第3話 旅の仲間ができました

そして、10歳になって最初のの春が来た。

どうやらこの世界には四季があり1年は12ヶ月あって不思議なことに日本と変わらなかった。

非常に覚えやすくて助かる。


今は3月の初め頃だが、入学試験もあるので今から王都に向かうのだ。

王都までは馬車で4日の距離だから会おうと思えば長期休暇なら会える距離だ。

だというのにアリーナやレイラはとても寂しそうにしていた。


「忘れ物はないかしら。着替えにお金、日用品は重くなるからダメよね。困ったら手紙書きなさいね。…あっ、お父さんに手紙は禁止されているんだったね」


そうだ。会える距離ではあるが、父はそれを許さなかったのだ。

手紙はダメ。帰ってくるのもダメ。

何かどうしてものことがあったら王都にいる叔父をあたれとのことだった。

叔父とはルドルフの弟だ。

会ったことはないが、ルドルフの話によると私と同じで剣ができない落ちこぼれだったらしい。

だからもう貴族ではないのだという。


「大丈夫だよ。私も10歳だもん。それじゃあ行ってきます」


私は少ししか入っていないリュックに、少ししか入っていないお金の入った革袋を入れてドアを開けた。

街の入口に行くと、これから王都に向かう行商人と、その護衛ハンター4人がいた。

私はこの馬車の隅っこに乗って王都まで行くのだ。


(まったく。貴族の扱いではないよね。まぁもう貴族じゃないんだろうけど)


「ではよろしくお願いします!」


「「「「おう!」」」」


ルフィナの声に行商人と護衛ハンターが声を揃えて返事をしてくれた。

ルフィナが荷台に乗り込むと、庭で練習をしていたはずのレイラが走ってきた。


「ルフィナ!!」


「お姉様…!お稽古はいいのですか?」


今は稽古中なはずだ。あの父が許すとはとても思えなかった。


「当たり前でしょ!もうなかなか会えなくなっちゃうんだから!」


本当はもっとお話をしていたかったが、行商人を待たせるわけにはいかないのでレイラに別れを告げて馬車に戻った。


「それじゃあ出発するよ?いいな嬢ちゃん」


馬車の先頭に座る行商人の言葉に頷くと、ゆっくりと動き出した。


「さて、まずは簡単に自己紹介をしよう。」


そう言ってルフィナの前に座る護衛の人が口を開いた。


「俺はハンターギルド『アメイズ』のリーダー、ジュールだ。役職は剣士。困ったことがあれば何でも聞いてくれ」


続いてその隣に座る男性が話し始める。


「俺はライオス。同じく剣士だ。よろしく頼む」


ジュールはフレンドリーなのに対してライオスは目付きが鋭く口数が少なかった。

二人とも剣士だと言うが、ジュールの剣はとても大きいので多分両手剣だろうとルフィナは思った。


ライオスの自己紹介が終わると、今度はルフィナの隣に座る、唯一の女性が口を開いた。


「はいはい!!私は魔術士のメリーよ。女の子同士仲良くしようね」


(魔術師か。それなら魔法についていろいろ聞いてみたい!)


メリーは大きな魔法の杖を抱えていた。


(これがあると魔法の威力でも強くなるのかな?)


