第6話 花見る夜
※お題、花見、500字以内
暦の上では春は二月からなのだとわかっているが、まだ霰もふりコートをしまえないから冬が身体にしがみついているようだ。しかし春は日をめくり桜の蕾の膨らみが景色にひとつ色を添えて、気がつけば三月はゴミ箱で眠りカレンダーには四月が顔をだしていた。
寒い夜に湯を沸かして、熱々の珈琲を淹れて余った湯を湯たんぽに注ぐ。コートを羽織り珈琲と本を手にベランダにむかう。この部屋の利点と言えば家賃が安いことと、桜がすぐそばにあることだ。寒気に触れながら観る桜は、冬に咲いているようで不思議だ。珈琲が冷める前にひと口、ふた口、詩集をひらき、読みたい詩があった。
"よるのさくら" より。作・新川和江
『あなたがしゅろうのかねであるなら
わたくしはそのひびきでありたい
あなたがうたのひとふしであるなら
わたくしはそのついくでありたい
あなたがいっこのれもんであるなら
わたくしはかがみのなかのれもん
そのようにあなたとしずかにむかいあいたい』
あなたがさくらであるならわたくしはそれを散らした風でしかない、と思い照れ臭くなり珈琲を飲み干して、似合わない感傷に舌を火傷してしまった。一人の花見も良いがたまには誰かと飲み明かしたいものだと思う。
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