第12話 四分儀座流星群①
新年が明けた。12月22日の
屑は俺たちが勝ったので、何でも言うことを聞くよ、と言ったので。
「おはよー」
「おっはよーんっ!」
「お、おはよぅ……」
これまでのように、以前のようにしてもらうことにしている。
屑としては不満なようで、もっと何か無いのか、と言ってきたけれど。
俺たちがいいって言ってるんだから、それでいいよ。
ということで1月4日、初詣のために集まってみた。
本当は元日でもよかったんだけど、屑が警察の取調べとか受けていたりして、大変だったため、その辺を考慮した結果である。
どんな考慮だ。
俺的には、屑も戻ってきてくれたし、もうお腹いっぱい、満足なんだけど。
でも屑は、やはり『銀河』が気になるらしい。
『
俺と同じパターンで、知らないうちに日陰ちゃんもスピカに誘導されてるのかも
しれない、とか考えちゃってさ……』
とか言っていた。
そうだった、あの人たちはおかしい。
おかしさは―――光源によるものなのか?
なんだか総ての責任を光源に押し付けているような気がして悪いが、そんな気にもなる。
恒星は光源に、誘導されているのだろうか?
そうなると、ちょっとプロキオンやベガも脅威だったり。
こいつらに限ってそんなことは無いと思いらいけど。
『裏切られてからじゃ遅いんだよ』――――経験者・屑の言葉は重いのだった。
で、まあ状況説明はこれくらいでいいだろう。
「なんだよ屑、元気ないなー、明けましておめでとう?」
「そんな『どうぞー?』みたいなノリで使うなよ……明けましておめでとう」
「とかいいながら屑もそのノリに乗っかるんだね」
なぜ悪目立ちするんだ。
「明けましておめでとうございます…今年もよろしくお願いします」
きちんと頭まで下げて言う三日月。
3人の中で一番マトモで一番マジメだった。
「それに
「だから心読むなって!!」
「読んでないよー、いつものごとく月草は思ってることが駄々漏れなんだよー」
え!?まだその設定生きてたの!?
じゃあ俺、これまでのシリアスシーンっぽいところとかも、駄々漏れだったのだろうか?
駄々漏れだったら悲しすぎる。俺の方が悪目立ちじゃん。
三日月に謝って、ようやく次の話題へ。
「今日わざわざ初詣をしようと言い出したのは、他でもない!なんだと思う?
はい、屑、答えてー10秒以内にー。はい、いーち」
突然の指名でカウントダウンだった。
三日月のこのテンションはどういうノリなんだろう。
「にーぃ、さーん、しーぃ、ごぉーぉ」
「え…!?三日月だし……いつものノリでまた」
「ろーく、78910!」
「え!?」
後半めっちゃ早かった。
答えの阻止としか思えない超高速だった。
「ぶぶー、残念でしたー。正解は天体観測―」
「あ……う、うん、残念―」
屑の対応が大人だ。小さい
三日月って天体観測大好きすぎるだろ。
「今日は1月4日だよ!1年の初めを飾る流星群・四分儀座流星群の極大の日!」
「四分儀座?……三大流星群のアレか?」
俺が言ったらびっくりされた。
「なんで月草がそんなことを言えるほどの知識を持ってんの……」
「さっすが私っ!教育の
本当にこの人たち友達か、と疑いそうになるくらい俺の心は傷を負った。
案外俺はデリケートなんだぞ。
「四分儀座っていうのは無いんだけどね、昔、放射点の近くに『壁面四分儀座』ってのがあったから由来してるんだって!今は近くに『竜座流星群』があるから別名で『竜座ι《イオタ》流星群』とか呼ばれるけど、正式名はこっち!」
なにやら難しい話だった。
三日月は嬉々として続ける。
「放射点を『牛飼い座』と『竜座』がはさんでるんだ。なのに牛飼い座はガンスルーされてるんだよ?可哀想だよねー」
知るか。
とにかくそんなこんなで紆余曲折、天体観測に行くことが決定した。
「えっと、今、朝だよ?」
「うん。それがどうかしたの?」
三日月が首をかしげて問う。
「俺には分かるぞ?三日月、こんな早くから集まって天体観測に備えるのか?
いくらなんでも早すぎるだろ?」
「いや、月草、俺は着物のまま行くつもりなのかと」
「そっち!?」
いやいや冗談だよ、と屑は手をひらひらさせて誤解を解く。
そりゃそうだ、『朝』と『着物』に共通点は無い。
……疲れてしまうことを考慮したのかな?
