第8話 俺の恋と俺の将来

 初めての学園祭が終わった1年後。少し街に出てると、若い女性が男性の肩にもたれかかってたり、腕を組んでいたり、そんな光景をここ最近よくみる。

 綺麗に色づいてきたもみじの葉が散り、冬が近づこうとしている。冬といえばクリスマス。クリスマスといえばそこは、リア充の集い。

 カップルを見る度に彼女欲しいなぁという思いが強くなっていたあの頃の自分が懐かしい。



 初めての学園祭が終わったあと、俺は結愛に告った。告るタイミングが違うことくらい自分でも分かっていた。好きという気持ちが抑えられないとはこういうことなのかとその怖さを俺は感じた。結果は聞かなくても分かるだろう。


 結愛は一途だ。好きな人に彼女が出来ても決して他の男に目移りしない。結愛は俺には勿体ないくらいの人だ。改めて感じた。本当は結愛に振られたらキャロラインに告白しようと思っていた。

 俺はなんて愚かなんだ。2人とも手に入れようとした俺は最低な男だ。好きな人の恋をぶち壊そうとした俺は最低な男だ。

 せめてもの償いと思い俺は期待で胸を躍らせていた和太鼓部をあとにした。あの二人の恋が上手く行きますようにと願いを込めて。

 目から溢れ出てくる涙はとても冷たく俺の冷え固まった心をより凍らせた。俺は唇を噛み、何度も自分に言い聞かせた。俺が和太鼓部を辞めれば、彼女たちは俺に気を使わなくてもよくなる。精一杯生きてゆける。

 それに俺は勉強に集中しなければいけない。今の成績では行ける大学なんてない。俺は将来について具体的には決まっていないけれど、大学には行きたい。

 俺はこの苦い恋経験を生かして将来絶対に幸せになってやる。



 あの頃から1年たった俺はある意味リア充だ。友達毎日のように遊んだりどうってことない会話が楽しい。それに、勉強もがんばっている。初めは失恋を紛らわせるための勉強だったが、偏差値はみるみる上がり35だった偏差値が62まで上がった。勉強がおもしろくなってきた。女を追いかける高校生活も楽しいが男と満喫する高校生活も悪くない。リア充が全てではない。俺がそう思えたのは最近だ。



 ある日、家に帰ると母親が俺に1枚のチラシを見せた。予備校のチラシだ。


「ここの所ものすごく勉強頑張ってるし通ってみたら?」


 俺はなんとなくだが予備校に通ってみようと思った。とりあえず、説明を聞きに行ってみると、場違いなのではないかと不安になり、冷や汗が止まらなかった。授業見学してみるとかなり難しい内容の授業をやっていた。あまり理解できないのでぼーっと見ていると、予備校の先生に尋ねられた。


「志望校決まってる?」


「決まっていません」


「そっかー、有名な私立は余裕で目指せると思うし、もっと上なら、東大とかどう?」


「俺に、東大なんて夢の夢です」


「そーかな?ここの予備校からも結構東大行ってるし、頑張ればいけると思うけどな……将来しっかり決まってないならとりあえず目指して勉強してみたら」


「そんな事言われても.......」


「頑張ってみるだけ頑張ってみよ、じゃー決まり、君は東大志望ね」




 後から考えてみれば、予備校生を増やすためだけのただの口車に乗せられただけだったのかもしれないが、この会話がきっかけで俺の未来はがらっと変わった。

 講師の前では、将来のことは決まっていないと言ったが、実は俺は将来、恋愛心理学者になることを決意していた。恋愛心理学者になって「人を好きなる、人を愛する」とはどういうことかを学ぼうと思っている。俺はそのために死にものぐるいで勉強を頑張った。ぐんぐん偏差値が上がっていくのと同時に『東大に行きたい』という意志が強くなった。



 これまでにないほど頭を使った。頭痛や手が痺れることもあり、途中で何度も折れそうになったが俺は見事、東大理Iに合格した。


 この波乱だった高校生活。まさに『俺の初恋は君の青春』だ。

 俺は一生忘れない。



 俺は桜の花とともに赤門をくぐった。



 この感じ、この新鮮な感じが懐かしい。3年前の俺は馬鹿なことを期待していたものだな。



 大学に入学し、何ヶ月か経った頃授業が終わり講堂から出ようとした時、


「川上くん!少しお話があるんだけどいいかな?」


 話しかけてきたのは、可愛らしい女の子。実は彼女は、俺が入学式の時に一目惚れをした人だ。桜の木にもたれ掛かる彼女の姿がとても儚げで、一瞬にして心が持っていかれた。


「うん、いいよ」


 俺は中庭に連れていかれベンチに座った。


「要件はなにかなー?」


「ちょっと言いにくいんだけどね、私ね、川上くんのこと、好きになっちゃったみたい.......よかったら、私と付き合ってくれないかな?」


 俺は生まれて初めて告白されるという経験をした。しかも一目惚れした柑奈ちゃんに。

 その瞬間


「まことー」


 と叫ぶ声が聞こえた。振り返ってみるとそこに居たのは結愛だ。


「久しぶり、お取り込み中ごめんね!どうしても伝えなくちゃいけないことがあって」


 久しぶりに見た結愛の瞳はあの頃よりさらに輝いていた。


「私、誠のことがが好き!あの日、翔平先輩に彼女が出来た日、夜の教室で私を慰めてくれた誠のことが忘れられない。私にもう一度チャンスをください」



 俺はほぼ同時に2人から告られた。立場こそは逆だがあの時と同じ展開だ。俺はもう同じ失敗は繰り返さない。俺はあの時より何十倍も何百倍も成長した。



 10年の月日が流れ俺はテレビにひっぱりだこの恋愛心理学者 川上誠 として大成功を収めた。下積み時代も長かったし苦しいことも沢山あったがようやく俺はここまでのぼりつめることが出来た。高校や大学でした恋愛経験は貴重な経験となった。涙を流してばかりだった高校生の頃の自分に今なら言える。



「人が人を好きになるのは自由。誰を愛してもいいんだよ」


 と。




 俺はいつものように扉を開け



「ただいま。」






「あなた、おかえり」

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俺の初恋は君の青春 きゃろん @can_m9916

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