第4話 俺の閻魔帳

 街中の木からセミの鳴き声が聞こえ始めた頃、ダイエットは成功した。まだ痩せる必要があるかもしれないがひとまずこのままの体型を維持しようと思う。

 やっと、土俵に立てたような気がする。中学時代には考えられないぐらいの充実した青春ライフを送っている。入部してから3ヶ月も経てば、慣れたもんだ。最初の緊張感など全く感じられない。

 やっと仲良くなれたのだから、和太鼓部の1年生の紹介をしようと思う。ただ、1年生全員となるとなかなか厳しいので関係がある人だけにした。


 No.1 俺の苦手な奴 菅田 妃那子

 通称キャロライン。身長149cm部活の中で1番小さい。顔のパーツが全体的に真ん中に寄っている、ふっくらとした頬、厚い唇、一言で言えば幼い。耳にキンキンとくる話し方やぱっつん前髪、常識を超えた行動そのものが幼い。部活になると、普段下ろしている胸下まである長い髪の毛を左側でひとつに縛る。

 彼女はとても変わり者だ。気分屋でわがままで自己中心的で一見悪い人に見える。だが誰もが尊敬するような努力家な一面もある。彼女はヘラヘラしている割に勉強ができるのは努力家なことが関係しているかもしれない。彼女は俺と違って中学の頃はしっかり学校生活を楽しんでいたらしく、女王様だった彼女の周りにはお世話係が40人もいたらしい。そのことが原因かは分からないが彼女は中学の友達に依存傾向がある。

 俺は彼女のことが少し苦手だ。やはり俺とは合わない。怖くはなくなったがやはり彼女のわがままにはついていけない。だけど彼女の気の強さや努力家なところは尊敬できる。俺にも彼女のような気の強さがあればなぁなんて思うことも多々ある。


 ある日彼女に質問された。


「ねー、なんで侮辱されても何も言い返さないの?悔しくないの?」


 悔しいにきまってる。だからといって言い返したら空気を悪くしてしまうことくらい予想がつく。言い返さない理由はもう1つ。それは言ったところで何の解決にもならないからだ。そんなことくらいもう経験済みだ。だからといって彼女に本音を伝えるのも気が引ける。俺は彼女を納得させて会話を終わらせるような言葉も見つからなかった。彼女は、いつも言葉がつかえてしまうような質問ばかりしてくる。

 俺はその度頭をなやませる。本当に空気が読めない。だから彼女のことが少し苦手だ。



 No.2 ドSの代表 西浜 響也

 身長170cm、体重55kg。さすが人を貶すだけあってモデル体型だ。自慢の二の腕には筋が綺麗に入った筋肉がバランスよくついている。それに彼は小学校から和太鼓を習っていたので初心者の俺に比べると上手いのは当たり前だ。いつも俺上手アピールをすることを忘れない。自慢することが大好きな奴だ。顔だけはいいのに。中身は手に負えないほどの自己中ボーイ。人を貶して優劣感を得ようとする奴だ。


「俺、胃下垂だからダイエットする必要ないんだよねー」


「俺、ダイエットなんてした事人生で1度もないわ」


 このふたつのセリフは一日に何度も聞く。これを聞く度、俺は彼に苛立ちを覚えるがそれ以上に図星で何も言い返せない自分が情けない。

 でも、そんなこいつにも少しは感謝してるいる部分もあったりなかったり…。俺がダイエットをし始めたのも彼が俺の事を毎日のように貶してきたから俺は見返してやりたいという思いも少しはあると思う。

 そんな彼だが、彼女は欲しいのに好きな人はいないらしいその上恋愛経験が全くない。俺はこの時天と地がひっくり返るほど驚いた。性格がダメだったとしても顔がよければ何人かの女は釣れるものじゃないのか?もう彼という人間が分からなくなってきた。




 No.3 魅力たっぷり 樋川 結愛

 身長154cm。ちょっとポッチャリしている。鼻筋の通った丸顔にキラキラと輝く美しい瞳、二重になりそうな奥二重、桜の花びらのように薄く形の整った唇、彼女の顔は大人びている。女子も高く、気遣いもよくできる。見かけによらずスポーツも万能で、特にバスケが得意だ。唯一彼女だけが俺の事を、


「おーい誠都ー」


と下の名前で呼んでくれる。なんといっても彼女の1番の魅力は溢れんばかりの笑顔だ。黒ピンで止めてある前髪、もう少しで肩につかないほどの短く艶のある髪の毛が風になびき、顔をクシャッとさせて満面の笑みを浮かべる彼女を見ると癒される。こんなに笑顔の似合う人物はいないだろう。


 彼女は負けず嫌いで涙もろい。部活でも人一倍練習している分、ステージなどで上手くできなかった時は、練習場のすみでひとり、悔し泣きしている姿をよく見る。彼女が泣いている時、俺はいつも慰めたい気持ちで山々だが、口下手な俺には、彼女の傷口に塩を塗ることしか出来なかった。そんな自分が情けない。



 No.4 みんなのお姉さん 鈴木 静來すずき しずく

 身長は157cm、体重は55kg。黒髪のミディアムヘアで毛先に少しウェーブがかかっているのが印象的で、彼女は誰よりも小顔だ。彼女は勉強も部活もどちらもできる優等生。その上しっかり者で先輩からも信頼されている。リーダーシップに長けていて、みんな彼女に頼りっきり彼女がいないとダメダメだ。そんな彼女に俺はいつも感謝をしている。響也やキャロラインに貶された時、彼女は、