「私着替えに帰ろうかなー」
「分かってたならどうして着物で来た!?」
「いやあ、せっかく持ってるんだし、見せびらかそうかと」
見せびらかしたかったのか。
「さて、と。じゃあ着替えに変えるけど、2人はどうする?」
「俺ら?ここで待ってるよ。屑は?」
「うん、俺も」
じゃあそういうことで、解散ね!と三日月は小走りで去って行く。
忙しい奴だ、まったく。
気を使って2人きりにしてくれたのではないか、と一瞬思うけど。
考えすぎ、考えすぎ。
「はー、することは特に無いよなー」
「そうだなー」
文字通り暇人。
ふと見ると、ぞろぞろ、とスーツの男たちが歩いているのが見えた。
どこから来たんだろう、と悠長に考えている俺を見て、男の一人が走ってきた!
「あいつらだ!」
「捕まえろ!!」
「「ふええっ!?」」
たくさんのスーツ姿のゴツい男の人たちが。
俺と屑を指さし、ダッシュでやってきた。
捕まえる!?冗談じゃない!
「屑、お前何かしたんじゃないのか!?」
「俺!?心当たりは………きっと無いよ!!」
「なんで2,3個はあるかも、みたいに含みを持たせて言うんだよ!?」
「だって俺、ちょっと色々悪いこと、しちゃったし」
心当たりがバリバリありそうだった。
逃げない方がよかったかもしれなかった。
「月草はどうなのさ!?」
「俺、前世に何かしたのかな?」
「心当たりが全く無かったんだな!幸せな人生送れてるんだな、オイ!」
「なんで屑キレてんの!?」
前世ネタはお嫌いのようだった。
知らないけどさ。
「コレ、どこに向かってるんだ?」
「……察しろよ!!」
「え、あのさ、まさかとは思うけど……」
「読みが良いなあ屑。そう、行き当たりばったり、無計画だ。」
「最悪だああぁっ!!」
雄たけびを上げられた。
「って、月草後ろ!」
「…え?」
スーツ姿の男の顔が、お決まりのパターンのようにあった。
あーあ、捕まっちゃった。
何となく『逃走中』を思い出しながらも、そう思った。
…………………………………………………。
………………。
……………………………。
…………。
……え、っと。
あたり一面、見渡す限りが真っ暗闇だった。
一筋の希望の光(希望以外もだけど)も見えない。
意識を取り戻した俺は、ガンガン言う頭を軽くたたきながら辺りを見回しつつ。
はてさて、ここはどこだろうか?
のんきかも知れないけど、第一に考えた。
あーそうだ、スーツのイカツイおっさんに車に乗せられて、抵抗したら気絶させられて。
新年明けたばかりなのに、なんで俺はこうなんだろ。
新年に早くも暗雲。
「ん……あ、あれ?月草?」
「屑、意識が戻ったのか」
俺のそばにいたらしく、屑の声がそばでした。
「んあー、そっか俺ら……捕まっちゃったんだな」
「これって誘拐だよな?」
「そうだねー。三日月がびっくりしちゃうねー」
「いや、三日月なら怒るんじゃないか?『何でいないの!?』って」
そうかもねー、と屑は笑う。
と、まあ2人で現実逃避を試みたが。
何も現実は変わらなかった。
そんなもんだと思ったけどね。
だんだんマトモに考えられるようになって来た。
「ここから脱出、したくないか?」
「ここに居座り続ける気なんて最初から無いよ」
屑の切り返しが痛烈。
「うーん…明かりが無いもんなあ…」
「目を慣らそう。慣れたら何か見えるかも」
と自分でも言いつつ、コレだけ時間が経っても自分自身の姿すら見えないのだから、慣らすなんて無理な考えだろう、とセルフつっこみ。
「あ、月草ってせっかく恒星なんだし、プロキオンに頼んだら?」
<呼ばれて飛び出るボクはすぐさま登場、ちゃらりららーん!>
え……そのキャラは何?
