第10話 趣味について

お題「趣味」 七五〇字以上八〇〇文字以内


さて、趣味についてと題してみたが料理は日常の家事なので趣味と呼ぶべきでない気がする。そうすると食べ歩きや珈琲の焙煎やお茶を作ることなどが趣味だろうか。京都市の近郊に住んでいた頃は古書店を巡ったりしたものだが、地方に帰ると古書店などほとんどない。そもそも新刊書店もなくなってきたのが昨今の地元の話題でもある。また先に挙げた趣味は嫌でもお金がかかるし、困窮してはいないが裕福とも言えないのて常の趣味としては中々、負担なのだ。それにたまには目新しいことをしてみたくなるのも人の心理ではなかろうか。


FBのタイムライン?というやつはあまり見ないのだがふと、目に着いた写真があった。ピカピカ、に磨かれた硬貨たち。詳細は忘れてしまったが、硬貨は正しいやり方で磨けば間違いなく綺麗になり成果が出るし、財布の中の硬貨が輝いているのは気分もよいという。


これならお金もかからず、必ず達成出来るぞ、と早速、財布を開いてみると小銭が10円玉が五枚、百円玉が二枚、一円玉が三枚、入っている。特に十円玉は手垢に錆に汚れている。ぼくの財布の中で最古参の昭和二十八年生まれである。


金は天下の回りもの、という言い方があるが不景気な世情のなか財布の紐は頑なに結ばれ、金たちは一部の富裕層の間を回遊しているのでなかろうか。天下の回りものどころか、世間知らずな金たちが増えたのではなかろうかと思っていたがこの小銭たちは中々に年季の入ったものたちだ。七十年近く人の手を渡り歩いてきたのだから、ぼくなどよりさぞや世間をみてきただろうと、想像しながら酢に漬け置きした硬貨たちをホームセンターで買った洗浄液を使ってボロ切れで、表を裏を念入りに磨いていく。


ぴかぴかになった硬貨たちを眺めて、ちょっとした達成感に浸りながら、皆がこんな風に硬貨を磨いて使ったなら、買い手も売り手もなんだか気持ちよく消費も拡大しないだろうかと考えてみる。しかし、磨いてやる前の彼らを思うに生まれてからこれまでの歴史を洗い落としてしまったような複雑な気分になっている自分がいると気付いてしまった。お手軽で金もかからない達成感のある趣味、だと思うのだが気分は少々、複雑なのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る