「妃那子!響也!ちょっと言い過ぎー、川上に悪いと思わないの?謝ってよー」


と彼と彼女にいつも注意をしてくれる。彼女の言葉に俺は何度救われたことか。彼女はとても立派だ。心の底から思う。しかし、理想のタイプではない。やはり自分より完璧な人間は避けたいものだ。俺が守られる方ではなく守る方になりたい。彼女には俺なんかよりずっと良い彼氏が近いうちに現れそうな予感がする。

 ちなみに彼女も、和太鼓を小学校の時習っていた。しかも響也と同じところに通っていたようだ。彼女は上手いアピールなんてしない。初心者で何もわからないような俺たちに丁寧に分かりやすく教えてくれる。



 No.5 俺のペット 田島 真宙たしま まひろ

 身長176cm、体重は、彼の体型からみると60kg前後が妥当だろう。こいつは俺のペット。この俺よりも弱々しく、ちょっと大きいけどよく懐いてくれる可愛いペットのようだ。一緒にいてあまり疲れないが彼の性格には問題あり。デリカシーのなさや周りを見ることができないところ、なにかと上から目線なところ。多くの人が彼のことをあまりよく思っていない気がする。

 元々は俺がこいつを和太鼓部に誘った。部活で悩んでたらしいから、


「俺は和太鼓部に入るつもりでいるからよかったらくる?」


俺は誘ったことを少しだけ後悔した。しかし、こんな彼だが時には誰よりも優しい。きっと彼の優しさは長所なんだろうけど、彼の問題ありの性格の印象が強すぎてその優しささえ気持ち悪く思える時がある。

 彼はよくキャロラインから罵声を浴びせられている。相当なドMな天然バカか相当優しくない限り、彼女の罵声には耐えることが出来ないと思う。それなのに、彼は彼女の愚痴も彼女のおねだりもとことん聞いている。彼は相当なドMでバカなのだろう。


 彼の問題は他にもある。お菓子パーティーをした時にお菓子を手にして口へは運ばずそのままリュックに詰めたり、調理実習のソースを勝手にもらっていったり、常識のない奴だ。また、すごく女好きで、なにかと女子に近づこうとする。よく女子を口説いたりしているが誰も口説かれない。むしろそのせいで嫌われていることに気付かないのだろうか。相当なバカだ。



 No.6 男でも憧れるイケメン 杉崎 優すぎさき ゆう

 身長は161cm、少し大きめ。彼女とは同じクラスでもある。彼女は少し特別だ。だって性別がはっきりしていないのだから。いわゆる男と女の中間、中性を名乗っている。目にかかるほどの長めの前髪が彼女をよりかっこよく見せる。休日に見かける彼女はワックスでかっこよく髪を整えている。俺も彼女に髪の毛を整えてもらったことがあるがとてつもなく上手だ。

 普段は真顔なことも多く何を考えているか分からない。だが不意に見せる笑顔はとても美しい。

 時に彼女はキャロラインと俺の仲介役を引き受けることもある。俺から頼んだわけでもなく、キャロラインがいつも彼女に、


「ねぇー優、川上にムカつくって言っといて」


と必ずキャロラインは彼女に俺への伝言を頼む。いつも俺は彼女に申し訳なく思う。


 彼女も小さい頃から本格的な和太鼓教室に通っていて、和太鼓に関することにはたまにリーダーシップを発揮するが、上から目線な話し方や大きい態度。そんな彼女を嫌う女子も少なからずいた。また爪を噛む仕草もある。



 No.7 謙虚の塊 桐生 綺姫きりゅう きき

 彼女の身長は152cm。人の気持ちを考えることの出来る優しい子だ。誰にでもひとつは欠点があるはずなのに彼女だけは見つからない。欠点だらけの俺はそんな彼女を心の底から尊敬してる。また彼女とは趣味の話がよく合う。特に野球の話だ。俺は日本ハーツのファンだが彼女はジャイアントンが好き。色んな選手の話をして盛り上がる。一緒に甲子園を見に行くという話も出たほどだ。それに俺が落ち込んでいた時、彼女は笑顔でいつも励ましてくれる。そんな彼女は素敵だと思う。

 彼女とはずっと良い友達でいたいという願望があったりなかったり。



 No.8 俺の親友 眦 透也まじり とうや

 茶髪っぽい髪の毛と笑った時にできる目じりのシワが印象的な俺の親友。とても話しやすくて、面白くて、先輩からも女子からも男子からも人気がある。恋愛経験も豊富で、彼の思いやりのこもった優しい言葉にたくさんの女子が虜にされてきた。正直に言うと羨ましい。

 そんな彼は中学まではサッカー部に所属していて、抜群の運動神経が備わっている。

 驚きなことにこの学校には男子サッカー部がないので仕方なくほかの部活を探していたらしく、和太鼓部の練習を見かけた時、キラキラした先輩に魅力を感じ入部を決めたそうだ。

 彼は俺と同じで響也のことが苦手だ。まぁ、響也のことを好きな人はなかなかいないだろう。しかし、それを外には全く出さないし上手い言葉で響也を受け流している。俺には到底出来ない芸当だ。




 女子とも関わってみたけれど好きな人は出来なかった。いいなと思う女子はいるにはいる。しかし、図々しい話になってしまうが、告白されれば付き合ってもいいと思うが自分から告白して付き合いたいと思う女子はまだいなかった。

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