第7話 移ろいゆく楽しみ

お題:食と季節。字数制限はしていません。


引っ越してから寝室の窓から見える桜の木が季節を知らせてくれる。春はもちろん満開の桜の花に見惚れ、やがて桜吹雪が舞い、葉桜になればそろそろと五月がやってくる。個人的だが桜はこの葉桜が一番味わい深いと最近では感じている。若々しい青葉に混じってわずかに残った花托の淡い紅色が、控えめに眼に優しくうつる。華々しい満開の桜や儚い散り際も美しいが、この葉桜の初夏の陽気に溢れるなかに潜む控えめさは、心が和らぐものがある。


また地に落ちた花托を摘み上げてくるくると回してみると、緑と紅色の部位が溶け合って過ぎた春と来たる夏が同居しているような端境の色合いを味わうことができる。少し子どもっぽいかもしれないが、季節を感じて心躍らせるということは人から培ってきた大人の振る舞いなどというものを剥がしてしまうことがあると思っている。


さらに童心に帰ってしまうのは美味いものを食べるときだ。去年につんだ桜の蕾の塩漬けを手製の桜餅の上にのせて、甘さを引き立てる上品な塩っぱさに舌鼓を打つことは四季を楽しむなかでも特に心躍るものだ。また五月であれば茶を摘み、新茶まであれば言うことはない。


あぁ、やはり花より団子という言葉に嘘はないのではなかろうか。ただ食い意地が張っているだけである。しかし甘やかな新茶の湯気に眼鏡が曇って眼が眩んでいるのだから、ご容赦願って皆さん、新茶を楽しもうじゃありませんか。

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