ちょっとびっくりしたけど、プロキオンいわくジョークみたいなものらしく。
<驚いた?>
ドヤ顔なのがちょっと気に食わない。
「プロキオン、辺りの様子を見てきてくれないか?」
<え!?つかいっぱ!?ひっどい月草!!>
いや、そうじゃなくて。
「光源ってなんでもできるじゃん?見てきてよ、そこら辺くらい」
<いや、屑、何でもはできないよ何でもは…>
俺もその通りだと思う。
結果的にプロキオンはぶつくさ言いつつも行ってくれた。
案外、義理堅い優しい子なのだ。
「ここってもしかすると、神社かも」
「神社?」
「うん。“
妙に屑がくわしかった。
「鶴と亀って……ドラゴンボールかよ」
「……この状況下でよくそんなことが言えるね」
「ゴメンナサイ」
確かに関係なさ過ぎたかもしれないけど。
<ただいまー>
プロキオンが帰ってきた。足取りが軽い。
「どうだった?」
<うん、ニハルちゃんがいたんだ!出してくれるって!>
「「ニハルちゃん?」」
聞きなれない名前に首をかしげる。
<うん、兎座を形作る星のひとつ――――ニハル>
顔いっぱいの素晴らしい笑みのプロキオン。
きっとその、ニハルちゃんも悪い光源じゃないんだろう。
……ん、光源?
きぃぃぃぃぃ、ときしんだ音がする。
「もしかしてその、ニハルちゃんって……」
「そう、ニハルは私の光源だよ」
扉を開け放ち、やって来てそう言う人物。
銀河にして光源をいまだ明かしていない、自称平等主義者。
へへへ、と彼女は笑った。
「屑くん、おひさー。君が寝返った……私的には“戻った”だと思うんだけど
……まあとにかくそのせいで、日陰ちゃんが君たちをお呼びなのねー」
だからちょっと強引だったけど、来てもらったの。
と、枯草さんは無邪気に言う。
銀河の資金源でもある彼女ならばスーツ姿の男……簡単に雇えただろうなあ。
世の中が嫌だ。
「抵抗しないでね?知らない仲でもないし、拘束しないであげてるんだから、
むしろ感謝して欲しいね。三日月ちゃんも連れてきてないんだし」
ね、と無邪気な笑顔と共に言う。
全然無邪気じゃないんだけど。
「まあ、いざとなったらアレだよ、武力の行使?」
「何で疑問系なんですか」
<ニハルちゃんに武器を持たせる気!?>
え、プロキオンそこ!?
「あー、プロキオンは知ってるのか。だったら話は光速だね!音速だね!
そうそう、あの子に武器を渡して欲しくなかったらキビキビ動いて!」
ご機嫌そうに言う彼女。
「おいプロキオン、なんでそんなにびびってんだ?」
<月草は知らないからだよ!ニハルちゃんは普段は内気なんだけど、
武器を持つと、特に銃……ね、キャラが変わるんだよ、急激に>
それは人をガンガン殺しちゃう系統のキャラになるらしく。
そりゃ武器、持たせたくないな……。
「分かりましたよ」
「そうだね。……枯草さん、仮にも俺は今、恒星じゃないんで、俺だけでも安全を確保してはもらえないんですか?」
屑がひどかった。
友達の心配よりも自分の心配なのな。
「あー、そっか…そうだったね、忘れてたよ。じゃあただの知識人、か」
「その通りです。もっとも、こんな知識必要ありませんけど」
「うん、屑くんの安全ね…そこは私の今日のおやつにかけて護ってあげる」
おやつと同等……おやつの価値って、人によると思うんだが、どうだろうか。
けれども屑は『そうですか、有難うございますそれは安心です』と例のごとく例のように
無表情で礼を言った。
お礼くらい笑顔でしたら良いのに。
そんなこんなで枯草さんと移動中。
もう何がなんだか手一杯で頭も一杯だ。
つまりはクタクタ。
「いつごろ着くんです?」
「何言ってんの月草くん、バテるには若さが足りないんじゃない?」
「若さって補給できるものなんですか?」
「…………」
俺の純粋な問いに、枯草さんは答えなかった。
「出来るものなら、補給したいんですけどね、俺も」
何でこんな30代後半男性の言いそうな言葉を男子高校生が言わなきゃならないのだろう。
体育は苦手だ。
「さて屑くん、問題です」
枯草さんは絡みづらい俺(自覚済みだから心に傷なんか負わない)から屑に話し相手を変えた。
妥当な判断、正常な判断、当たり前の結果である…寂しいなんて思ってないんだからな!