ルフィナが興味津々でメリーを見ていると、今度は上の方から声がした。


「次は僕だね」


そう言うと荷台の上に乗っていたパーティメンバーの1人が顔を出してニッコリと笑った。


「僕の名前はロン。弓士だよ。ちっちゃいのに1人で王都に行くなんてすごいね。まぁよろしくね」


ロンが荷台の中に座らず上に乗っていたのは、モンスターの襲撃にすぐに気づくためで、ロンは弓士のため目がいいからだという。

『アメイズ』全員の紹介が終わったのでつぎはルフィナの番となった。


「えっと、ルフィナです!私は剣と魔法を少しだけ使えます。足でまといになってしまうと思いますが、王都までよろしくお願いします!!」


そう言うと、『アメイズ』のメンバー達は頷いたり「ああ」と返事をした。

その後ルフィナは『アメイズ』と剣や魔法について話していた。


メリー達と話してわかったことがある。

魔法が使えるものはとても貴重で、少しでも使えると色々なパーティから勧誘がたくさん来るというのだ。


しばらく話しているとルフィナはだんだん眠くなってきて壁にもたれかかっていた。


「襲撃だ!」


ルフィナがうとうとしていると、上からロンの声が聞こえた。


「敵の種類は?何匹いる?」


「ゴブリンだ。数は13匹」


「それなら大丈夫だ。ルフィナはここに隠れていてくれ」


ルフィナは13匹という数にとても驚いたが、『アメイズ』がドヤ顔で立っているので安全と見て中から見ていることにした。


(あれがゴブリン・・・。キモ!!)


緑色の体で二足歩行のゴブリンが13匹走ってきた。

しかしルフィナにはわかった。確かにこちらに向かっているのは13匹だが、木の影に隠れているのを見るとおそらく30はいる。

これはまずいのではないかと思い、ルフィナはジュール達に向かって叫んだ。


「アメイズの皆さん!敵は30匹以上はいます!ほら、そこの木の後ろに!」


ジュールが「本当か」と叫び、さっきとは比べ物にならないくらい真剣な表情で剣を構え直した。

馬車に残っている商人の男はさっきからずっと震えている。こりゃだめだ。


「よし」


ルフィナは気合いを入れて外に飛び出した。

多分、『アメイズ』だけでは倒しきれない。

このまま馬車に残っていたって死を待つだけだろう。


(そんなのやだ!大人しく死んだりなんかしないよ!)


ルフィナは姉から貰ったお古の剣を構え、襲いかかるゴブリンに向けて降った。

すると、見事に首に当たって真っ二つになったあと、姿をお金と目玉が転がった。


(倒したらお金になるんだ。この目玉はドロップアイテムかな?)


「なっ!一撃でゴブリンを!?」


そんなことを考えていると、『アメイズ』が驚愕していた。


「ぐはっ」


よそ見をしていたジュールにゴブリンの槍が刺さった。


(まずい!)


咄嗟にルフィナはジュールに手を当てて、治れ治れと呪文のように唱えた。


「治ってお願い!傷よ塞がれー!!」


すると、ジュールの腹の傷がみるみるうちに塞がっていった。


「うそっ」


メリーはあんな適当な詠唱で何故魔法が使えたのかとショックを受けていた。

あんな魔法、メリーにだって使えない。

何故ならあれはとても重症だったからだ。


しかし、まだ敵はたくさんいる。これ以上よそ見はだめだと思い、ちゃんとした詠唱を唱え始めた。


回復したジュールとルフィナも戦闘に戻り、次々とゴブリンを退治していった。


「ふぅ、終わったーっ」


ルフィナが気持ちよさそうに伸びをすると、『アメイズ』は全員肩で息をしてどんよりとしていた。


「お、おまぇ、本当に10歳だよな?それになんだあの回復魔法は!?」


「あぁ、あんな致命傷をあとを残さずに回復させるとは」


「ホントよ!私が頑張ったってあんな傷治らないのに」


「ルフィナちゃんだっけ?魔法少ししか使えなくないじゃん!」


「ちょ、ちょ!一気に言わないでくださいー!」


ルフィナは迷った。

ただ死んでしまうのが嫌で咄嗟に使っただけなのだ。

このくらい誰でも出来ると思っていたのだ。

何故ならこの魔法は練習せずともぶっつけ本番で出来るくらい簡単だから!


そう、ルフィナはこんな魔法初めて使ったのだ。


「私もよくわかりませーんっ!!!!」


「「「「ええええー!!!!!!」」」」


ルフィナ以外の全員の声が一斉にハモった。

しかし、ルフィナは「他にはどんな魔法があるのだろう」と考えていた。

ルフィナは学校に入学するのがますます楽しみになっていた。

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