アンビバレンス
アトリビュート
無題
「何故なんですか!?」
「落ち着いて下さいミライさん!お願いですからっ!」
「おかしいですっ!フレンズを置いていくなんて言語道断です!」
「でもこうするしか…っ!僕だって泣きたいですよ!こんな事したくない!この地獄にあの子たちを残していくなんて!……いやですよ……僕も…」
「なら考え直して下さい!何か!何かアレには弱点があるはずなんです!」
「バカ言うな!これまで何匹のフレンズが奴に食われた?何人殺された?何機落とされた?これ以上は!無駄なんだ!僕達は自然には勝てないんだ!分かれよ!」
「そちらこそわかってください!やっと世間がフレンズに人権を認めて…彼女達には生きる権利があります!」
「アイツらはここで生きられる!」
「何でですか!そんな事言い切れるわけ無いじゃないですか!考えて下さい!何度も何度も食べられて生まれてを彼女達は繰り返さなければならなくなる!そんな苦しみを受けさせるなんて!私は!いやです!」
「痛い痛い!暴れないで下さい!」
「暴れずにいられますかっ!私は死ぬまで抵抗します!あの子たちと死ぬのっ!」
「この…分からず屋!」
「痛…いっ…」
「アンタは人間なんだよ!にんげん!フレンズじゃない!アンタは弱いんだ!僕達は弱いんだ!弱いんだ!」
「でも…」
「アイツらを信じてくれ!アイツらは強い!だから!きっと生き延びる!何度やられてもきっと立ち直れる!信じろ!信じろ!弱いから信じるしか無いんだ!信じろよ!」
「…」
「冗談も…いい加減に…してくれ…」
「私は…私はただ…」
「…」
「…」
「…」
「…」
長い沈黙が二人の悲しみの蓋を打ち壊した。
其処には果てし無い涙と歯軋りが有った。
友と過ごした時間。
分け合った食べ物。
苦痛。
涙。
悲しみ。
怒り。
楽しみ。
嬉しさ。
全てが凝結した液体が唯、眼から流れる。
止め処なく溢れる清水は止まらぬ。
友を思う気持ちが止まらぬ。
唯、無力な己を呪うしかない。
我々は弱いのだから。
「ミライさん…」
「分かってます…分かってますよ…」
「行かなきゃいけない…大丈夫だよ。食事もラッキービーストが与える」
「はい」
「最後に…会ってきたら?」
「いいです…きっと去れなくなるから」
「そうか…」
外に出た。
日は照り付け、金色の草が風にそよぐ。
帽子を強い風の中に解き放った。
宙を舞う帽子は二度、回転すると影に隠れて見えなくなった。
それは、期待など孕まずに、諦めに消えたのである。
ブーツの土塊を落とす。
「日の出港から出ます」
「急ぎましょう」
二人でジャパリバスに乗った。
載せる客はいないので前方二席だけで在る。
砂埃でモザイク掛かったフロントガラス越しには夏の雲が。
景色を見るのを忘れていた。
二度と来ないだろうに。
「それもきっとしあわせ」がラジオから流れて来る。
クソ、何でこんな時に。
幸せを手放す時に。
歌いたい歌がある
私には描きたい明日がある
その為になら
その為になら
一人の部屋も怖くない
曲が終わっても、港に着く迄は頭の中がそれでいっぱいだった。
スロープを登る。
もう、この土を踏む事は無いかもしれない。
見殺しにする私たちに言い訳は出来ない。
ごめんね、みんな。
後ろから彼も続く。
私もきっとこんな憂鬱な顔しているに違いない。
甲板の上で数人の職員がパークを観ている。
その一人に加わった。
ボーッと汽笛が鳴る。
その時であった。
あ、あ、嗚呼。
観ていた人達の口から意思無き声が漏れた。
火山の火口から花火が上がったのだ。
ぱんぱんぱあんと鮮やかに。
私たちはここに居る、大丈夫だと。
備える者もいないあの火山が私たちを見送ったのだ。
もしかすると、会えないかも知れない。
会えるかも分からない。
でも、いつの時代も忘れたりはしないから。
船は一層楽園から遠く。
人々の涙を置き去りにした。
アンビバレンス アトリビュート @atoributo
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