「これからどこに行くでしょう?」
「……さっき自分で『日陰ちゃんのいる所』みたいなことを言ってませんでしたか?」
「いいじゃんいいじゃん、想像力は幾つに成っても大切だよ!偏った考えだと就職した時に困るよ!発想力を試してるんだよ、さあさあ答えて!」
就職した先を敵に取られた。
人質の選択がシビア。
「そうですねー……旧天文台?」
「はっ……い、一発正解とか……」
枯草さんの大袈裟としか思えないほど大きなリアクション。
「で、でもね!さっき『答えになっていないようで答えになっている答え』を
屑くんは言ってたもん!だからこれは一発正解じゃない!うん、そう!」
一発正解かどうかがそんなに気になるのか。
なんでですか、枯草さん。
何となく、きっと大した理由なんて無いんだろうなー、と思う。
確証がないし勘なのに、そんな気がしてならないのは枯草さんの人柄によるものなのか、なんなのか。
「これから旧天文台に行きまーす。そこに数々のトラップや刺客がいるかもだけど、
きっと2人なら大丈夫!私は2人を信じてるからね!」
一体どこをどうやって信じられたのだろう。
俺たち互いに裏切りあってなかったっけ。
「じゃあ、そういうことで!」
「どういうことで!?」
枯草さんは去っていった。
まさかの取り残された状況下である。
枯草さん……場所の話をしたのは自分たちだけででも行けるように、か。
「どうする、月草?」
「三日月に相談するか?」
「……正気?」
「ごめんごめん嘘」
困ったら誰かに相談、と思ったけど確かに三日月に相談するのは悪手が過ぎる。
そんなに怒ると思わなかったけどな。
「しっかしなあ…でもまあ、動かないわけにもいかないだろう。
枯草さん、“刺客”とか物騒なこと言ってたけど、月草大丈夫?」
「えー、だいじょばないだいじょばない!屑が何とかしてくれない?」
「………俺、一般人」
そっぽ向く俺。
はー、と屑がため息を吐いた。
「行くしかないんだ、駄弁ってたって状況は良くならない。早く行ってしまおうぜ?」
「そうだな……」
大きなため息が自然と落ちた。
戦闘パートは三日月に一任しているのにどうしてあいつはいないんだ。
「ところで、どっちに行ったら良いんだ?自慢じゃないが、俺は土地勘が無いぞ」
「月草って本当に現地住民……?」
「現地住民って……“生まれ育った”って言ってくれよ。なんだか異邦人みたいじゃないか、俺」
「そうか?」
「俺も人の子と言えないけど、屑も日本語がへたくそだよな」
話が進まない。
屑とまた会話できるようになったのは嬉しいが、会話が進まなくては意味が無い。
「どこをどう行く?」
「ああ、そんな話だったね……うん、」
屑は四方をくるくる、と目を細めて見回した。
「こっちに行こう」
何で?
屑が指した先にあったのは―――他の三方となんら変わりない森の広がる道なき道。
「何でって……こっちから人の気配がするから」
「人の気配!?そんな高度そうな事が分かるのか!?」
む、と屑が顔をしかめる。
「俺って長い長い修行パートを終えてるんだぜ?あんな先生に教わって…
俺がどれだけ過酷な修行に耐えたと思ってるんだよ……」
「大丈夫大丈夫、その頑張りは短編になるよきっとたぶん、わかんないけど」
「適当なことばっかり言うな!!」
屑は出番やら何やらには、特に興味があるわけでもなさそうだった。
辛かったんだろうな、修行パート……。
殺人技術を学ぶ、ってどんなだよ。
「じゃあ聞くけど、なんで人のいる、つまり刺客のいる方向に行くんだ?」
「決まってるだろ、あっちに行って欲しくないから、刺客がいるんだろ?
運良く道を聞けるかもしれないし」
マトモな答えだった。
さすが修行パートを完遂し、技術を身につけただけはある。
「ん?恒星よりも殺人技術持ってる方が特殊だし、強くないか…?」
「何言ってるんだ月草、俺が強い?そんなわけないだろ」
嘘吐きがここにいます。
「まあいいや…ラチがあかないし,ね。遊びすぎたようだ」
「おー月草、ちゃんとしたこと言えるようになったなあ」
さあ、飛ばしていこう。
時短は俺たちにとっても、地球にとってもいい事なんだから。
「屑、刺客さんたちのことは頼んだよ」
「はあ!?」
ふざけんな、と言い出しそうな屑。
「だってさあ、考えてみなくても分かることだろ?
