第5話 エメラルダの話
「私と手合わせをしろ」
エメラルダがそう言った時、ルフィナはとても迷っていた。
なぜならルフィナは人と戦ったことがなかったからだ。
もちろん父や兄姉と剣での手合わせならしたことはあるが、ルフィナは剣があまり上手くないので問題はなかった。
しかし、エメラルダがどのくらいの実力かもわからず、ルフィナは魔法の制御がまだ上手くできない。
こんな状況で手合わせをしてもいいのだろうか。
「心配するな、私はこのあたりの魔道士の中ではトップクラスに入ると言われている。手加減はいらない。私に負けたらこの学園への入学は認めない」
なんと無茶な!
てか自分でトップクラスって言うのね。
負けたら入学は認めないって、厳しすぎませんか?
とりあえず怪我してもこの前みたいにちゃちゃっと治せるかもしれないし、頑張りますか…。
入学できなかったら私には居場所がないんだ。やれるだけやってみよう。
そうルフィナは心に決め、エメラルダと向き合う。
「わかりました。よろしくお願いします」
そう言うと、エメラルダは杖を使ったり詠唱をせず、誰にも見えない速度で魔法を放ち、ルフィナは気絶したのだった。
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目を覚ますと、ルフィナはしらないベッドに寝かされていた。
ここはどこだろうか。
「目が覚めたか。気分はどうだ」
ベッドの傍にはエメラルダがいた。彼女は嬉しそうにニコニコしている。いや、ニヤニヤのほうが正しいか。
少し薄気味悪い…
「ほう、大丈夫そうだな。いやぁ、悪かったな。久しぶりに強そうな人間を見つけたものだからつい嬉しくなってしまった」
そう言ってエメラルダは笑う。どこか寂しそうにみえるのは何故だろうか。
そういえば、こうしてベッドで寝ているということは入学は…
「あの、私は負けたんですよね。てことは、入学は認められないんですね。はぁ」
これからどうしたものか。家に帰るわけにはいかないし、冒険者でもやるしかないだろう。
アメイズの仲間に入れては貰えないだろうか。流石に迷惑になってしまうだろうか。
「ルフィナ、お前の入学は認めない。」
やはりか。
「私の後継者になる気はないか」
後継者…?後継者ってどういうこと?私も先生になれってこと?いや、生徒になりたいんだけど。
「少し長話をしてもいいか」
ルフィナが首を縦に振ると、エメラルダはまるで老人のように、柔らかな声で話し始めた。
「昔、魔族と人族が手を取り合い、仲良く暮らしていた時代があった。
魔法が使えなかった人族に、魔族は魔法を教え、農業ができなかった魔族に、人族は農作を教えた。
同じ村に暮らし、食べ物を譲り合い、知恵を分ち合っていた人族と魔族。魔物は他の動物達と何も変わりなく扱われ、無闇に人を襲ったりもしなかった。
そんな平和な世は今はもうない。
ある時、人族が裏切ったのだ。
ある人は、剣を使って魔法に勝ってしまった。今まで魔法こそが1番強いと思われてきたのに。
そして、ある人は図に乗り、魔族を貶し始めた。その周りの人たちも一緒になって魔族を貶した。
魔族はこれ以上人族と共に暮らすのは難しいと感じ、新たな魔族だけの村を作った。
しかし、それも直ぐに人族に壊され、剣と魔法が使える人族は、どんどん優位になっていった。
魔族は最初は話し合いで解決をしようとした。しかし、それも叶わず、魔法を使い人族に抵抗した。それから殺し合いが始まり、それぞれの王ができた。
それからしばらくして、魔族の王、つまり魔王の1人は、昔のように人族との共存を目指し始めた。しかしそれは叶わず、魔王も命がつき始めていた。
そうしてその魔王は、ある決断をする。
人族の街へと潜入し、協力者を探すことにしたのだ。
人族の強者と協力したら、少しは共存へと近づけるのではないかと考えたのだ」
ルフィナはエメラルダの話を黙って聞いていた。
きっとその魔王がエメラルダ自身のことなのだろう。
ルフィナは小さい頃に、悪い魔王を倒す勇者の絵本を何度も何度も読んだ。しかし、エメラルダの話を聞いて、本当にそうだろうかと悩み始めた。
もちろん、その話が作り話で、ルフィナを騙そうとしているというのも考えられる。
しかし、エメラルダの顔を見ると、とても嘘を言っているようには見えなかったのだ。
「ルフィナ。もう一度聞こう。私の後継者となる気はないかい。もちろん無理にとは言わない。ただ、断られても困るがな」
ルフィナには断る理由がなかった。なぜなら2度目の人生なのだ。せっかくの異世界なのだ!
特別なことをしてみるのもいいだろう。
「わ、わたしでよければ!!」
「本当か。感謝する…退職手続きをしてくる。ルフィナはもう少し休んでろ」
そう言ってエメラルダはルフィナから顔が見えないようにして去っていった。
転生少女は勇者より魔王になりたい 黒うさぎ @kurousagidayo
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