにいた全員、とても口出しできるはずもなく、ただ成り行きを見守ることしかできなかった。


「デネブよ……これ以上は引き返せぬぞ、お前であっても。」


 互いに引かない膠着状態だったが、ステラが割って入る。


「いいよ、デネブちゃん。庇ってくれてありがとう!嬉しかったよ。」


 背後からデネブに抱きつく。


「でもね、わたしは自分からヴェイロンの奴隷になったんだよ。ヴェイロンが居なければ、わたしは今ここに居なかった。『魔獣の森海』で魔獣たちに殺されてたから、わたしはヴェイロンへの恩返しをしなきゃいけないの。分かって。」


 この右も左も分からない異世界に来てから散々な目や辱めを受け、ようやく日常の生活を送れるようなったけど、命の恩人では恩返ししないとね。


「大丈夫だよ。その大会がどれだけ危険なのか分からないけど、わたしは死にません。だって、まだやることがあるから。」


 まっすぐヴェイロンを見つめながら力強く宣言した。してやった!


 デネブは下を向いて微かに肩を揺らす。モーリスは目頭を抑える。


「いいぞ、ステラァー!」


「流石『カボチャの悪魔』!しびれるぅ〜!!」


 野次馬からは熱い歓声が沸き上がる!


「では、大会にエントリーしておく。王宮騎士団長ヴェイロンの推薦としてな。よく鍛錬するよう。」


 要件だけ告げると店を出るヴェイロン。


「頼んだぞ、デネブ。」


 ヴェイロンは振り返ることなく言い残して行った。


「べーだ!!」


 デネブは両手で左右に顔を引っ張り、ヒドイ顔でヴェイロンの背中に舌を出す。


 ヴェイロンが去った後、わたしを讃える宴が続いた!ただし、讃えられたわたし達は注文や給仕に追われ、ただただ忙しいだけであった。その分、売上はとても良かったらしい。


 宴が終わったのは明け方、疲れ果てたわたし達は客がいなくなった店内のテーブルに突っ伏す。


「むにゃむにゃ。猛特訓すりゅよ、ステラ〜、モー……」


 よだれを垂らしながら洩らしたデネブの言葉を聞いて、わたしも睡魔に襲われた。


◇◇◇


 時を同じくして、空も白みがかってきた頃、王城のなかにある王宮騎士団長の私室でくつろぐヴェイロン。グラスに注いだ琥珀色の酒を飲みながら、今日のことを思い出す。ステラとの再会があんな形になろうとは考えていなかったが、手間が省けたことに満足していた。


 ひとつ心残りは……以前、森の中でステラが言っていた『カスミ』という料理があれ以来どうしても頭から離れなかった。先に注文して食べてから、大会参加の話をすれば良かったと悔やむ。


 ともあれ、もはや終わったことを考えても仕方がないので、間近に迫った王宮騎士団主催の『王宮武闘大会』に想いを馳せる。


「ステラならば何とかするに違いない。あの時、我が命を守ったように。」


 一気にグラスの酒を煽り、大きめのソファに深々と身を委ねる。深いため息をつき、


「やはり昼に『カスミ』を食いに行くか。この私が気を遣う必要もあるまい。うむ、それがいい……もしかしたらだが大会でステラが死ぬこともあろうしな。死なれる前に食うとしよう。」


 ステラのもたらした異国の料理が王都で絶賛されていることはヴェイロンの耳にも入っていたが、噂の料理の中に『カスミ』の名ではなかった。


 つまり、それが普段出すことができないほど希少で高価なもので出来ているのだと考えるヴェイロン。金ならある。よし、決めた。何があっても、その只者ではない料理を味わうことを心に決めるヴェイロンであった。


◇◇◇あとがき◇◇◇


ここまでお読みいただきまして誠にありがとうございます。(´∀`)


ステラもまだまだこの国のことを分かってないのですね。お人好しでは生き残れないよ!(・∀・)


お読みいただいた感想や評価をお願いします。いただけると今後の励みになりますし、もっと良い話にできますので、本当にお願いします~。m(_ _ )m


毎週金曜日の午前中に定期更新してますので、また宜しくお願い致します。(๑>◡<๑)

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