俺とプロキオン、ガードしかできないんだよ?
刺客とかどうやって倒すんだよ、倒せるわけ無いじゃん」
「はあ?捨て身で突っ込むという手は使わないのか?」
「ちょっと、俺たち友達だよな!?」
捨て身とか言われてしまった。
どうして日常生活においてリアルに“身を捨て”なければならないのだろう……。
前世にどんな悪いことしたんだろう、俺。
「仕方ないなあ。シャイでツンデレでへタレでバカでアホでドジでマヌケでその上さらに物忘れがひどく無駄に無駄なことを考えてしまう、可哀想な月草のために、俺が先人きって行って上げよう」
……お礼を言うべきなのは分かるが、なんか言いたくなくなった。
素手なのに刺客を次々と倒していく屑。
そんな屑を傍観者ぶりながら見る俺。
「しっかし手助けとか、全然必要なさそうだよなー」
屑って強いなあ、さすがに修行パート、長かったもんな。
可哀想かもしれないけれど、屑が強くなりすぎている。
それこそ、常人では太刀打ちできないくらいに。
常人を殺せるくらいに。
だから俺に出番は無い。
<ポラリスがやったわけじゃないんだ……>
不意にプロキオンが独り言のように言った。
「は?ポラリスがやったわけじゃない?何の話だ?」
<いや、この屑の“成果”について>
この際に指す“成果”は、屑の実力のこと。
<ポラリスはね、ナイフ使いなんだ……屑は一応分類わけすると、“体術”をやってるじゃん>
「はぁ、そうだなぁ……」
体術もナイフ使いもどう違うのか分からない。
刃物を持ってるか持ってないかの違い……じゃ、ないんだろうなきっと。
<だから屑は、本当に文字通りに“誰の力も借りずに”、先生から学んで、身に付けていったんだよ>
自分の光源に甘んじることも無く。
自分自身の力だけで、物事を習得する。
“当たり前じゃん!”と思うけれど。
力を持ちながら使わないのは、敬うに値する。
あいつは、あの光源が付いたからあんなに強くなった、わけじゃない。
ただの努力と根性の結果論。
「屑は本当に……努力家だけど、素直じゃないよな」
自分の力なんだし、光源に少しくらい頼ってもよさそうなものを。
ストイックっていうか、もう色々超越されてる気がする。
<月草も少しは見習ったら?似てる似てるって表記する割りに似てる所あんまりないよね>
「そんなこと言うなって」
図星です。痛いところを突かれた。
「うわっ!?」
屑の声が不意に聞こえたのは、そんな時だった。
今まで順調に進んできて何も言わなかった屑が、不意に声を上げた。
「どうした!?」
「いや、ちょっ……!?タンマタンマ!!」
タンマとか通用するの?
「プロキオン、ちょっと屑を見て来てくれよ」
<……月草が暴君と化しつつあるー。そのうちアブナイ系なことをやらされるよー>
「…………プロキオン、殴っていい?」
<ぐーでパンチは暴力的思考だよぅ!分かってる!行くから!!>
どうしてプロキオン、あんなこと言ったんだろう…。
一体誰にそんなことを吹き込まれたのか。
アイツ、純粋無垢でいい奴だったのに……。
まあいいや、屑の元へと俺も向かう。
何だかんだ友達だし、アイツにもピンチとか油断があるんだろうな。
あった方が人間味にあふれてる感じで、むしろグッジョブ。
「どうしたー、屑?」
「来るなっ、月草っ!!」
屑が声を、鋭くした。
プロキオンは……?と見回すと、あいつ何気に屑の光源っぽく、屑の付近をうろついてた。
何やってんだよ、あいつは。
「ははは、健気だね……ふーん、そっか、2人なんだ」
呟いた、屑と対立するようにたたずむ人物。
「その言い方、まるで枯草さんとチームプレーしていないように聞こえますけど」
「うん、チームプレーじゃないもん」
凩さんは俺たちにとって不利になる言葉を続けた。
「だって私の独断だもん―――」
チームの足並みがそろっていない。
それは時に、敵にさえ害をなす荒業……“奇策”。
敵を欺くには、まず味方から、その言葉どおりである。
「それじゃあ屑くん、いっちょ殺し合いでもしませんか?」
「それはそれは。この状況で逃れられないことが分かっていて言うなんて、
本当に相変わらずあなたは、悪趣味ですね」
屑が軽く返す。
「余計なお世話だよ」
凩さんが言った、と思ったら手が変形していた。
完全なる“
「屑、避けろっ!!」
「分かってる!!」
一目散に凩さんから逃げる屑。
無様だとか見苦しいとか、そんなことには構っていられない。
だって今、戦闘中なんだもん。
「へー、じゃあ叩き潰しちゃおうか、な、あ!!」
がつんがつんがつん!
凩さんが両腕を振り回し、周りの木々を薙ぎ払う。
倒れる木のせいで視界が一瞬奪われる……。
「屑!前、前!!」
「っ、うわ!?」
横に跳んで難を逃れる屑。
ヒヤヒヤする試合展開だ、凩さんはこれまでの“刺客”とは、やはり『格』が違うのだろう。屑と互角、それ以上だ。
恒星だから、っていうのもあるけど。
「どうしよう―――――あっ!」
俺は策士じゃないけど傍観者にしては『考えている』人だ。
考えざるを得ない人、が正しいのだけれど、そんなことはどうでもいい。
相手の意表を突く……この考えなら、凩さんにも通用する、かも。
前回と似たような手だけれど。
二度あることは三度ある、っていうし!!
いや、まだ一回しかやってないから今回が二度目なんだけどさ。
「屑、ちゃんと前見てろ!!」
「分かってるよ――――っ、うわっ!!」
このままならきっと……絶対に勝てる。
「頑張れ、屑」
総ては屑にかかってる。
「――――っ、と、よし」
幾度目かになる腕を避けて、小さく呟く屑。
「このまま避けられたら……」
「……あ、れ、ぇ?」
何かに気付いたように、凩さんが。
腕を振り続けながら言った。
「もしかして屑くん、待ってるの?」
待ってるの、なんて。
一体何を待っていると思うのだろうか。
まさか……バレた?
二回目だし、仕方ないのかもしれないけれど。
「私が疲れるのを、待っているの?」
「……どうしてそれを?」
屑が答えた。
「だってそうじゃん、ずっと避けてるし。……でもね、あはは、いいお知らせ」
がつんがつん、腕が木々にあたって変な方向に曲がるのも気にせずに。
振り上げ続けて、凩さんは言う。
「私の契約は『心酔』。自分の存在すら忘れてでも、一人の人に付いていくの。
屑くんの『自己中』とは違うね。屑くんは自分以外、見えなくなっちゃうから」
「でも……似ていますね」
「やっぱり?私もそう思うよ」
あはは、と笑いながらまた、凩さんは腕を振り上げる。
「私が“誰か”を思い続けていればいるほど、私に意識はなくなるの。
だから私はどんな痛みも感じない。どんな恐怖も、どんな感覚も」
続けてまた、あははと笑う。
「どんな感覚も、です、か」
屑が反復してそして――シニカルに笑う。
「そんなことが、できるんですか?あなたに」
「な、にを?言ってるの、か、な?」
がつんがつんがつん。
また屑の近くの木々がなぎ倒される。
森林破壊、反対。
「光源、と、の契、約は、絶対な、んだよ?それ、は、屑くんも、分かって、るでしょ?」
がつんがつん。
腕を振り上げて、おろす。
そんな動作をしながら話そうとするので、どうしても言葉が途切れる。
けれど、決して止まらないし、息切れもしない。
盲目的に、人は人を想えるのか。
「そうですね……俺だって自分だけしか見えてなくて、
周りにひどいことしたり言ったり、しましたから、分かります」
「じゃあ、な、んでそん、なこと?」
屑は凩さんの腕が振り下ろすのを見て。
「光源との契約は、意外ともろいんです」
避けなかった。
「……え!?」
凩さんが自分の振り上げた腕が当たりそうな屑に対して、困惑する。
戸惑ってしまう。
どうして……なぜ、と。
今まで避けていたのだから。1度目は俺が屑に対してやったんだ。
だから屑が、気付かないはずがなかったんだ―――。
「いっけえ、プロキオン!!」
<分かってるよぉっ!!>
凩さんの両腕が、初めて屑を捕らえる。
がつんがつん!!
盛大に音を立てて衝撃がこちらに伝わってくるほどだけれど……。
「……はは」
屑は、無事だった。
「これで――これで、分かりましたよね?人間って意外と、制約を簡単に破れるんですよ」
それはきっと、『してはいけない』と言われたことほどやりたくなる、そんな原理と一緒。
……違うか。
「あなたは気が付くべきだったんですよ?プロキオンがずっと俺のそばにいたことに」
プロキオンは、俺の光源だもんな。
「まあ、“契約を破れる”って言ったのは嘘で、ただ契約に“驚き”が含まれて
いなかっただけだとおもいますけどね」
屑は一体どちらが本当なのか分からないようなことを言って。
無表情で凩さんに近づく。
「長々と話すつもりは無いんでそれじゃあ凩さん」
ごそごそ、と自分のポケットを探って、屑が取り出したのは。
ハサミくらいの大きさのナイフだった。
「さようなら」
屑がナイフを手に腕を振り上げる―――。
「……そっか」
凩さんは小さな小さな声で。
誰に聞かせると言うわけでもなく、誰に言いたいと言うわけでもなく、呟く。
「ポラリスと仲、悪かったわけじゃなかったんだね」
互いに互いを嫌ってはいたけれど。
それでもそれは同属嫌悪のような、裏返せば“仲良し”。
ポラリスはナイフ遣いだったから。
「よかった」
屑の振り上げたナイフが凩さんの喉元に触れる。
「待てよ!!」
「……月草」
屑が目の前で。
本当に……知らない人みたいに。
「何する、気、だったんだ?」
「…………は?」
心底分からない、とでも言うかのように。
屑は首をかしげる。
凩さんは気を失っていた。
「どうして止めるの?後少しなのに」
「どうして、って」
そんなこと決まってるじゃないか?
当たり前のこと、聞くなよな。
頼むから、さ。
「凩さんは……悪くないだろう?」
「何言ってんの、この人は“敵”だよ?現に俺たちを殺そうとしてきた」
「だけど……」
「この人の意思は固いよ?きっとまた、殺しに来る。
殺られる前に殺らなきゃ、死ぬのは俺らかも知れないんだぜ?」
それでも。
それでも俺は。
屑に“人を殺せ”なんて言えないよ?
「もう、いいじゃないか。屑は……これ以上、“汚れ役”をしなくてもいいんだよ!!」
「俺は“汚れ役”だよ!!」
驚いた。
屑がそんなことを、言うなんて。
これじゃあ……俺が言わせてしまったようなモノだ。
俺のせいだ。
「もうどうせ汚れているんだから、だからせめて月草は」
月草と三日月は。
「友達は……友達くらい、守れるようになりたいんだよ!!」
絶叫のようだった。
最初から汚れているから、だから汚れても構わない。
汚れても構わないほど、守りたいものがあるから。
そんな対象に選ばれるなんて、成るなんて嬉しいけれど。
身に余りそうなほどの光栄なことだけれど。
だけど、そこまでして俺は。
俺は屑を、壊したくは無いんだ。
壊れてほしくなんて、ないんだ。
「いいよ、もう」
「……?」
「いいよ、って、もう」
もう終わりにしよう?
「友達は、俺にとっての“友達”は対等な存在なんだよ。なんでそんな」
頼りすぎちゃあダメだよ。
「言うだろ?“親しき仲にも礼儀あり”って」
頼りすぎちゃ、礼儀が無いよね。
いや、色々と間違っている気はするけれど。
他になんて言ったら良いのか、分からない。
たくさんありすぎて、なさすぎて。
俺のボキャブラリーは豊富ではないのだから。
「それでもっ」
「じゃあさ、屑」
勝手に言葉をさえぎって続ける。
提案というか、交換条件というか。
俺にそんなことをする権利があるのか分からないけれど。
「ここは俺に免じて……止めてくれないか?」
俺に免じて、なんて、通用するか分からないけれど。
それ以前に俺の言葉を、願いを、聞き入れてもらえるかどうかも分からないけれど。
それでもやっぱり、俺は。
屑に、“人殺し”なんて重いものを、背負ってほしくない。
背負ってまで守ってもらいたくない。
そこまでされるのは……逆に迷惑だ。
嬉しすぎて恐怖しそうになる。
これは狂愛……狂友情?
俺だって屑の立場に立てば、人を殺すことをなんとも思わなくなるのかもしれない。
でも俺は自分勝手だけれど、屑には人を殺してほしくなんてなかった。
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